子の冒険的な挑戦を心配するのは、親の自然な反応
親は、子が冒険的なことに挑戦したいと宣言すると、“応援したい気持ち”より“心配”の気持ちの方が先走るものです。そのため、「そんなのは無理よ」「できっこない」「やめておきなさい」といった言葉が口を突きやすくなります。親に反対されると、アグレッシブな子は「絶対やってやる!」とますます闘志を燃やすかもしれませんが、控えめな子は「やっぱり自分には無理なのかな……」と逡巡したり、諦めたりすることが多いでしょう。しかし、親の反対を真に受け過ぎない方がよいのも事実です。なぜなら、親は子がいくつになっても、冒険的な挑戦をすることに対してネガティブに反応をするものだからです。
では、なぜ親は子の冒険的な挑戦に対して、過剰に心配になってしまうのでしょうか。いくつかの理由が考えられますが、ここでは、カウンセラーの視点から私が考える3つの理由を解説したいと思います。
親が子の冒険に反対する 理由1:家族システムの変化に対する不安やあせり
まず、親子は「家族」という一つのシステムの下で長年生活していますが、家族システムには、一つの安定した形態が変わろうとするとき、「元の形に戻そう」とする力が自然に働きます。そのため、子の自立などのタイミングで、親からネガティブな発言が生まれやすくなるのです。
これは、家族システムが変わる際の必然的な反応です。したがって、親が子の挑戦に反対する理由の一つには、家族システムの変化への不安があるのではないか、と考えてみるとよいでしょう。「家族システム」については、「家族が嫌い…雰囲気の悪い家庭を変える行動のポイント」で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
親が子の冒険に反対する 理由2:親には社会の中で頑張る子の姿が見えにくい
子は一歩社会に出ると、所属先に適応するために頑張り、社会の中で期待される生き方、自分らしく生きる方法を、試行錯誤で模索しているのです。
しかし、こうして外で頑張る子たちは、家庭の中では外では見せない姿を家族にさらしています。仲間をまとめるリーダー役として通っている子が、家ではダラダラしている。きれい好きのしっかり者として通っている子が、家では部屋の片づけ一つしない。このように、子は多くの場合、外での自分と家での自分を使い分けているものです。
これは「性格に裏表がある」ためではなく、「社会で頑張る自分」「家でくつろぐ自分」とオン・オフをつけ、ストレスをケアしているためです。しかし、親は常に家における姿だけを見ているため、子が冒険的な挑戦したいを宣言すると「そんな様子じゃ、できっこないのでは……」と思ってしまうことがあるのです。
親が子の冒険に反対する 理由3:親世代と子世代の価値観のギャップが大きい
たとえば私が20代までの頃には、男性は一流大学を出て一流企業に就職、女性は高学歴・高収入のパートナーを得て結婚するのが、男女それぞれの幸せだという価値観が当たり前のように語られていました。しかし、今では人の幸せの価値観は様々で、「一流企業への就職や高収入の相手との結婚=幸せ」という図式は成り立たないことを、もちろん親世代も理解しています。
しかし、子ども世代の価値観はそれ以上にもっと変化しています。進学や就職などの実用世界には価値を置かず、インターネットの中でバーチャルな世界を構築し、その世界でたくさんの人とつながったり、ネットの中だけでビジネスを展開することの方にリアリティを感じ、その世界を第一にして生きていきたいと願う子がたくさんいるような時代です。
親世代には、このような子ども世代の価値観を理解できないことが多いものです。そのため、子はメジャーな夢を語っているつもりでも、親にはまったく取り合ってもらえないことが少なくないのです。
親の意見も参考にしつつ、よりよい目標設定をしていくことが大切
以上のように、親が子の挑戦に対してネガティブな反応を示すのは、(1)家族システムの変化に対する不安やあせり、(2)親には社会の中で頑張る子の姿が見えにくい、(3)親世代と子世代の価値観のギャップが大きい、といった3つの問題が影響しているものと考えられます。
したがって、子は自分の挑戦に対して親から「できっこない」と反対されたときに、親の心理が上の3つから生じているのではないか、アセスメントしてみるのがよいでしょう。そして、親の反対を鵜呑みにするのではなく、なぜ自分はその夢に挑戦したいのかという理由、挑戦によるリスクと得られるメリットなどを、親が納得できるように説明することが重要です。
人生経験の長い親の意見には、貴重な知恵が詰まっています。親から反対されたときに、「どうせ分かってもらえない」と話し合いを遮断するのではなく、親の意見も参考に取り入れながら、よりよい目標設定をしていくことがとても大切です。