ランチャスターの法則とは
宮崎駿監督の「紅の豚」では飛行艇を乗り回す空賊の荒くれ者と賞金稼ぎが登場します。映画はイタリア・アドリア海を舞台にしていますが、設定は第一次世界大戦後の動乱の時代。第一次世界大戦では戦車や航空機の近代兵器が投入され、戦争そのものを変えてしまいました。ポルコの昔馴染みで、ホテル・アドリアーノを経営するジーナの婚約者(飛行艇乗り)はこの大戦で命を落としたようです。ランチェスターというイギリス人がこの第一次世界大戦を分析し、2つの軍事的法則(ランチェスターの法則)を導きだしました。二つの法則は”競争の法則”と呼ばれ、兵隊、戦闘機、戦車などの兵力数と武器性能が戦闘力を決定づけるという内容でした。
一騎打ちの法則と確率戦の法則
第一の法則は一騎打ちの法則と言われ、”攻撃力=兵力数×武器性能”であらわされます。「紅の豚」には主人公ポルコとアメリカ人カーチスが決闘するシーンが出てきます。1対1の決闘ですので兵力数は互角です。飛行機の速さや機関銃の質などが武器性能となりますが、ポルコにはアドリア海でエースとなった”ひねりこみ”という技がありました。宙返りし、あっという間にカーチスの後ろにまわる技です。映画ではトドメをさしませんでしたが、ポルコの勝ちでした。ポルコの武器性能(技)がまさっていましたので、兵力数が同じなら攻撃力はポルコの方が高くなります。これが第一の法則です。
第二の法則は確率戦の法則と言われ”攻撃力=兵力数の二乗×武器性能”であらわされます。武器性能が互角であれば攻撃力は兵力数の二乗に比例することになります。
「紅の豚」では子供たちを誘拐したマンマユート団たち空賊連合とポルコが戦うシーンが出てきます。飛行艇の能力が同じなら兵力数が少ないポルコが負けるはずですが、能力以前に空賊連合は戦うモチベーションが低いため空族連合が負けてしまいます。ランチェスター第二の法則は同じようなモチベーションの兵力であることが前提となります。
新撰組、赤穂浪士が採用したランチャスターの法則
日本ではランチェスター第二の法則を新撰組が採用していました。もっとも戦闘のプロなので、たまたまランチェスター第二の法則と同じになっただけです。沖田総司、永倉新八、斎藤一といった剣豪なら武器性能が高いので1対1で戦っても勝てます。つまり一騎打ちの法則です。ところが京都などで新たに募集した隊士の技量は幕末志士とそれほど変わりません。つまり武器性能が互角となります。そこで新撰組は基本、3対1で相手を攻撃する集団攻撃を採用しました。つまり確率戦の法則です。
この戦法は新撰組オリジナルではなく、もともとは忠臣蔵の赤穂浪士が採用しました。吉良側は赤穂浪士の襲撃を予想して清水一学などの剣豪を揃えていました。赤穂浪士は鎖帷子を着込むなど防備をしっかりすることと吉良邸の武器庫にあった弓の弦を切り、槍を折ることで武器性能を互角にします。となると兵力差が問題となります。
赤穂浪士は吉良邸に侵入した後、家来が寝ている長屋に鎹(かすがい)を打ち込み、長屋から出られないようにし兵力差を削減します。そして3人1組で吉良側と戦います。結果は吉良側は死者16名、負傷者21名だったのに対し、赤穂浪士は死者なし、負傷者2名でした。うち1名は原惣右衛門が表門から飛び降りたとき足を滑らせて捻挫した負傷で、戦って負傷したのは1名だけです。効果が高かったため後年、新撰組が同じ戦法を採用しました。
弱者の戦略、強者の戦略
ランチャスターの法則は軍事的法則ですが、日本では独自の進化をとげ、マーケティングや経営戦略にいかされることになります。戦闘力を営業力、兵員数を量、武器性能を質に置き換え使われています。第一の法則からは弱者の法則、第二の法則から強者の法則が生まれ、弱者の法則は経営資源が少ない中小企業のための戦略で、基本は差別化です。大手企業が出ていない市場を攻める、大手企業がやりにくい顧客密着などになります。
神奈川県との境、東京都町田市にあるのが”でんかのヤマグチ”。町の電器屋さんでヤマダ電機、ヨドバシカメラといった家電量販店よりも価格は高いのですが売れています。”でんかのヤマグチ”が採用しているのが顧客データを絞りこんで、優良顧客にだけ手厚くサービスする戦略です。電球一個の交換でも顧客宅を訪問し、しかも出張訪問は無料。”遠くの親戚より近くのヤマグチ”を合言葉に事業を行っており、大手には絶対にマネができません。まさに弱者の戦略です。
強者の戦略はいわば大手企業の戦略です。数打てば当たる、いわば確率戦です。ホームページのSEO対策で一番単純なやり方はページ数を増やすこと。1ページだけのホームページと100ページあるホームページのどちらが検索エンジンで有利かといえば100ページの方です。
また強者の戦略はライバル企業が何か新しいことを仕掛けてきたら、同じことをするミート戦略があります。大手企業は経営資源が豊富ですので物量にまかせて同じことができます。ただ規模が拮抗している場合は消耗戦になってしまいます。中国ではシェアサイクル(中国語は共享単車)が流行しています。スマホで近くのGPSが搭載された自転車を探してQRコードで解錠できます。決済はプリペイドなどででき、乗り捨てできます。ただ流行したため参入企業が相次ぎ、消耗戦になりつつあります。
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