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【8月の注目!ミュージカル】
『キャッツ』←キャッツ・シアター内覧会レポート&観劇レポートをUP!(本頁)
『ゴースト』←秋元才加さんインタビュー&観劇レポートをUP!(2頁)
『in touch』←三森千愛さん、田村良太さんインタビュー&観劇レポートをUP!(3頁)
『コーラスライン』←観劇レポートをUP!(4頁)
『オペラ座の怪人 ケン・ヒル版』←観劇レポートをUP!(5頁)
【別途特集したミュージカル】
『アニー』←藤本隆宏さん、青柳塁斗さんインタビュー、観劇レポートをUP!
『泣いた赤鬼』←「親子で(も)観たいミュージカル」で特集!
『宝塚BOYS』←良知真次さんインタビューをUP!
『タイタニック』←藤岡正明さん、相葉裕樹さんはじめ出演者インタビューをUP!
日本のエンタメを変えた作品が9年ぶりに東京へ『キャッツ』
8月11日開幕(2019年1月31日分までチケット発売中)=キャッツ・シアター(東京・大井町)【『キャッツ』見どころ】
『キャッツ』撮影:堀勝志古
『エビータ』『オペラ座の怪人』等で知られる作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーが、T.S.エリオットの詩集『ポッサムおじさんの猫とつきあう法』を原作に、年に一度、“ジェリクル・キャッツ”を選ぶために都会のゴミ捨て場に集まった猫たちの生きざまを描いた本作。娼婦猫グリザベラが歌う「メモリー」に代表される名曲はもとより、山田卓さん、加藤敬二さんによるダイナミックな振付、劇場内を彩るゴミのオブジェなど、魅力満載。電飾の吊り下げられた場内には“お祭り”ムードもあり、家族連れやグループ観劇にもぴったりの演目となっています。
観劇レポート【よりシャープに、さらにダイナミックに。進化し続ける日本版『キャッツ』】
スリリングにして華やぎに満ちたオーヴァーチュア(序曲)に耳を傾けていると、暗闇のなか突然、客席通路のあちこちにチカチカと光る眼をつけた猫たちが現れ、観客を驚かせる……。
お馴染みの演出で始まった今回の東京『キャッツ』。しかし舞台を観進めるうち、以前から本作を観ている観客は、何度もはっとさられることでしょう。98年に大規模なヴァージョンアップ(最も大きな変化は、“猫の野生味を追求した”加藤敬二さんによる新振付)を経た『キャッツ』は、その後一定の形を保ってきたものの、今回は製作発表で言及された大きな変更に加え、演出・音楽・照明などの細部で、いくつもの変化が見受けられます。
”童心に帰ったような楽しさ”がアップ
製作発表で言及されていた“大きな変更”部分のうち、おばさん猫・ジェニエニドッツがゴキブリに大掃除をさせるナンバーでは、全員が賑やかにタップを踏むのみならず、ゴキブリ役が体のあちこちにつけた板をボディ・パーカッションよろしく鳴らし、童心に帰ったような楽しさを加味。久々に復活した「ランパスキャット~けんか猫」では、仇同士の犬たちが争っているところに、青マントに赤目というアメコミから抜け出したような扮装のランパスキャットが登場。その異様さに気おされて事態がおさまるまでを“ワン、キャン、ワン、キャン”のコーラスとともにリーダー猫マンカストラップが歌い、少々風変わりなテイストが加わります。
また泥棒猫カップルのマンゴジェリーとランペルティーザのナンバーでは、アクロバティックでジェスチャーのような大きな動きが多く、確かに加藤敬二さんがおっしゃっていたように、この激しい振付をこなしながら伸びやかに歌うキャスト(この日は玉井晴章さん、山中由貴さん)には驚嘆させられるばかりです。
その他の改変としては、例えば序盤の「ネーミング・オブ・キャッツ」。猫たちが“猫に名前を付けるのは、とても難しいことなのです……”と語り始めるくだりがかなりゆったりと始まり、客電(客席照明)もフルになっています。これは前回の大阪公演からの変更だそうで、明るくなった客席で通路に降りて来た猫たちに凝視される観客はどきりとさせられ、彼らの言葉を真剣に受け止めずにはいられないでしょう。
バストファジョーンズはより饒舌に
またセクシーなつっぱり猫ラム・タム・タガーは従来、間奏でステージ上に女性客を上げ、デュエットを踊っていましたが、今回は客席通路でダンス。政治家猫のバストファジョーンズのナンバーでは、ソロ部分に“季節ごとに決まってる、お気に入りのレストラン……”等、数行の歌詞が加わり、全体に微妙にスピードアップしています。
さらに、猫たちの宴「ジェリクル舞踏会」に迷い込んだ娼婦猫グリザベラに対して「まさか本当にこの女が」と皆が噂をするナンバーでは、以前は「この~女が~」とジャジーに伸ばして歌われていましたが、今回は「女がっ」と短く切り、絶句しているかのような表現に変化。
2幕終盤、選ばれたただ一匹の猫を皆が天上へと送り出すナンバー「天井への旅」では、ゆっくりとしたファンファーレに始まり、ささやくように“の・ぼ・れ、天井へ。光浴びてゆくのだ……”のフレーズを繰り返した後、途中からテンポアップ。コーラスもみるみるうちに、力強くクレッシェンドしてゆきます。この歌唱スタイルは前回の大阪公演からのもので、今回の開幕前に来日した音楽スーパーバイザー、クリステン・ブロジェット氏の稽古でより強調されたとのこと。猫たちの世界を借りた人間賛歌の物語をさらに感動的なものに仕上げています。
卓越したテクニックとカラフルな持ち味で個性豊かな猫たちを好演
いずれ劣らぬ名ダンサー、名歌手のキャストも作品を輝かせ、この日はエネルギッシュで“頼れる兄貴”感たっぷりのマンカストラップ役・加藤迪さん、軸のぶれない美しい連続回転をさらりとこなすマジック猫・ミストフェリーズ役の松出直也さん、シャープな身のこなしと歌声がラム・タム・タガーにぴったりの大嶺巧さん、海賊猫グロールタイガーを破滅に導く悪女猫グリドルボーンをスマートに演じる岡村美南さん、清らかさと甘やかさの同居する歌声が物語の重要な分岐点を象徴する子猫・シラバブ役にふさわしい三代川柚姫さんら、カラフルなキャストが光ります。
日本初演から35年、来年3月には総公演回数10000回を数えるというのに、今も進化を続け、目が離せない劇団四季版『キャッツ』。ロンドンではかつて『キャッツ』の広告に「Now and Forever(今、そして永遠に)」と書かれていましたが、そのキャッチフレーズは今や世界のどこよりもここ日本の『キャッツ』にふさわしい、と言えるのかもしれません。
演出のポイント、シアターの特徴は?!【7月9日 キャッツ・シアター内覧会レポート】
キャッツ・シアターと言えば黒、というイメージですが、今回のキャッツ・シアターは「白」。(C)Marino Matsushima
まずは吉田智誉樹・劇団四季社長が挨拶。これまで960万人を動員してきた本作が、11月11日には35周年、また順調にいけば来年3月には上演1万回を超える予定であることが語られます。
キャッツ・シアター舞台。(C)Marino Matsushima
続いては本作の振付・演出スーパーバイザーの加藤敬二さんが登壇。『キャッツ』の魅力について、「一つには“思い出に彩られたゴミの山の世界観”。もう一つは“猫たちによる圧倒的パフォーマンス”。人生を変えうる演目だし、僕自身人生が変わりました。一歩シアターに踏み入れた瞬間に人生を変えうる、特別な世界観だと思います。また、僕は20代の頃から関わってきましたが、年代によってさまざまな見方が出来ると感じています。本作の(T.S.エリオットによる)詩、そして演出は世代によって、見方が変わってくると思うんですね」と語ります。
今回の上演ポイントとしては、「劇団四季の『キャッツ』は98年に福岡でリニューアルし、300か所以上変更しましたが、さらに今回、楽曲の変更にともない、振付が変わっています。主だったところでは(おばさん猫)ジェニエニドッツのナンバーは全部。また(泥棒猫)マンゴジェリー&ランぺルティーザのナンバーの振りも変えますし、初演で登場した喧嘩猫のランパスキャットのナンバーが久々に復活します」とのこと。稽古場では84年、ブロードウェイの『キャッツ』から本作に関わっている音楽監督のクリステン・ブロージェットさんが現在、来日中で、キャスト一人一人に、四季版のオリジナル演出を尊重しながら丁寧に指導していらっしゃるとのこと。「僕らも一丸となっていっそう引き締まった『キャッツ』をお届けできるのではないかと思います」と熱をこめ、しめくくりました。
会見中、猫たち(ディミータ=松山育恵さん、ボンバルリーナ=山崎遥香さん、タントミール=間辺朋美さん、ヴィクトリア=馬場美根子さん)も登場。(C)Marino Matsushima
続いて本作の美術担当、土屋茂昭さんよりコメント。「入ってきてまず“楽しい”空間を作るのが、僕らの仕事。この劇場の特徴は、『キャッツ』のためだけに作られていて、普通の劇場ならバトンがあっていろいろ吊ったりできるようになっていますが、この劇場にはそういったものはありません」。そのかわり、とばかりにグロールタイガーの機構を、実際に舞台を動かしながら紹介。
グロールタイガーの帆船が前倒しになって現れる様を実演。(C)Marino Matsushima
会見中、マイペースに佇む猫たち。(C)Marino Matsushima
ゴミのオブジェの数々。角度によっては怖く見えるお人形も。(C)Marino Matsushima
四つ葉のクローバーを手に、少々悪戯っぽい表情で語る土屋茂昭さん。(C)Marino Matsushima
続いて質疑応答。「振付変更のポイントについて、詳細を」と問われた加藤敬二さんは「まず、ジェニエニドッツのゴキブリシーン(注・ゴキブリたちに掃除を教える)について。ゴキブリって6本足なので、(これまではタップの足だけで表現していたことを)衣裳の手の部分などにも音のなる仕掛けをして、ボディ・パーカッションというか、6か所で音が出るようにということを考えています。マンゴジェリーたちのナンバーはより激しくなっていて、我ながら(役者たちが)よくそこまで踊りながら歌えるなと思うほどです(笑)」。
フォトセッションでポーズをとる登壇者たち。(C)Marino Matsushima
「キャッツの感動ポイント」を問われ、吉田社長は「場面場面に感動するということはもちろんあるけれど、作品を通して、エンディングで“明日も頑張ろう”と思える。自分の人生を肯定して帰れる。お客様もそう感じていただけると嬉しい」、加藤さんは「全幕どこをとっても感動するけれど、特に、冒頭の”ネーミング・オブ・キャッツ”での問いかけから始まって、最後にオールドデュトロノミーが“猫宣言”をする(までの過程ですね)。その前に皆がグリザベラを(天上へ昇るただ一匹の猫に)選ぶのですが、それは皆が、自分の幸せを犠牲にして人に幸せをあげているということ。だからこそ本作は、猫たち全員が主役なんです。そして最後に猫宣言がある。ここで“なるほどこれがジェリクルなのか”、と感じていただけると思います」。土屋さんは「盆がまわり、タントミールが立ち上がるときのわくわくする感じ、キャッツが始まるぞという瞬間の感じですね。ここが私としては一番大事です」と回答。
ゴミのオブジェの中には、劇場からほど近いしながわ水族館のものも。このほか、東京名物のお菓子の袋なども。(C)Marino Matsushima
『キャッツ』公式サイト
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