そうはいうものの、やはり小型のPCは日本では便利です。机を「島」と呼ぶ形状に並べて仕事をする日本の多くの企業などでは、ATXなどの机のサイズに比較して大きな筐体より、ブックサイズの筐体なら仕事のスペースも広々します。加えて液晶画面ならせいぜいA4サイズ程度の設置面積で済みます。向かい合わせでパソコンを並べたら、圧迫感も加えると相当な好印象となります。自宅などでも大きいよりは小型の方が見栄えもいいですし、邪魔にもなりにくく、オーディオなどと同じでコンパクトな方が嬉しい方が多いでしょう。
ただ、多少の拡張性とピーク性能を犠牲にしても小型の筐体の方が喜ばれる理由はこれだけではありません。日本特有の価値観、「精密機械類は小型のものは高性能」ということが少なからず影響していると思っています。日本では「小型」という事がかなりの付加価値になっています。最近ではデジタルカメラにおいて、キヤノンのIXY DIGITALシリーズの人気、ケースすれすれの大きさが主流の各社ポータブルMDプレーヤー、勿論携帯電話など、ほんの僅かのスリム化に高いお金を払ってくれるということです。同じ性能なら小型の方がいいに決まっているじゃないか、という方も多いでしょう。でも、パソコンだけは一概にそうとは言い切れません。
競争から始まった異常とも思えるクロック数の上昇が、「何となく不安定」なパソコンを作り出しているのですが、ああまりそれに気が付いている方はいないようです。入れ物を小さくするために、様々な個別の部品を小型化しなければならず、高性能化(高クロック化)するCPUの発熱を処理する事が出来なくなってしまったり、CPUの熱でシステム部品が影響を受け、不安定になったりしてしまうからです。実際、事務室で使うと不安定になるPCをサーバ室(大概22度~24度程度)で動かすと全く安定している等と言うこともあります。人間にとって喜ばしい小型化は、パソコンにとってはちっとも嬉しくないのです。
メーカーが設計したのだから問題はないはず、という意見を述べられる方もいらっしゃいますが、部品には当たりはずれがあるということを考えていただければご理解いただけますね。ましてや、パソコンはそうでなくても不安定な要素がいっぱいありますので、実際には問題があっても「しょうがない」で済まされてしまうことも多いです。筆者のように常時数十台の同型パソコンをいじっていないと判らないことなのですが。
さあ、ということで、SFF筐体のパソコンですが、2002年2月末現在、そうでないパソコンを探す方が困難という状況になっています。何故かと言えば、インテルもAMDもSFF化の動きが、日本のみにとどまらず、世界的な要望になってきている事に気づき、用途に見合うパーツを作り始めたからです。つまり、今まではSFFパソコンを安定的に出荷することが難しかったのですが、部品レベルでSFFパソコンを見据えるようになったから、各社とも独自に対策しなくてもSFF筐体を採用できる様になったのです。
まだ一部出荷されていますがNECのボックスレスパソコンというものがあります。これは、より小型のパソコンを目指した結果、ノート用のパーツを利用して液晶ディスプレイの足の部分にパソコンを組み込んだものです。発想は良かったのですが、ノート用の部品はデスクトップ用のそれに比較しかなり高価ですので、システム価格が下げられず、ビジネスとしてはあまりうまくありませんでした。逆にVAIO Wは上手にデスクトップ用の部品を使うことにより、かなりの小型でありながら安価なシステムとなり、発売以来他のものを寄せ付けない高シェアを確保しています。
今ではPentium 4であってもSFF筐体で使用することが出来るようになっています。また、パソコンの自作業界(というのも変ですが)でも、小型筐体のベアボーン(ケースとシステムボードのセットのことで、CPUなど一部の部品のみ用意すればすぐに使える様になったキット状のパソコン)やブックタイプのケースなどが注目されてきています。そういう筆者だって、自宅のメインシステムはAopenという会社のSFF筐体に同社のシステムボードを組み込んだものを使っています。仕事でもひとまわり小さいマイクロATXシステムですから、あまり文句も言えません。