低価格戦略に潜む両刃の剣

しかしユニクロの強さは、単なる低価格戦略だけにあったのではありません。それまでも総合スーパー(GMS)などではただ価格が安いだけという衣料品はいくらでも売られていたのですから。ユニクロが圧倒的な力で業績を伸ばした背景には、低価格でありながら商品の新規性や品質、性能の点でそれまでの常識を打ち破ってきたということがあるのです。

例えば、ユニクロの名を一躍メジャーに押し上げたフリースやウルトラライドダウン。さらに大手繊維メーカーと共同開発したヒートテックなどはその新規性や性能が、価格と共に強いアピールポイントになりました。

このことが、他の商品も含めて「ユニクロは安いが、価格の割に品質が良い」というイメージを広く消費者に植え付けることに成功したのです。

解説

価格の値上げは潜在的顧客をも遠ざけたか

しかし裏を返せば、ユニクロの苦戦の原因が「価格の値上げ」と言われる理由もまたここにあるのです。ユニクロは一昨年から昨年にかけて、消費税アップ、円安、原材料費高騰等の理由により、累積で約20%ほどの主力商品の大幅な値上げに踏み切っています。

一度設定した品質水準を下げることはブランド戦略から考えても命取りになりかねません。それにもかかわらず、なぜ……。ユニクロは苦しい選択の中で、品質維持を優先し価格上昇をせざるを得ない状況に追い込まれたのだと理解できるのです。


消費者に根付く習慣価格とは

この止むに止まれぬユニクロの価格値上げ策が客離れにつながっている状況は、習慣価格という概念で説明ができます。

習慣価格とは、消費者が長年の価格イメージに慣らされて、習慣的にその価格水準を認めており、それを上回る価格設定に対しては需要が激減してしまう状況を言います。

小規模チェーン展開などの場合、利用者の絶対数が少ないために習慣価格が浸透することは起こりにくい。一方で、ユニクロのように全国に店舗展開をしている店舗では、利用者であるか否かにかかわらず誰もがユニクロの価格水準を認知しているため、習慣価格が根付きやすい。価格の水準を引き上げることは潜在的購買層に対しても「高い」と言うイメージを植えつけてしまい、既存顧客の減少と共に新たな顧客層の獲得にも大きな支障が生じてしまいます。

ユニクロの苦戦は、言ってみれば自社の過去の戦略が招いた苦戦でもあるといえます。つまり、「ユニクロ」は成長するにつれ、ひとつの「ブランド」ではなくひとつの「カテゴリ」として、より大きな枠組みのなかで認知されるようになった。ライバルなき過去との闘いという非常にやっかいな状況にあると言えるのです。

これを打開する策としては、企業イメージの転換による価格戦略の抜本的な見直しがありますが、これもまたユニクロほどの巨大チェーンになってしまうと、急激かつ完全なスクラップ・アンド・ビルドはなかなか困難。時間をかけて長期的な転換戦略を取る以外にないのかもしれません。

低価格戦略は、使い方によっては急激なシェア拡大をも実現できる一見魅力的な戦略ではありますが、それによる規模の拡大はまた将来的な戦略転換の足かせになりうるということも十分に想定しておく必要がある。今回のケースでみられるように「両刃の剣」にもなりうるのです。


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