メンタルヘルス

幻覚の種類と原因となる病気…幻視・幻聴など

【医師が解説】幻覚は代表的な精神症状の一つ。幻視や幻聴など、幾つかタイプがあり、統合失調症やアルコール依存症などの心の病気、器質性脳疾患、認知症などが原因になり得ますが、年代により、それぞれの頻度にかなり差はあります。幻覚の種類や、その前段階に当たるような症状や問題、そして精神科を受診すべき目安について解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

幻覚とは……幻視・幻聴・幻嗅・幻味など

幻覚の種類……幻視・幻聴など

実在しないものが見える、ないはずの音や声が聞こえる……これらは幻視や幻聴と呼ばれるもので、「幻覚」の基本的なタイプになっています

幻覚とは、「実際にはないもの」を実際に存在するかのように知覚する問題です。実在しないものが見える「幻視」、実在しない音や声が聞こえる「幻聴」などがあります。

幻覚は、日常的に起こる錯覚とはまるで別のものです。「見間違えた」「気のせいだった」というレベルでは知覚機能に問題はないです。一方、「幻覚」は、医学的な対処が必要な知覚異常だと捉えるべきです。幻覚は、統合失調症や認知症などが原因で起こるのが一般的ですので、放置しないことが大切です。

今回は精神症状の中でも代表的なものの一つである「幻覚」の特徴、原因、対処法について解説します。幻覚の前段階と見なせるような時期の注意点についても詳しく解説します。
 

幻覚の種類……「気のせい」と思えるうちは幻覚ではない

「幻覚」は簡単に言えば、実在しないものや誰かの声を知覚することです。それは周りには、あり得ない話ですが、当人には、しばしば現実と全く区別のつかない、リアルな精神体験になります。

幻覚は人の五感を構成する、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のいずれにおいても、現われる可能性があります。いずれも、実際には触れていないものを感じる、実際にはない味を感じる、実際にはない匂いを感じる……というように、実在しないものをリアリティーのある何かとして知覚します。
 

幻覚と心の病気…統合失調症やアルコール依存症との関連も

うつ病や統合失調症など心の病気は、幻覚の基本的な原因です。たとえば、統合失調症では、一般に幻覚はその急性期を意味する問題です。

また、幻覚が出ている場合、中枢神経系に作用する薬物が原因の可能性にも、場合によっては注意が必要です。例えば、アルコール依存症の場合、アルコールが急に体の中からなくなった時の、いわゆる「離脱症状」として、一部のかたに幻覚が出る可能性もあります。
 

幻覚の原因自体は不明でも、幻覚に対する治療薬は揃っています

幻覚は、脳内の機能に何らかの問題が起きたことが原因ですが、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。でも、幻覚に対する治療薬は揃っています。それは「抗精神病薬」と呼ばれるタイプの治療薬で、基本的には統合失調症等の治療薬ですが、それとはかなりタイプが異なる「うつ病」などで幻覚が現れてきた場合も、あるいはそもそも、心の病気でない場合で幻覚が現れてきた場合も、抗精神病薬は幻覚に対処できる、基本的な治療薬です。

統合失調症においては、その問題症状のなかで実は、幻覚は治療を開始してから、最も早く解決できる可能性があります。早ければ数日後には、その声が聞こえてこなくなる可能性もありますが、症状の経過に関してはかなり個人差があります。また、実際に数日後に幻聴が収まった場合、その幻聴の原因は、抗精神病薬がまさに脳内で解決した問題だった可能性があります。
 

幻覚の前症状のような知覚異常とは

もし急にはっきり幻覚が現われるようになったら、基本的には、たいへん深刻な事態です。緊急に病院を受診されることが望ましいです。

ただ、ここで注意しておきたいのは、いきなり幻覚が始まることは、なかなか少ないということ。その原因がもし統合失調症等の心の病気ならば、一般的にはその前段階とも言える問題や変化が、当人に出ていることが多いです。

そうした問題の内容や、それが現われていた期間にも個人差はかなりありますが、一般的な傾向として、本格的な幻覚が始まる前に何らかの知覚異常が出ていることは少なくありません。具体的には、一瞬の知覚の誤りと呼べるような問題です。それは、日常的によくある「見間違え」的なものではなく、あたかも魔法にかけられたような不思議で奇妙な体験になる方もいます。

たとえばですが、「鏡を見ていたら、鏡に映る自分の顔が一瞬全く別人の顔になった」といった体験です。もしこうした知覚異常が頻発していれば、これから、幻覚が本格化する可能性に充分注意したいです。
 

もし一時的な幻覚体験が始まったら、すぐ病院に連絡するのが良いです

もし一時的でもこうした知覚異常が現われていたら、本格的な幻覚が始まる前段階かもしれません。できれば、また本格化していないその段階で病院受診することが望ましいです。その原因がが心の病気であってもなくても、一般に早期に治療をスタートするほど経過は良好です。

しかし、たとえもし目の前に何か異様なものが一瞬映る……といった知覚異常が一日に何回かあっても、「疲れているから」「お酒が抜けていなかった?」などと頭の中で片付けてしまい、すぐ病院受診することはなかなか難しいかもしれません。

しかし、ここではっきり認識しておきたいことは、こうした問題は放っておくと、事態はますます深刻化していく可能性があることです。完全に幻覚体験が出てくるような深刻な事態に至るまえに、いかに当人に精神科を受診していただいて、必要なケアを受けてもらうか…といった問題は、社会のみんなで考えたい問題になっているとも思います。
 

年代別に幻覚の原因として注意したい病気もあります

10代、20代の方に、もしこうした問題が初めて現われた場合、統合失調症を発症しつつある可能性には要注意です。統合失調症はおよそ100人に1人がかかり、その好発期がまさにこの10代、20
代だからです。また、この年代で幻覚が出ている場合、1部の若者にありがちな問題として、場合によっては飲酒など何らかの薬物使用が関わっている可能性にも要注意です。

一方、40代以降の中年期に幻覚が初めて現われた場合、統合失調症の初発の可能性も否定はできませんが、10~20代の方と比べると、確率はかなり低いです。先にも挙げたアルコール依存症のように飲酒を含む薬物関連の影響や脳内の器質的病変などが関わる可能性をまずはっきりさせたいです。

そして60代後半以降、もし何かが見える、何かが聞こえるといった幻視や幻聴が初めて現われた場合、認知症などが関わっている可能性にも充分注意したいです。

以上、今回は代表的な精神症状の一つとして、幻覚を詳しく取り上げました。実際、幻覚に限らず、どのタイプの精神症状も、症状が本格化する前には、前触れとも言える、軽度の問題や変化がしばしばあります。それで、ここまで述べてきた幻覚の場合ならば、その前段階として、何らかの知覚異常がありがちなことは、今回のポイントの1つとして、どうか覚えておいてください。

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