子ども自身は無自覚なこともある「いじめ」
わが子の「いじめのサイン」に早めに気づくのは難しい。その理由とは?
その理由は、大きく分けて2つあります。1つは、子ども自身がいじめの事実に気づいていないことがあるため。もう1つは、子どもがその事実を打ち明けて傷つくことを恐れることが少なくないためです。
1つ目のいじめの事実に気づかないことには、複数の要因が考えられます。幼い子どもの場合には、その行為が意図的な嫌がらせなのか判断する力がついていないこともあるでしょう。ある程度大きくなっても本人が大らかな性格であると、友達から受けている行動が悪意のあるいじめなのかどうかの判別がつかないこともあります。
「いじめ」を認めて語ることで、子どもは二度傷つく
2つ目の理由の背景には、自尊心の問題が関係しています。いじめの事実を認めることは、「自分の価値の低さを認めること」とイコールであるかのように感じ、自尊心が傷ついてしまうのです。そのため、いじめられていても平静を装ったり、波風を立てないようにじっとしていたり、いじめる相手に迎合してふざけているふりを装ってしまうこともよくあります。
そして、いじめを打ち明けることは、とても苦痛なことです。いじめのシーンを思い出すだけでも、心の傷がえぐられます。それを言葉にして説明する際には、その時の苦しみを追体験してしまうことになります。
いじめの告白で親の反応を恐れる子どもの心理
それだけではありません。子どもは、親の反応をとても恐れています。落胆し、嘲笑されるのではないか、叱咤されるのではないかと不安に感じてしまうのです。自尊心が深く傷つくいじめであるほど、親の反応を恐れます。また、親が拙速に動くことによって心の傷が拡がるのではないか、被害が拡大するのではないかということも心配しています。
上記の理由から、本人の告白を待っていると必要なタイミングに介入できず、いじめがエスカレートしまう可能性があります。そのため、親は子どもの何気ない日常生活の様子から、サインに気づいていくことが大切なのです。
表情、行動、言葉……代表的な「いじめのサイン」とは?
以前には見られなかったサインがよく目につき、そのサインが長く続いていませんか?
ここでは代表的なものをご紹介します。いずれも以前にはなかったのに、最近その様子が続いている場合には、要注意です。
●表情が暗い、声をかけても答えない、自室にこもる
目を合わせず、暗い表情をしてうつむいている。返事をせず、会話に加わろうとしない。食事以外は部屋にこもりきりになる。
●持ち物がよくなくなる、壊れている、異様に汚れている
ノートや教科書がぐしゃぐしゃによれていたり、乱暴な落書きが多かったりする。文房具が頻繁に壊れる。服や体操着が異様に汚れる。
●傷やあざがよくできている
体のあちこちに傷やあざをよくつくる。特に腹部などの見えないところにあざができている。それについて質問をしても説明しようとしない。
●「どうせ自分なんて」「頑張っても無駄」と言う
学業や将来のことを尋ねると、こうした言葉をよく言う。本人の良いところや可能性を伝えても、考えが変わらない。
●気分転換をしたがらない、好きなことを楽しめない
「気晴らしにどこかに出かけよう」と誘っても行きたがらない。食卓でも外食先でも暗い表情をしている。好きだった趣味に、楽しそうに打ち込む様子が見られない。
●休み明けに学校に行きたがらない
月曜日や祝日の後に休みたがる。長期休暇の後に、学校に行きたがらない。登校時にはだるそうで、体調が悪そうに見える。足取り重く学校に行く。
●友達の話題をくなった
以前はよく話していた友達のことを質問しても、話したがらない。心を許せる友達が、最近は身近にいないように思える。
●勉強に手がつかない、成績が下がっている
以前に比べると勉強をしなくなっており、手がつかないように見える。成績も下がっている。
これらの様子が見られた場合には注意深く様子を見ることが大切ですが、もちろん、いじめのサインとは限らない場合もあります。
特に思春期前後には、親とのコミュニケーションを避け、周囲の人と自分とを比較して自信を失いやすい時期でもあります。多くの場合、子どもは自分の力でその葛藤を乗り越えていけますし、これを乗り越えることは思春期の課題でもあります。したがって、子どもの成長力を信じて見守ることも大切です。
しかし、上記のサインが続き、元々あった明るい表情や生活への楽しみがまったく見られない、まったく話さず、目も合わせようとしない、部屋に閉じこもりきりになっている、といった場合には、早めに対応する必要があります。
「絶対的な味方である」という親のスタンスを打ち出す
ではそのような場合には、子どもにどう接するとよいのでしょう? まず、学校などで何かあったのかと、変化を聞いてみましょう。多くの場合、最初は「何もない」と答えるでしょう。大切なのは、その言葉をうのみにしないことです。「そう言うけど、何もないようには見えない」「以前のあなたとまったく違うので心配だ」と以前との違いを伝え、とても心配していることを必ず伝えましょう。
上記を伝えながらも、事実や感情をしつこく聞き出さないことが肝心です。胸の内を無理にこじあけようとすると、抵抗してより強く隠そうとします。打ち明けるまでには、本人の中での心の準備が必要になります。
したがって、話そうとしない場合には、「今は言いたくないかもしれないけど、いつでも話してほしい」「どんなことでも受け止める。必ずあなたを守る」「悩みは一人で抱えなくていい。一緒に考えたい」と伝えます。
このように、「子どもの絶対的な味方である」という親としての揺るぎのないスタンスを伝えることが大切です。すると、頑なになっていた子どもの心は徐々に開いてくるでしょう。
安心できる家庭の温かい雰囲気をつくる
同時に、家庭を安心できる雰囲気にしていきましょう。基本的には、親が気を遣いすぎず、本人にも気を遣わせないように、日々何気なく接していくことが大切です。また、親はできる限り、いつもよりも長く家にいた方がよいでしょう。ゆったりとした気持ちでキッチンやリビングにいて、子どもの話をいつでも聞けるような雰囲気をつくっておくといいでしょう。
そして、大切なのは温かい食事、子どもの好きな料理を一緒に食べることです。こうした雰囲気と時間を作るためには、親自身が気持ちの余裕と時間のゆとりを心がけることが大切です。
学級担任に相談し、連携の上で対応を考える
それでも子どもが気持ちを打ち明けず、心配なサインが続くようであれば、早めに学級担任に相談し、学校での本人の様子をよく観察してもらいましょう。学級担任は1クラス40名程度の子どもを担当し、日々時間に追われています。さらに、中学校からは教科別に担当教員が分かれますので、一人ひとりの子どもの変化に目が届いていないことが少なくありません。
教師は、よくトラブルを起こす子の行動は目につきやすいものですが、おとなしい子の心情や生活の変化には気づきにくいものです。
したがって、教師から「教室では特に問題はないように思える」と言われても、家庭での心配な様子、以前との違いを伝えて、学校での様子を注意深く観察してもらうことが必要です。そして、教師からそれとなく話をかけ、本人の気持ちや学校での困り事を聞いてもらうなどの対応もお願いしておきましょう。
子どもの毎日の様子から小さな変化に気づいていく
いじめの恐ろしさは、加害者が自らの行動への客観的な視点を失ってしまうことです。その行動を制止し、注意する人がいないといじめはエスカレートしてしまいます。そのため、いじめの被害を受けている子どものサインには早く気づき、エスカレートする前に介入していく必要があります。子どもと毎日接し、生活を共にしている親は、いじめのサインに気づくことのできる貴重な存在です。そのサインは分かりにくいものですが、ぜひ小さな変化を見逃さず、上のような心配なサインが続いたときには、早めに対応していきましょう。