パリの「デュ・パン・エ・デジデ」で6年修業したあと独立
開業準備中だった小林健二さんのパンを初めて食べる機会があったのは2015年のこと。それが素晴らしくおいしかったため、お店ができるのを心待ちにしていました。
2016年7月1日、麻布十番にほど近い三田に、小林さんのお店「コメット」がオープンしました。
通りに面したブルーのお店
ヴィエノワズリーは大きめ、ハード系は小さめサイズ
「コメット」とは彗星のことです。フランス語に「彗星に図面を引く(できもしないことを企てる)」という言い回しがあって、この店のショップカードや袋にひっそりと書いてあるのですが、それは小林さんが大学時代、就職活動をしないでパン屋さんになろうと企てていたときに人に言われたことなのだそう。そこから店名を決めてしまうユーモアは、もしかしたらフランス流。「絵空事でも描いてみよう。みんなもやってみない?」という感じなんです、と奥さまの明夏(さやか)さんは楽しそうに言いました。
絵空事でも描いてみよう、みんなもやってみない?
対面販売の売場。大型のパンは後ろの棚に
小林さんはパリの名店「デュ・パン・エ・デジデ」で6年ほど修業後に独立しました。パン職人になりたいと思ったきっかけは学生時代、週末に訪れた東京で、高速バスを待つ間に買った、当時八重洲口にあった
PAULのバゲットサンド。「バゲットに味がある!」と驚いたのだそう。「これ、フランスパンだろ?なのに味がある。しかもチェーン店だという。チェーン店でこのレベル。フランスはすごいなぁ!」。
売場から厨房の様子が見える
それからフランスへ渡り、ルーアンの国立製パン学校へ。その後パリで卸し専門になっていた「プージョラン」でひと月はカンパーニュばかりつくり、次に「デュ・パン・エ・デジデ」へ。オーナーシェフのクリストフさんにはダイナミックさや、しっかりとしたパンの味をつくることを学んだと言います。
エスカルゴ
デュ・パン・エ・デジデ出身ならではのお馴染み「ピスタチオのエスカルゴ」(330円)も店に並んでいます。カスタード、チョコチップ、ピスタチオペーストが渦巻になったヴィエノワズリーです。季節限定で現在は「パイナップルココナッツ」もあります。外がカリッとなかはフワッとしたクロワッサン(260円)は隠し味にカシスのリキュールを使っています。カシスが香るわけではないけれど、季節で少しずつどこか変えていきたいという、それがコメット風です。
クロワッサンとショコラティーヌ
ヴィエノワズリーの命ともいえるバターはフランスのレスキュール社製。しかし小麦粉は、バゲット生地以外は基本的にすべて国産小麦を使っています。デュ・パン・エ・デジデから小林さんが受けたもう一つの影響は、国の農業への思い入れかもしれません。フランスのパン屋さんは皆、土地のものを使っていた。自分も日本の農業を応援したいと思っている、と小林さんは言います。
店の名を冠したパン、「コメット」
コメット
「コメット」という名のもうひとつの意味は、「米と」なのだといいます。米だけでなくてパンも、日々の食卓で料理と食べてほしいという想いを込めているのだそうです。
1/4サイズ。お試し用にスライス売りもある
「コメット」(1/2 520円、1/4 260円)はフランスにいた頃から少しずつつくりあげてきたパンで、十字にクープをいれた小さな座布団のような形状はお店のロゴマークにもなっています。ハード系のカンパーニュですが、香ばしいクラストはハード過ぎず、旨味のあるしっとりとした生地はさまざまな料理に合わせられそうです。
このコメットこそが、冒頭に書いたパンでした。わたしはこの名もなきパンをしばらく「プチパン・デ・ザミ」と勝手に呼んでいました。ただ、
デュ・パン・エ・デジデの「パン・デ・ザミ®」と似た雰囲気を持つのだけれども、食感がやさしいというか、どこか日本の風土にあった味なのでした。これなら日本の食卓にもすぐに馴染むのではと思います。
クープを入れているところ
主な材料には国産小麦(Type ER)、JAS有機米だけを精米した米糠が使われていて、微量のイーストで24時間の発酵をとっています。米糠にはそれじたいに油分があるので生地をしっとりとさせるのだそう。なるべく有機の素材を使うというのも小林さんが大切に考えていることです。
フランス時代から進化させてきたパン
パリ風のバゲットとカンパーニュ、旅から生まれるパン
バゲットだけはフランス産の小麦、ボース地方の「シェリジー」。「旨い小麦で、先端までおいしく焼けます。パリで食べるバゲットの味に近づけました」と小林さん。おすすめの食べ方は、「縦に割って無塩バターとハチミツを豪快に塗ってクルミをのせてかぶりつくんです。これはよく賄いで食べました」。
カンパーニュ各種
カクテル断面
ハード系はその他に、何種類かのカンパーニュが比較的小型の、食べ切りサイズで並んでいます。なかでも小林さんのイチオシは「カクテル」(270円)。レーズン、グリーンレーズン、ブルーベリー、クランベリー、ヘーゼルナッツがゴロゴロと練り込まれた味の濃いパンで、断面の気泡が埋まるくらいバターをたっぷりのせてカフェオレと一緒に食べるのがおすすめだそう。
コメットに行く前にはおいしい無塩バターを用意しておいたらいいですね。
デジュネ
「デジュネ」は国産小麦(Type ERとキタノカオリ)でつくった小型の食パンです。ハチミツ、ヨーグルト入りのあっさりとした味わいで、そのままサンドイッチにも向きます。
ソレイユ(左)、カルダモン(右)
デジュネの生地を使った「カルダモン」(240円)は北欧にインスピレーションを受けた丸パンで、トッピングした砂糖とバターのやさしい甘味にカルダモンがほのかに香ります。北欧のほか、南仏やイタリア、イギリスなど、旅からパンが生まれることもよくあるそうです。
イギリス風の本格スコーン
小林健二さん
「ぼくにパンをつくらせてくれるなんて、この上なく幸せです」と、まわりの人々に感謝しつつ、うれしそうに厨房に立つ小林さん。フランス仕込みの技で、日本でこれから進化したり、新たに生まれてくるコメットのパンに、さらなる期待がつのります。
レモンケイク
コメット
■コメット
住所:港区三田1-6-6
電話:03-6435-1534
営業時間:10時~19時
定休日:日・月
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東京メトロ南北線麻布十番徒歩4分