メンタルヘルス

身近な人の異変…妄想症状に潜む原因と適切な対処法

妄想は基本的な精神症状の一つです。「妄想=空想」と誤解されることもありますが、妄想は精神医学的に使用される言葉です。もし身近な人が妄想を抱いてしまった場合、適切に対処する必要があります。妄想の原因と対処法について、詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

空想とは別物! 「妄想」は深刻な精神症状の一つです

うつむく女性

妄想は空想や想像とは違い、深刻な精神症状の一つです。その原因は心の病や身体疾患など、多岐にわたります

皆さんは「妄想」という言葉にどんなイメージを持たれるでしょうか? 日常会話の中では、ちょっとした妄想癖の「妄想」といった、ごく軽い意味で使われることが多いかもしれません。しかし、精神医学的には深刻な精神症状の一つとして扱われる言葉なのです。

「妄想=空想」と誤解されている方もいらっしゃるかもしれませんが、精神症状の妄想は、空想と違い、放っておいて良い問題ではありません。では、妄想と空想の違いは何なのでしょうか。また、自分の身近にいつもと違う、何か不自然な行動をする人がいたらどうすれば良いのでしょうか。精神症状の「妄想」を見分けるポイントとその対処法について詳しく解説します。

妄想と空想の違い…妄想とは間違った思い込みのこと

「妄想」と「空想」。この両者が表わす内容はもともとかなり違います。この違いは、自分の思考内容に自分自身で気づいているか否かということです。空想の場合、自分も他人も、その思考内容が空想であることをわかっています。しかし、妄想の場合、空想であると認識しているのは他人だけで、当の本人はその思考内容が空想であると全然気付いていないのです。当たり前の内容だと感じているため、通常、妄想を抱く当人の口から「妄想している」といった言葉は出ません。

妄想は簡単に言えば、間違った思い込みです。もし、当人の口から出る言葉にとても納得できない要素があれば、他人ならばすぐ気づくはずです。その非を相手に説いてみた時、その言葉にある程度耳を傾けてくれるのであれば、まだまだ妄想とは確定できません。妄想の可能性が出てくるのは、相手にその非をいくら説いてみても、当人が全く耳を貸さない場合です。

家に盗聴器? 妄想は合理的な思考能力が弱まっている状態

妄想の内容は他人から見れば、荒唐無稽なものである事もしばしばあります。しかし、その可能性を完全に否定できない場合も少なくありません。

例えば、家に盗聴器を仕掛けられたと思い込んでしまうケースです。仮に奥さんがそう思い込んでしまい、夫に訴えた時の状況を考えてみます。まず話を聞いた旦那さんはそれが本当かどうかを確かめます。奥さんの説明に納得できる要素が何かあれば、旦那さんが不安に思うのは当然なこと。しかし、どこを探してみても、専門の業者の人にお願いしても盗聴器は見つからない……。何度確認しても、奥さんは相変わらず盗聴器の存在を確信していて、さらには、その盗聴器は通常のやり方では決して見つからない特別なものだと思い込んでいる……。このように、相手の発言に耳を傾けることなく、周りの人が納得する話が見えてこない場合、妄想の可能性が強いでしょう。

こうした妄想を抱くという事は、合理的な思考能力が弱まり、現実を正しく認識し難い状態になっている恐れがあります。それを引き起こしている脳内の問題が深刻化していないか注意が必要です。

妄想の原因は身体疾患や薬物、アルコールのことも……

精神症状のタイプにはいくつか種類がありますが、妄想は現実と非現実の認識が低下する精神病性症状の1つです。妄想の原因を知るためには、脳内に起きている問題を見極めることが大切になります。

さまざまな問題が妄想の原因になります。まず考えるべきなのは、何らかの身体疾患や医学的な問題です。さまざまな疾患がありますが、具体的には脳腫瘍や内分泌系の問題などが原因になりやすいので、脳腫瘍の前駆症状や甲状腺機能など内分泌ホルモンの異常を疑う必要があります。脳内の腫瘍の有無を知るためにはCT検査、内分泌ホルモンの異常を知るためには血液検査などが必要です。また、場合によっては認知症の始まりという可能性もあります。

一方で、医学的な問題には薬物の影響が大きく関わってきます。睡眠導入剤など治療薬の濫用、さらには違法薬物も妄想などを引き起こす可能性があります。そのような状況では、薬物やその代謝産物が血中や尿中に存在していないかを知るために、血液検査や尿検査は重要です。また、アルコールやニコチンなども摂取状況によっては、精神病性の症状が現れる可能性もあります。特に、過剰摂取が続くような状況では妄想症状が出現しやすくなります。

統合失調症やうつ病など……心の病が原因で起こる妄想

妄想の原因に精神疾患の可能性を考えなくてはならないのは、上記のような身体疾患や薬物の関わりが否定されてからです。妄想も含め、精神病性の症状を主な特徴とする疾患は、一般に精神病性障害と呼ばれます。この疾患群には、これを代表する統合失調症とそれに類似する疾患が含まれます。

上記の例で、奥さんの症状が妄想に限定されていれば、妄想性障害の可能性がありますし、妄想以外に幻聴も伴っている場合は、統合失調症の可能性も出てきます。女性において、統合失調症が最も発症しやすいと言われる年齢は24歳から34歳までの10年間で、発症率は人口の約1%です。

また、頻度自体はかなり稀ですが、妄想内容が共有されるケースもあり、先の例でも、もし奥さんだけでなく娘さんまでも盗聴器の存在を確信していれば、共有精神病性障害を疑います。

いずれにせよ、妄想症状がある場合には、言葉で説得して対処できる簡単な問題ではありません。できるだけ早く医療機関を受診し、適切な治療を受けることが望ましいです。治療薬としては、抗精神病薬があります。抗精神病薬については、「抗精神病薬の作用機序・種類・副作用・一覧」や、「抗うつ剤、抗精神病薬…心の病気の治療薬の副作用」を併せてご覧下さい。


妄想症状の裏にはさまざまな疾患や問題が潜んでいる場合があります。もし身近な人に妄想症状の可能性を感じた場合には、軽視せず医療機関への受診を促して下さい。
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