江ノ島駅から歩く、江ノ電・各駅下車の旅
江ノ電は鎌倉駅と藤沢駅を結ぶ、およそ10kmの鉄道路線です。一日乗車券「のりおりくん」を購入して、江ノ電各駅下車の旅に出かけます。江ノ電を紹介する記事は、すでにたくさんあるので、今回はちょっとマニアックに、一般の観光ガイドブックに載っているような有名観光名所へは立ち寄らずに、穴場を中心に旅を楽しみたいと思います。
前編(鎌倉市編)に続き、後編(藤沢市編)は、江ノ島駅から藤沢駅の各駅を見ていきます。
腰越駅と江ノ島駅の間の路面電車区間
"龍"の街を歩く
路面電車区間の商店街を抜けると、右手に見えるのが龍口寺(りゅうこうじ)というお寺。鎌倉時代、この付近は「龍ノ口の刑場」だった場所で、罪人の処刑が行われていました。日蓮宗の開祖・日蓮(1222~1282年)が、この場所で首をはねられそうになったときに、奇跡が起き、難を免れたという話があり、そのような奇跡が起こった霊跡に、日蓮の死後、弟子の日法がお堂を建てたのが龍口寺のはじまりです。
龍口寺本堂と五重塔
ちなみに、「龍ノ口」の地名は、以下の伝説に由来します。
その昔、深沢の底なし沼に5つの頭を持つ悪龍「五頭龍(ごずりゅう)」がいて、様々な災いをもたらし、民を苦しめていたが、あるとき、江の島の天女(弁才天)に一目惚れした。
結婚を申し込むが、それまでの行いをとがめられ、断られた龍は、天女と結婚するために改心した。
その後、天女と結ばれた龍は、日照が続けば雨を降らせ、実りの秋には台風を跳ね返し、津波が来れば体当たりで防ぐなど必死に働き、やがて、力尽きて山になった
この山というのが龍口寺背後の「片瀬山」(別名「竜口山」たつのくちやま)で、龍の頭部にあたる場所が、「龍ノ口」と呼ばれるようになったそうです。
龍口寺には、歴史あるものとしては神奈川県下で唯一の五重塔があるほか、もう一つ、気になる建物があります。それが、この白亜の塔。
龍口寺の白亜の仏舎利塔。最近、お色直しをしてきれいになりました
なんだか、インドの「タージマハール」みたいですが、お釈迦様の骨(仏舎利 ぶっしゃり)を納める仏舎利塔です。
仏舎利塔は、古代インドの言葉、サンスクリット語で「ストゥーパ」といいますが、日本の墓地にある「卒塔婆(そとば)」は、「ストゥーパ」に由来します。
江ノ島駅のそばには、モノレールの駅も
龍口寺を出ると、門前の道路の真ん中を江ノ電が通過していきます。この線路を渡った先のお店の軒先に見えるのが、なんと江ノ電の車両!和菓子屋さんの店先にディスプレイされている江ノ電の車両
このお店は、「江ノ電もなか」などを販売する「扇屋」という和菓子屋さんです。
平成2年3月に引退した651号車の前面部分を江ノ電から譲り受け、ディスプレイしているのだそうですが、初めて見たときは、驚きでした。
さて、この先、江ノ電は道路から離れて専用軌道に入っていくので、江ノ電と並行するバス通り(国道467号線)を歩いて、江ノ島駅を目指しましょう。
「江ノ島駅入口」の交差点に差し掛かると、右手に湘南モノレールの湘南江の島駅が見えます。
湘南モノレールの湘南江の島駅では、現在、バリアフリー対応のためエスカレーター・エレベーターを設置する新棟を増築工事中
湘南モノレールは、大船と湘南江の島間、6.6kmをおよそ14分で結ぶ懸垂式(ぶら下がり式)モノレール。カーブや高低差のある路線を高速で走行するため、「ジェットコースターのような乗り心地」が楽しめると、最近、人気上昇中です。
観光で江の島を訪れるなら、行きは江ノ電、帰りはモノレールと2つの乗り物を楽しむのもオススメです。
ちなみに、モノレールの駅舎と国道にはさまれた、少し前までコンビニだった場所は、現在、空き地になっていますが、ここには、駅の新棟を増築しているそうです。
これまで、湘南モノレールはバリアフリー化が課題でしたが、新棟には1階と改札階である5階を結ぶ、エスカレーター、エレベーターが設置されます。
湘南江の島駅エスカレーター・エレベーターを設置する新棟の内観イメージ(湘南モノレール提供)
新棟は2018年4月1日供用開始予定。湘南モノレールに提供いただいた資料(内観のパース)によれば、こんなにきれいな駅になるそうですよ。
「えのすい」に意外と近い湘南海岸公園駅
さて、江ノ島駅から江ノ電に乗車し、次の湘南海岸公園駅に向かいます。鎌倉駅から江ノ島駅までは観光スポットが多く、にぎやかでしたが、この先、藤沢駅に向かっては、住宅地の中を走って行きます。湘南海岸公園駅は、駅名からすると、海のすぐ近くにあるように思いますが、実際は、海までおよそ700mも離れています。
駅から境川を渡り、海に向かって歩いて行くと、湘南海岸公園内にある「新江ノ島水族館(えのすい)」のイルカショースタジアムのところに出ます。
新江ノ島水族館(えのすい)
「えのすい」の江ノ電の最寄り駅といえば、江ノ島駅だと思い込んでいましたが、地図で確認してみたところ、入口までの距離は、どちらの駅からも同じくらい。こういう新たな発見があるのも、街歩きの楽しさです。
湘南海岸公園は、夏はビーチがにぎわうほか、少し先の鵠沼海岸からは、茅ヶ崎の柳島海岸まで続くサイクリングコースもあるので、自転車をレンタルして海辺のサイクリングを楽しむのもオススメです。
江ノ電唯一の鉄橋「鵠沼鉄橋」を渡って
さて、再び江ノ電に乗車し、次の鵠沼(くげぬま)駅に向かいます。鵠沼駅の手前で、境川に架かる、江ノ電唯一の鉄橋である「鵠沼鉄橋」を渡るので、見逃さないように!鵠沼駅周辺は、かつての別荘地で、現在も高級住宅地のイメージのあるエリア。鵠沼駅はホームは高架、駅舎は江ノ電の駅としては唯一、半地下につくられています。
さて、改札を出て左手から、少し江ノ島方面へ戻るように線路沿いを歩き、鵠沼鉄橋を目指しましょう。ここは、鉄橋を渡る江ノ電が撮影できる人気の撮影ポイントです。
「鵠沼鉄橋」を渡る江ノ電
江ノ電は基本的に単線ですが、いくつかの主要駅や前編で紹介した「峰ヶ原信号所」では複線になり、上下線がすれ違えるようになっています。
鵠沼駅も上下線のすれ違いが行われる駅ですが、江ノ島方面から来ると、鵠沼鉄橋の手前で複線になり、鉄橋の中でカーブして鵠沼駅に到着します。
私は、鉄道のことはそこまで詳しくないのですが、鉄橋自体は真っ直ぐなのに、鉄橋の中で線路がカーブしてるのって珍しいのではないでしょうか?
この鉄橋は、昭和57年から59年にかけての工事で架け替えられたもので、それ以前は、もっと簡素な橋で、防護柵もなく、川沿いから橋を渡る江ノ電の姿が、今よりもハッキリ見えました。
柳小路駅近くには「鵠沼」の地名由来の池が
さて、江ノ電各駅下車の旅も、いよいよラストスパート! 残すところ、柳小路駅、石上駅、藤沢駅の3駅です。柳小路駅は、ホーム幅も狭く、昔の停留所の面影を残す駅です。駅周辺を少し散歩してみましょう。
江ノ電の駅ホームには、「駅周辺マップ」が設置されているので、これを参考に、鵠沼高校の裏手へグルッとまわり、「桜小路公園」を目指して歩いて行きます。
桜小路公園(第二はす池)
この桜小路公園は、はす池(第二はす池)を中心に整備されており、付近にはもう一つはす池(第一はす池)があり、はすの花が6月20日前後に見頃を迎えるそうです。
池に設置された案内によれば、昔は境川が蛇行して流れており、その名残で、この付近にはいくつもの沼や池がありました。
それらの池には、冬になると鵠(白鳥の昔の呼び名)が飛来したことから「鵠沼」という地名になったそうですが、今ではその多くが埋め立てられ、2つのはす池を残すのみとなりました。
石上駅~藤沢駅 昔の藤沢駅はどこに?
柳小路駅から石上駅までは、600mほど。線路沿いに道があるので歩いてもいいのですが、ちょうど電車が来たので電車で移動することに。石上駅を過ぎると、藤沢駅に向かって、江ノ電は高架を走り、小田急デパートの2階にある江ノ電の藤沢駅に到着します。「江ノ電の」と書いたのは、JR東海道線と小田急の藤沢駅から、やや離れた場所にあるからです。
石上駅を過ぎると、江ノ電は高架を走る
江ノ電の藤沢駅が小田急百貨店(以前は、江ノ電百貨店)の2階に移動し、石上駅~藤沢駅間が高架化したのは、昭和49(1974)年のこと。それ以前は、小田急百貨店の西側の、中央に植え込みや駐輪場のある道路(地上)を走っていました。
では、昔の江ノ電の藤沢駅はどこにあったのか、江の島生まれで地元に詳しい方に話をうかがうと、その場所に案内してくださいました。
藤沢駅南口の、大船寄りに、東海道線の線路下をくぐって北口方面に抜けるガードがありますが、そのガードを出たところ、現在、「リトルマーメード(LITTLE MERMAID)」になっている辺りに、かつての江ノ電の藤沢駅の駅舎があったそうです。
現在も北口方面につながるガードの出口部分に残っている扇状の階段
現在、ガードの出口部分に残っている扇状の階段は、ガード出口から階段上にあった駅改札口への導線であり、当時は、江ノ電の藤沢駅からは、国鉄の藤沢駅へ連絡通路がつながっていたことから、江ノ電、国鉄を利用する多くの乗降客が歩いていたのでしょう。
昔の藤沢駅周辺の写真は、下記リンク先の「えのぽ(えのしま・ふじさわポータルサイト)」に掲載されています。
えのぽ(えのしま・ふじさわポータルサイト)
さて、江ノ電各駅下車の旅、いかがだったでしょうか。電車に乗っていると、何気なく通過してしまう途中駅、下車して歩いてみると、様々な発見がありました。
【関連記事】
今、注目の江の島だけじゃない!藤沢の観光スポット10
はじめての江ノ島 おすすめ観光名所ベスト5
湘南の風と陽光を浴びながら、海辺をサイクリング!