“一回きり”のチャンスにすべてを賭ける!
劇団四季『アラジン』出演者オーディション・レポート
1日目「アラジン、ジーニー、ジャスミン」

17日午前の参加者たちをスコットさんが激励。撮影:荒井健

17日午前の参加者たちをスコットさんが激励。撮影:荒井健


*オーディション結果を2ページ目に掲載!*

11月17日午前9時55分。劇団四季の稽古場に、審査団(オリジナル版演出補スコット・テイラーさん、アソシエイト・プロデューサーのアン・クォートさん、音楽監督のマイケル・コザリンさん、プロダクション・スーパーバイザーのクリフォード・シュワルツさんと、加藤敬二さんら、劇団四季の日本版製作チーム)が入場します。その5分後、スコットさんの「Let’s Start!」の声が響き、午前中の受験者たちが呼び入れられました。

足取り軽く、にこやかに入ってくる人もいれば、2階から見ているこちらまで緊張が伝わってくるような、硬い表情の人も。それを見てとってスコットさんが「まずはここまで勝ち抜いて来られ、おめでとう。今日はぜひ最高のものを見せて下さい。私たちみんないい人ですから(意地悪に見たりはしませんよ)」と言い、笑わせます。

場の空気が和んだところで、まずはアラジン役7名の審査(同じく本選に残ったうち、地方巡業中の2名はビデオ審査、1名の外部俳優は翌日審査)。『ライオンキング』でよく見かける若手がずらりと並びますが、ベテランの2枚目の姿もあります。まずは一人ずつ部屋に入り、アラジンの自己紹介的なアップテンポなナンバー「One Jump Ahead」と、「母さんが誇ってくれるような人間になるよ」と固い決意を歌い上げる大ナンバー「Proud of Your Boy」を歌唱。本選まで残った面々とあって歌唱力は全員申し分ないのですが、ナイーブであったり骨太であったりと、持ち味はそれぞれ。「しんみりしないで」「出だしから決意を表に出して」等々、時折スコットが受験者に出す注文を聞いていると、どうやらこの2曲で「世慣れてはいるが芯のある、溌剌とした若者」を体現しているか、に注目しているようです。

続く台詞審査では、ジーニーの秘めた自由願望を知って「そうだ、僕を王子にして!」と言い出すシーン、そして市場で出会ったジャスミンの気を引こうとするシーンを演じます。前者では、ジーニーの望みをしっかりと受け止めたうえで自分の夢を思いつくに至る意識の「折れ」を表現し、後者ではジャスミンに逃げられないよう、とにかくぽんぽんと言葉をかけ続けるのがポイントらしい。同じシーンを何度も見ていると、俳優によって「立てる」言葉もペース配分も微妙に異なり、改めてセリフ術に「これが正解」というものは無いことに気づかされます。

ジーニー役候補の一人、大至さんundefined写真提供:劇団四季

ジーニー役候補の一人、大至さん 撮影:荒井健

アラジン役に続いてはランプの精、ジーニー役の審査。タレントの芋洗坂係長、大至さんも含めた8名のうち、本日は7名が参加します。ジーニーというとアニメ版の声を演じた稀代のエンターテイナー、ロビン・ウィリアムズや巨体のブロードウェイ版オリジナル・キャストのイメージが強烈ですが、今回の日本版では「異界の者であることが表現できれば、体型等にはこだわらない」という前提があるため、本選に残ったのも長身の二枚目、コメディ・センスにたけたベテランなどタイプはさまざま。個性と個性が激突する形で、ジーニーのテーマともいえるナンバー「Friend Like Me」の歌唱、そしてアラジンがランプをこすったことで何千年もの眠りからさめるシーンと、アラジンの審査でも登場した「究極の願い」シーンの台詞審査が行われます。

ジーニー役候補者の一人、芋洗坂係長さんundefined写真提供:劇団四季

ジーニー役候補者の一人、芋洗坂係長さん 撮影:荒井健

アニメ版ジーニーを彷彿とさせるサービス精神で歌舞伎の見得なども取り入れ、場内を笑わせっぱなしの人もいれば、ほんわりとしたオーラで勝負する人などアプローチが分れるなか、筆者が面白いと思ったのが、バリトンの深みある声で「異界」を表現した方。「なるほど、こういうジーニーもありかも!」とひそかに頷いていると、スコットさんはこの候補者に「もう一度やってみましょう。はじめは老人として、次に12歳の女の子、最後はダンスしながら台詞を言うことできる?」と無茶振り。果敢に挑戦する彼の、最後の苦し紛れのポーズには大爆笑が起きました。

スコットさんが台詞審査で何人かにリクエストしていたのが、「究極の願い」シーンでの、「自由への思い」の表現。アラジンに「願いは何か」と尋ねたジーニーが逆に「君なら何を願うか」と聞かれ、ふと自由になりたいという本心を打ち明け、そしてまたもとのエンターテイナー・ジーニーに戻るという変化をきっちり見せてくれ、というのです。これに見事にこたえていたのが、ある中堅俳優。「僕がこの世で一番欲しいのはね……。自由だよ」という台詞には『ユタと不思議な仲間たち』の座敷わらし役のようなペーソスがあり、引き込まれずにはいられませんでした。

それにしてもこの個性豊かな面々の中から、ディズニーは誰を「ジーニーに最もふさわしい」と考えるのでしょう。アラジン役の時には歌が終わると、スコットとマイケルがすぐに顔を見合わせ、頷きあうなどリアクションが分りやすかったのですが、ジーニーについてはよく分らず。彼らの中でも迷いが生じているのかも? 近日中に発表される結果が待ち遠しくなってきました。

時計がきっかり12時を指し、ここでお昼休憩。外部からジーニー役で受験していた芋洗坂係長、大至さんの囲み取材では、お二人とも「知人たちに『ジーニー、ぴったりなんじゃないか』と勧められて受験したが、厳しさを感じた」とのこと。芋洗坂係長さんは歌唱力などの点で「劇団四季に乗り込むにはまだ早かったかな」と振り返っていました。

劇団四季の食堂メニューから。Photo:Marino Matsushima

劇団四季の食堂メニューから。Photo:Marino Matsushima

休憩の間は劇団スタッフに案内され、構内の食堂へ。よく見知ったベテラン、若手の俳優たちが入交じり、ご飯を食べながら楽しそうにおしゃべりをしています。メニューは「本日の定食」に麺類、カレーライス等。午後も身軽に動けるようにとの配慮でしょうか、量は控えめです。筆者は中華のおかずにご飯、味噌汁を組み合わせていただきましたが、お肉の切り方一つを見ても明らかに「手作り」。カウンターからも見える、近所の主婦たちが愛情をこめて作っていることがうかがえます。四季の俳優たちの活力源はこの「おふくろの味」なのですね。

午後はまず、王女ジャスミンの審査。外部の女優2名を含む8名が受験します。午前のようにまずは受験者全員が呼び集められ、スコットさんが「ディズニーはばりばりと仕事をするカンパニーではありますが、あくまでも『楽しく』がモットー。皆さんもぜひこの場を楽しんでください」と、緊張をほぐします。課題は、ジャスミンがまだ見ぬ世界への期待を歌う「These Palace Walls」と「A Whole New World」の2曲。それに市場で泥棒に間違われ、アラジンの「この子ちょっと左巻きなんです」というフォローにあわせて頭のおかしな女性になってみせるコミカルなシーンと、父王に「結婚を強制しないで」と強く言うシーン。一曲目は終盤のクライマックスが2回あり、かなり「馬力」のある声が求められるナンバーですが、皆さん気持ちよくスケール・アップ。2曲目の有名なメロディもしっとりと歌い上げています。

台詞審査ではコメディ・センスの有無と、ジャスミンの意志力の強さがしっかり表現できるかが問われている模様。スコットはオーディションの間は演技終了後、全員に「Good Job!」「Beautiful!」等々、惜しみなく賛辞を送っていましたが、プロの世界の厳しさを垣間見せる場面も。緊張のためか、若干音が外れてしまった候補者に対して「はい、次は台詞に行きましょう」と、2曲目の歌唱を求めなかったのです。チャンスは一度きり。そこでいかに自分を出し切るかが、オーディションでは問われます。

この後、アラジン候補とジャスミン候補が3人ずつに絞られ、カップルでさきほどの市場のシーンと、アラジンがプリンス・アリとして姫の前に現れるシーンを演じることに。スコットが「アラジンは、姫に自分をよく見せたい。姫はアラジンに心惹かれているが、姫としてはそれを表に出すわけにはいかない、という設定」「プリンス・アリはアラジンの考える王子像でいいんですよ」と細かく説明したうえでの演技となり、瞬時に、的確にリクエストに応じられるかが問われます。3人のジャスミンの中には、さきほどの審査で筆者がずばぬけた「表現力の持ち主」「強い声の持ち主」と感じたお二人の姿も。組み合わせを少し変えたバージョンも試みられ、最後にこの6人を呼び込み、記録用にと?シュワルツさんの構えるカメラの前で写真撮影。その後、悪役のジャファー(候補6名、リストの中には『ライオンキング』でお馴染みの方々のお名前も)、イアーゴ(候補7名)の審査が行われたようですが、公開オーディションはアラジン&ジャスミンの終了時点でお開きとなりました。

*次ページではオーディション二日目の様子をレポートします!*