何度叱っても悪ふざけをやめないのはなぜ?
「やめなさい」と何度注意してもやめない…。そもそも、その「注意」が悪ふざけを助長しているのかも?
一例をあげましょう。主婦のYさんのお宅には、7歳の男の子がいます。その子はとてもやんちゃで、悪ふざけばかりしているので、Yさんはヘトヘトです。お風呂から出た後には、いつも裸のままバスタオルをマントのように羽織り、「おちんちん仮面だ~」と奇声をあげながら走り回っています。「風邪ひいたらどうするの!」「早くパジャマを着なさい」と何度注意しても聞きません。毎日そんな状態なので、Yさんはいつもイライラして怒鳴りつけ、自己嫌悪に陥っています。
7歳の男の子なら、家庭の中でこんなかわいい姿を見せることもあるでしょうね。でも、忙しいときに何度も注意してもやめないと、さすがに疲れ、嫌気が差してしまうでしょう。こんなとき、どう接すれば、子どもは自然にやめてくれるのでしょうか?
行為への「注目」が、子どもの快感につながっている
子どもが悪ふざけをやめないのは、親が「観客」になってしまっているからです。親という権威者の注目を勝ち得、困惑させている――悪ふざけの演者である子どもにとって、これほどの成功と快感はないでしょう。小言を言われることなど、へっちゃらです。怒られれば怒られるほど、注目される快感が高まり、好ましくない行為を続けたくなってしまうのです。では、Yさんはどうするべきだったのでしょうか? ここで上手に行うべきなのが「取り合わないこと」。平たく言えば「無視」なのです。「無視」という言葉からはネグレクトをイメージし、罪悪感を覚えてしまう人も多いかもしれません。しかし、あくまでも無視をするのは、子どもの“存在”ではなく、好ましくない“行為”の方です。
「報酬」を与えなければ、「好ましくない行為」は減る
といっても、いきなり無視をしていいわけではありません。このケースの場合、まずその場で真剣に注意を伝えます。子どもの正面に座り、目線を合わせて「裸で走り回るのはやめなさい」と伝えます。「そんなことをしたら風邪を引いてしまうし、そもそも恥ずかしいことです」という理由も伝えます。「分かった?」と確認して「はい」と同意を得られたら、その後は子どもの意思に任せます。もちろん、1回注意したくらいでは、たいてい悪ふざけを繰り返すでしょう。ここからが勝負です。怒られた理由を理解している子が悪ふざけを繰り返すのは、注目という報酬が欲しいため。だからこそ、その報酬を与えない――悪ふざけという行為を「無視」するのです。
観客もいないのに、1人でふざけることほど、馬鹿馬鹿しいことはありません。「おちんちん仮面だ~」と走り回っても見向きもされないのでは、やりがいを感じず、そのうち恥ずかしさが湧いてくるものです。こうして、親がぶれずに、その行動に取り合わない(無視する)ことにより、子どもはひとりでに悪ふざけを止めるようになります。親は、何ごともないかのように、黙々と家事をしたり、テレビを見続けたりするといいでしょう。すると、子どもは自分から悪ふざけをやめていきます。
そして、子どもがその行動をやめて、自分でパジャマを着始めたりしたら、「着替えてくれてありがとう!」と、サンキュー・メッセージを送ります。好ましくない行為は無視し、好ましい行為には注目する。そして、好ましい行為を自発的にしてくれたことに感謝の気持ちを送る。この「無視」と「感謝」をセットにすると、子どもの好ましくない行為が減り、好ましい行為が自然に増えていくでしょう。
信頼関係が築かれていないのに、「無視」をしてはいけない!
行為を無視する前に、まずは親子の信頼関係をしっかり築いていることが大切
そもそも、身近な大人との信頼関係を実感できない子は、「好ましくない行為」をたくさん繰り返します。暴れたり、罵声を浴びせたり、噛んだり、叩いたり……。これらは「試し行動」と呼ばれ、愛情に不安を感じた子どもが、「自分という“存在”に注目してほしい」「どんなことをしても変わらずに愛してほしい」というアピールをする行動です。したがって、子どもが「好ましくない行為」をしているときには、どういう意図でそれをしているのかを、よく見極める必要があります。
試し行動で「好ましくない行為」を続ける場合、真正面からその行為を受け止め、「大丈夫、どんなことをしても君を愛してるよ」というメッセージを送り続けることが必要です。暴れる体を制しながら、ギュッと抱きしめてもいいでしょう。そして「危ないことはしない」というルールもきちんと伝え、約束をすることです。
こうしたぶれない愛情、ぶれないルールを伝え続けていくうちに、子どもは「自分の“存在”は認められている」という実感をつかむことができます。この実感こそが、他者との信頼関係をつくり、人生を前向きな気持ちで生きていくための最も基礎的な“心の土台”になるのです。