クラウド(雲)とクラウド(群衆)の2種類ある
クラウドソーシング・クラウド会計など、クラウドという言葉がついた単語が登場していますが、大きく分けると2つあります。一つは雲の意味のクラウドでネットワークの向こう側にサーバーがあり、サーバーを通じていろいろなサービスを提供しています。ネットワークの先を雲で表現します。クラウドコンピューティング、クラウド会計のクラウドは雲の意味です。
もう一つが群衆の意味のクラウドです。広く群衆から資金調達するクラウドファンディングや個人事業者、フリーランサーなどに仕事を依頼するクラウドソーシングのクラウドは群衆の意味になります。
日本でのクラウドファンディングは震災が契機に
3.11の震災復興で注目されたのがクラウドファンディングです。ミュージックセキュリティーズというクラウドファンディングの運営会社がいち早く被災地応援ファンドを立ち上げます。
例えば、津波で社屋・蔵・商品が駄目になった酒造メーカーが被災地応援ファンドを活用して復活しています。特徴は「資本金+応援金」がセットになっている、という点です。震災で大変なので寄付を集めてもかまいませんが、それだと一過性になりがちで、時期がたつとだんだん寄付が集まりにくくなります。
そこで、応援する側は資本金を出してリターン(酒造メーカーの場合は醸造したお酒)をもらうビジネスの形にします。ただし資本金の同額を応援として寄付します。いわば投資と寄付を組み合わせたやり方で、お酒を通じて酒造メーカーのファンになってもらい、息の長い支援を狙っています。
ミュージックセキュリティーズは社名にあるように、銀行からの融資を受けづらいミュージシャンの音楽活動を支援するところから始まっています。ミュージシャンの場合は資金を出して作ったCDをリターンで返してもらいます。資本金を出してリターンをもらうので「投資型」と呼ばれています。
実は、クラウファンディングという仕組みは、ネット以前からありました。
歌舞伎に勧進帳という演目があります。東国へ落ち延びる源義経一行が安宅関を抜ける場面で、弁慶は自分たちの身元を隠そうと、白紙の「勧進帳」を本物のように読み上げます。この「勧進」とは寺社の修理のために必要な寄付金を募ることを指し、当時焼失した東大寺再建のための資金集めの活動をしている、と偽ったのです。この「勧進」は今のクラウドファンディング(寄付型)にあたるものでしょう。
クラウドファンディングの種類
クラウドファンディングには投資型以外に「寄付型」「貸付型」「購入型」があります。寄付型は勧進のように寄付ですので基本的にリターンを考えません。寄付型の代表的なクラウドファンディングとしてジャパンギビングがあります。社会をよりよくするために頑張る人に資金を提供する形で、例えば「1500人の貧困世帯の子どもたちに食品とクリスマスプレゼントを贈りたい!」というプロジェクトに対して、支援者を募ります。社会的に意義が高い事業を実施する場合は寄付型になることが多いでしょう。
他には貸付型があります。ソーシャルレンディングと呼ばれ、AQUSH(アクシュ)やmaneo(マネオ)があります。ネット上でお金を借りたい人・企業とネット上でお金を貸したい人・企業を結びつける融資仲介サービスになり、太陽光発電事業者や不動産事業者向けなどファンドが作られ、貸し手はファンドに対して投資し、配当や返済を受ける仕組みです。
クラウドファンディングにはAll or Nothing型・実行確約型という分け方もあります。All or Nothing型は目標金額に届かなければ、プロジェクトそのものが不成立となりお金の出し手に返還する仕組みです。寄付型、貸付型で多いタイプです。
実行確約型は目標金額に達成しない場合でも、調達した資金を使ってプロジェクトを実施する、購入型で多いタイプです。プロジェクトの開始に際して、どちらのタイプにするかを選ぶことができます。
購入型は商品やサービスのPRに使える
最近、増えているのが購入型でCAMPFIRE(キャンプファイアー)、ReadyFor(レディフォー)、FAAVO(ファーボ)、Makuake(マクアケ)等があります。別府市が「遊べる温泉都市構想」という企画で温泉に入りながら楽しめるアミューズメント施設「湯~園地(ゆ~えんち)」計画を発表し、公約ムービーを公開したところネットで話題になり、動画の再生回数は100万回を超えました。そこで公約を実現するために「湯~園地」作りの資金集めにクラウドファンディングを活用しています。リターンは入場券になっています。
また縫製業界を応援するために「武将スーツ」を考案し、真田幸村スーツ・織田信長スーツなどを購入するプロジェクトもあります。武将スーツの第二弾である織田信長スーツは、永楽通寶ボタンや天下布武ネームなどが入っています。
クラウドファンディングの目標額は、10着分のスーツを作成する資金(50万円)です。集めた資金はデザイン料や生地代に使われ、5万円を出すと天下布武・織田信長スーツ1着が手に入ります。プロジェクトにお金が集まれば予約販売と同じですので、作る側はリスクがありません。またクラウドファンディングに掲載することで商品やサービスをいろいろな人に知ってもらう機会が増え、PR・ファン作りにもなります。
プロジェクトが成功するにはストーリーが必要
購入型の場合、どういうこだわりでモノづくりをしているのか、他の商品にはない価値とは何か、どんな想いで事業を行っているのか、ストーリー作りが重要です。プロジェクトに書かれた文章や想いを読んで、支援者の心に響けば購入してもらえます。文章の記載についてはクラウドファンディングの運営会社がいろいろと手助けしてくれます。
またサクラではないのですが、知り合いに声をかけて最初の購入の呼び水になってもらうことが大切です。支援者がゼロのプロジェクトでは購入す側が躊躇してしまいます。何名かに購入してもらい、賑わいを見せることが必要です。
手数料はクラウドファンディングの運営会社によってさまざまですので、実際にクラウドファンディングを行う際には、得意分野や手数料など、いろいろと比較してみてください。
ガイドの知人は、Readyforでカンボジアの中学生の通学支援のために100台の自転車を送るプロジェクトを行っています。カンボジアの農村では学校が少なく、片道10~15キロを片道3時間かけて通学しています。当然、夜は街灯もないので真っ暗な中を進みます。自転車があれば通学時間が短くなり、勉強時間を増やす効果もあります。
修理キットをセットにした自転車100台を送るため目標金額30万円に対し53万5000円が集まりました。リターンはお礼の手紙、写真、送る自転車に支援者の名前をつけるという寄付型になっています。集まった金額からReadyforの手数料9万8226円(約18%)を引いた43万6774円が購入費用にあてられ、先日、カンボジアで自転車と修理キットが贈呈されました。