2018年の家計予測は?景気回復している?
「マネープランクリニック」には2017年も多数の相談が寄せられました。そこで今回は、担当されたFPの深野康彦さんが、その傾向や印象深い相談を振り返りながら、2018年の家計予測をしました。新しい年が家計のいいスタートとなるような、そのポイント、ヒントをお伝えします。2017年の家計相談を見返してみると、マネープランだけでは解決できないような、相当に困窮していたり、困っているという相談は以前に比べて減った気がします。その点からも、景気回復が感じられる、そんな年でした。
「住宅ローンの借り過ぎ」世帯が目立った
ただし、とくに今年の後半は、住宅ローンがかなり負担になっている、そんな相談が目立っていました。原因は無計画なローンを組んでしまうからですが、その背景には、超低金利と貸したがる金融機関の存在があります。確かに、とくに変動金利だと、4000万円借り入れても35年返済なら思ったほど返済額が高くないと感じるかもしれません。しかし、いくら低金利でも、大きな負債を背負うことに変わりはないのです。しかも、完済時期が老後にかかってくると、それだけ老後資金が目減りします。印象的だったのは、完済が79歳という事例。その年齢まで受給される公的年金の6、7割が住宅ローンで消えてしまいます。普通に考えれば、このようなローンは無理だと気づきますが、そう大きくない毎月の返済額が、正しい判断をできなくしてしまうのです。【関連記事をチェック!】
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住宅ローンの基本は、借りられる額で組むのではなく、返済できる額で組むということ。このことの大事さをあらためて認識した年でもあります。また、アパート経営やマンション投資をしている、または予定しているという相談者もいました。どれも、無理な借り入れ、甘い見通しの返済計画が目立ちました。
2017年の初めには、過剰すぎる金融機関のアパートローンへの融資に対して、金融庁から注意勧告の通達がありました。今後、監督官庁の監視が強まるでしょうが、こういった大きな融資には、安易に手を出すべきではありません。
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住宅関連でもうひとつ。実家をどうするかという悩みも増えてきました。地方に両親が住む実家があるが、亡くなった後はどうするのか。自分たちは都心で家を買い、生活圏もそちらに移っている。実家に戻らないとしても、相続すればコストは発生。かと言って、立地が悪いと売りたくても売れない。もはや不動産は「所有」から「使用」に、その重きを変えつつあります。しかも、そういった傾向は地方だけでなく、都市圏近郊にも広がりを見せています。事前にどうするかを親子、兄弟で十分に話し合っておくことで、対処していくべきでしょう。
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「働き方改革」で世帯収入が減るという現実
では、2018年は家計にとってどんな年になるでしょうか。世界全体の景気は拡張傾向にあります。日本もその恩恵を受け、すぐに悪くなることは考えにくい。ただし、地政学リスクがないとは言い切れません。何かあれば、一気に悪化するでしょう。絶えず動向には注意してほしいと思います。
注意すべきという点では、米国が予測以上に利上げを行うこと(4~5回)、中国景気の減速感が強まると世界全体の景気も後退感が出てくると日本も無キズではいられません。
また、それとは別に、2018年以降、気を付ける点が2つあります。
まずは、国が取り組みを開始した「働き方改革」。長時間労働の改善のため、残業時間に月60時間、年間720時間の上限を設ける内容が盛り込まれています。ワークライフバランスの観点から言えば、決して悪いことではありません。しかし、これまで残業代による上乗せ分に家計を依存してきた世帯には、見過ごせない問題です。あるシンクタンクの試算だと、この改革で国内全体の賃金所得は年間で8兆5000億円減るとのこと。年間で数十万円減収となる世帯も、少なくないのではないでしょうか。
日本の賃金体系は、能力給ではなく、残業代込みの時間給とする発想が根本にあるように思います。今回のことがキッカケとなり、能力給が浸透するという抜本的改革が進展すればいいのですが、単に残業代が減るというだけでは、家計にはダメージだけが残ります。抜本的な賃金改革と賃上げが行われて欲しいものです。
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もうひとつは、2018年度税制改正大綱に盛り込まれた、所得税に対する基礎控除の引き上げと給与所得控除の引き下げです。結果、年収850万円(※)を超える会社員や公務員は、実質、負担増になります。今回も「取りやすいところから取る」という発想による改正となり、所得の大きい人がターゲットになりました。手取りが増えないのですから、働いた見返りが税で持っていかれるという意識がより強くなります。
運用は「iDeCo」や「つみたてNISA」を利用したい
さらにその先で言うと、2019年10月には消費税10%が控えています。景気はいいが収入は減る上、税負担が増えるという図式です。加えて、社会保険料は一部がすでに上がっていますが、例えば国民年金や厚生年金保険料の引き上げも今後あると予想されます。介護保険料も同様。一方で、頼みの賃金の伸びは、全体には期待薄、鈍化傾向が続くでしょう。身近なモノの値段もジワリと上がってきました。宅配料金やコンビニの食料品がそのいい例。売られているおにぎりの値段が以前と同じでも、若干小さくなった。これも形を変えた値上げです。勤労者の収入や家計について、今後大変になる予感があります。では、運用はどうか。株価は堅調です。お金に働いてもらうという発想も、間違いではありません。ただし、こういう時こそ、基本に立ち返るべき。要するに、長期運用でしっかり分散投資をする。地に足をつけた運用をするということです。
その意味で、2017年は「iDeCo」の対象者が拡充し、2018年には「つみたてNISA」の利用が始まるわけですから、教科書どおりの運用をするにはいいタイミングです。運用益が非課税となるなど、有利な制度は積極的に活用していいと思います。ただし、いたずらにリスクは取らないこと。運用は資産全体の何%までと、自分なりの予算枠をしっかり決めてください。
こんなに株価が上がって、企業業績もいいのに、冬のボーナスの支給額はほぼ変わらずという人が大半だったはず。実質賃金も伸びていないのが現実です。2018年は、家計がきびしい時代となる、その始まりの年となるかもしれません。あるいは翌年の改元を控えてお祝いムードが出てかなりの明るさが一時的に灯るかもしれません。しかし、地に足を付け浮かれることなく、堅実に家計を守っていくことが大切でしょう。
(※)22歳以下の子どもをもつ世帯、介護を必要とする家族がいる世帯は除く
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武