抵当権の消滅時効・信義則・管理組合法人が出る!
宅建士試験では最新の最高裁判例に関連した問題が出題されます。最高裁まで上がり争われた不動産取引に影響する事件に対する解決方法を示したものなので、これから不動産取引法務の専門家となろうとする宅地建物取引士試験の合格者は当然に有していなければならない判例知識だからです。抵当権の被担保債権が免責の対象になると?
―最判平成30年2月23日―【事件の内容】
Aは、平成13年2月13日、所有する建物の自己の持分について、極度額を300万円、債権の範囲を金銭消費貸借取引、債務者をA、根抵当権者をBとする根抵当権を設定し、同日、その旨の根抵当権設定仮登記がされた。
その後、Aの返済が滞り、平成17年11月24日、破産手続開始の決定を受け、翌年1月26日に免責許可の決定を受けた。
抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合は、民法396条(抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、被担保債権と同時でなければ、時効によって消滅しない旨を定める条文)は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかるとした判例
【争 点】
Aは、本件貸金債権につき消滅時効が完成し、本件根抵当権は消滅したなどと主張して、Bに対し、その仮登記の抹消登記手続を求めた。
【原審の判断】福岡高判平成28年11月30日
福岡高裁は、「本件貸金債権は、免責許可の決定の効力を受ける債権であるから、消滅時効の進行を観念することができない。また、民法396条により、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから、Aの請求には理由がない」と判示した。
【最高裁判所の判断】
最高裁判所は、福岡高裁判決の、免責許可の決定の効力を受ける債権については消滅時効の進行を観念することができないという点については是認したが、抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合は、民法396条(抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、被担保債権と同時でなければ、時効によって消滅しない旨を定める条文)は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると判示した。
【田中謙次のコメント】
消滅時効と抵当権はどちらも宅建士試験における頻出分野です。特に、抵当権の性質の1つである付従性が論点の中心となっており、受験対策の一環として本件の理屈と結論をしっかりと覚えておきましょう。特に、抵当権自体が20年で時効にかかるという条文は普段はほとんど使わないものなので意識して覚えないと本試験で思い出せない可能性もあり要注意です。
なお、以下のような出題が予想されます。
【予想問題】
AのBに対する債権を被担保債権として、AがB所有の土地に根抵当権を有している。当該被担保債権が破産手続開始の決定を受け免責許可の決定を受けた場合、同許可決定時から10年が経過すれば、根抵当権は時効により消滅する。
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儲からないので別会社に債務を丸投げは信義則に反する?
―最決平成29年12月19日―【事件の内容】
B社とAは、平成24年5月、AがB社の設計等に基づいて老人ホーム用の建物(本件建物)を建築し、B社が有料老人ホーム等として使用する目的で本件建物をAから賃借する旨の契約(本件賃貸借契約)を締結し、予定通り本件事業を開始した。
しかし、業績不振が続き、B社は、自社が資本金100万円を全額出資し、株式会社シルバーライフ・リサーチ(C社)を設立させ、C社に本件事業に関する権利義務等を承継させることなどを内容とする吸収分割契約を締結した。
本件吸収分割契約には、B社は本件事業に関する権利義務等について本件吸収分割の後は責任を負わないものとする旨の定めがある。
C社は、本件吸収分割の後、上記賃料の大部分を支払わず、同年11月30日時点で合計1,450万円が未払であった。
吸収分割によっても特約に定めることで違約金債権に係る債務を負わないと主張することは、信義則に反して許されないとした判例
【争 点】
本件は、Aが、本件違約金条項に基づく違約金債権のうち1億8,550万円を被保全債権として、B社の第三債務者に対する請負代金債権につき、仮差押命令の申立てをした事案である。B社は、本件吸収分割がされたことを理由に、本件違約金債権に係る債務を負わないと主張している。
なお、本件賃貸借契約には、「B社が本件賃貸借契約の契約当事者を実質的に変更した場合などには、Aは、催告をすることなく、本件賃貸借契約を解除することができる。」「本件賃貸借契約の開始から15年が経過する前に、Aが本件解除条項に基づき本件賃貸借契約を解除した場合は、B社は、Aに対し、15年分の賃料額から支払済みの賃料額を控除した金額を違約金として支払う。」旨が定められている。
【最高裁判所の判断】
最高裁判所は、賃借人B社が契約当事者を実質的に変更したときは、賃貸人Aは契約を解除し違約金を請求することができる旨の定めのある建物の賃貸借契約において、B社が吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位をC社に承継させた場合であっても、B社が、賃貸借契約を解除したAに対し、吸収分割がされたことを理由に上記の定めに基づく違約金債権に係る債務を負わないと主張することは、信義則に反して許されず、Aは、吸収分割の後も、B社に対して同債務の履行を請求することができると判示した。
その理由は次の3点である。
- Aは、賃料によって建築費用を回収することを予定していたこと、契約当事者変更による無催告解除の特約は賃借人の変更による不利益を回避することを意図していたものであり、B社もその意図を理解した上で賃貸借契約を締結したものといえること。
- C社は、資本金が100万円であって、本件債務の支払能力を欠くことが明らかであること。
- Aは、B社に対し、吸収分割について会社法789条1項2号の規定による異議を述べることができたとはいえないこと。
【田中謙次のコメント】
判決文を読む限りにおいてはかなりあくどい事案に感じます。信義則に関する判例は多く、宅建士試験にもよく出題されています。吸収分割という宅建士試験の範囲を超える法制度も出てくる判例ですが、権利義務を承継した場合の賃料不払いの責任を譲受人に追及できるかと単純化すれば、出題の可能性は十分あります。内容としても、不動産投資に関する実務でも重要な点についての最高裁判例なので、避けては通れません。
その他の最新判例
・最判平成29年12月18日理事長を建物の区分所有等に関する法律に定める管理者とし、役員である理事に理事長を含むものとした上、役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとする一方で、理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては、理事の互選により選任された理事長につき、当該規約中の理事の互選により理事長を選任する旨の定めに基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる。
・最決平成29年11月28日
家庭裁判所は、相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり又はそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者又は受遺者がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあると認められる場合に、民法941条1項の規定に基づき、財産分離を命ずることができる。
・最判平成29年4月6日
共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。
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