ストレス/仕事・職場のストレス(パワハラ・セクハラ等)

マタハラ・ケアハラの事例…職場で注意すべきこと

【産業カウンセラーが解説】2016年の男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正により、2017年1月から妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの防止措置が事業主に義務付られけています。マタハラ、ケアハラと見なされる言動の事例を解説し、予防のために意識すべきことを解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

マタハラ、ケアハラとは? 上司・同僚の何気ない発言も「ハラスメント」に

妊娠した女性

妊娠・出産、育児休業、介護休業等の制度の利用によって労働者が不利益を受けたり、働きにくい状況になると、ハラスメントになる

2016年に男女雇用機会均等法と育児・介護休業法が改正され、2017年1月より施行されています。この改正により、事業主には妊娠・出産、育児休業・介護休業に関する「不利益取扱い」(解雇、契約更新拒否、退職強要、不利益な配置転換、降格、減給、就業環境を害すること、等)の禁止のみならず、これらを理由とした「ハラスメント」を防止措置を講じることが義務づけられました。

妊娠・出産、育児休業・介護休業等に伴うハラスメントは、上司だけでなく同僚などもうっかり行ってしまう可能性のある行為です。何気なく行ったことが「ハラスメント」にならないよう、言動には十分に注意する必要があります。

妊娠・出産、育児休業・介護休業等に伴うハラスメントは、マタニティハラスメント(マタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と呼ばれています。この記事では、2016年改正の男女雇用機会均等法、改正育児・介護休業法を元に、防止措置が必要となるマタハラ、ケアハラの2タイプのハラスメント(「制度等の利用への嫌がらせ型」「状態への嫌がらせ型」)の解説と、これらのハラスメントを防止するためのポイントをお伝えします。
 

ハラスメントの事例・タイプ1:「制度等の利用への嫌がらせ型」

このタイプは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が対象としている制度を労働者が利用しにくくする、利用したことによって働きにくくするハラスメントです。

■男女雇用機会均等法が対象とする制度
妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)、坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限、産前休業、軽易な業務への転換、変形労時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限、育児時間

■育児・介護休業法が対象とする制度
育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の時間、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児のための所定労働時間の短縮措置、始業時間変更等の措置、介護のための所定労働時間の短縮等の措置

<事例と解説>
「妊娠中の体調不良によって休暇をとりたい」「子どもが熱を出したので休暇をとりたい」「親の介護で病院に連れて行かなければならないので、休みたい」などと上司に相談した場合に、上司が「これ以上正社員を続けるのは大変だろうから、非正規社員になってはどうか」などと返答し、不利益取り扱いを示唆した場合、1回でもハラスメントになります。

また、同僚などが同様のことを繰り返し言って制度を利用しにくくする場合も、ハラスメントです。また育児休業を申請した際に、上司が「産後3カ月で復帰した人もいる」などと言って、制度を利用しにくくする場合も、ハラスメントになります。

「制度等の利用への嫌がらせ型」のハラスメントは、男性労働者もターゲットになることがあります。たとえば、男性が育児休業を申請した場合、上司が「こんなに長く休みを取ったら出世に響くよ」と言って不利益取り扱いを示唆したり、同僚などが「うちの会社で男性が介護休業をとった例はないから、諦めた方がいいよ」と何度も言って制度を利用しにくくする場合も、ハラスメントになります。
 

ハラスメントの事例・タイプ2:「状態への嫌がらせ型」

このタイプは、女性労働者が妊娠・出産した状態に対して行うハラスメントです。

<事例と解説>
たとえば、妊娠したことを報告した人に対し、上司が「うちの会社ではハードすぎて続けられない。やめるのが現実的だよ」などと1回でも言って、不利益取り扱いを示唆した場合はハラスメントになります。

また、上司が「女性はいつ妊娠するかわからないから、使えない」「子持ちの女性は、残業できないから困る」と言って妊娠・出産した女性を働きにくくしたり、妊娠・出産した女性に対して同僚などが「何人子どもを産むのだろう? 彼女のせいで、私たちの仕事が増えて困る」などと陰口を言って働きにくくする場合も、ハラスメントになります。
 

マタハラ、ケアハラの原因は、職場の人々の認識不足の可能性も……

子どもと会話する母

たとえば、子どもの看護で休暇をとることは、労働者の権利です。ハラスメントによってその権利を奪うことはできません

妊娠・出産した人、育児休業・介護休業を取得する人に対するハラスメントは、無意識のうちに行っていることが多いものです。たとえば、妊娠・出産や育児・介護について以下のような意識を持っていると、マタハラ、ケアハラの行為者になりやすくなるので、注意しましょう。
  • 妊娠や出産をした場合、職場に迷惑をかけないように、自ら進退を考えるべきである
  • 男性は仕事を優先するべき。家庭の事情に振り回されることのないようにするべきである
  • 育児や介護中の労働者が正社員にこだわるのは、欲張りだと思う
  • 育児休業や介護休業などの制度は余裕のある組織だからこそ、取れるものである

労働者には、法律によって利用することのできる制度を活用しながら働ける権利があります。事業主や職場の人々がそれを理解せず、また、上のような意識を持っていると、無自覚のうちにハラスメントを行ってしまうことがあるので、注意する必要があります。当事者も、制度を利用しながら働き続ける権利があるのに、マタハラ、ケアハラを受けて退職を考えたり、働きにくさを感じながら我慢する必要はありません。

事業主にとっても人手不足の時代の中、すべての労働者が働きやすい状況をつくり、雇用を確保することはこれから先、ますます切実なことになっていくでしょう。ぜひ、改正男女雇用機会均等法・改正育児・介護休業法の内容を正しく理解し、ハラスメントをしない・させないことを心がけ、すべての人が働きやすい職場にしていきましょう。また、マタハラ、ケアハラにあたるかどうか判断に迷うときには、職場のハラスメント相談窓口や、都道府県労働局雇用均等室に質問してみるとよいでしょう。

なお、この改正と同時にセクハラ指針の改正も行われ、LGBTなどの性的少数者に対するセクハラもセクハラ指針の対象となりました。この内容については、「LGBTへのセクハラ事例・職場で注意すべきこと」で解説していますので、あわせてご覧ください。

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