マネジメント/マネジメント事例

富裕層の違い? シティバンク撤退にみる日本的事情

シティバンク銀行が日本での個人業務から撤退するというニュースが、衝撃的に報じられました。海外では個人取引に圧倒的な定評をもつ同行が、日本でなぜ撤退を余儀なくされたのか。日本特有の事情がそこにはありました。企業のマーケット拡大を標榜した国際戦略が陥りやすい失敗について、他の事例も参照しながら解説します。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

日本でプライベートバンキングを標榜したシティバンク

シティバンク(以下シティ)はアメリカに本拠を置く国際的金融機関で、その日本法人が07年に設立されたシティバンク銀行です。同行は、100年以上前から日本で銀行業務を続けており、それが今回、個人業務からの完全撤退を表明しました。実質は、わが国での主体的業務からの撤退に近いと言っていいでしょう。

説明

個人業務国内撤退を決めたシティバンク銀行

シティは外国銀行の日本支店としてスタートし、当初は他の外銀日本支店と同じく、日本における取引上の利便性確保を主な目的にその営業を続けてきました。

そして、80年代に入ってからはバブル経済の隆盛と共に、主に個人富裕層を中心にとした個人業務に注力。国内多店舗化および外銀のノウハウを活かした独自の商品開発等で個人顧客の取り込みを開始します。

そもそもシティは古くからアメリカでの富裕層取引には定評がありました。そしてバブル景気に沸く日本で、法人取引に比べて大手銀行による囲い込みが遅れていた個人マーケットに着目したのです。いわゆる資産家層に向けた、プライベートバンキング的な資産運用相談役としての地位確立を狙いました。

しかしその個人業務を撤退するに至ったということは、シティの30余年にわたる個人富裕層戦略は決して思惑通りにはいっていなかったということを意味します。それはなぜか。そこには本国における個人富裕層マーケットと日本のそれには大きな違いがあったからなのです。

シティバンク撤退の背景にある日本的事情

個人金融取引における海外先進国と日本との一番の違いは、「富裕層の定義」です。海外における富裕層とは、総資産で10億円以上が常識。総資産100億円以上の層も少なくありません。海外でのプライベートバンキングの役割といえば、そうした膨大な資産を背景として、その資産を減らすことなく食べるに困らない資金を着実に生みだすことなのです。

一方の日本はと言えば、総資産1億円以上を富裕層と定義するのが一般的で、運用資産で考えれば数千万円がスタートラインです。言ってみれば単純に“ひとけた以上小さい”。加えて国民総中流意識のわが国において海外のような確固たる資産家意識を持った層は本当に一握りであり、つまりシティが得意とするターゲット層があまりに薄かったわけなのです。
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます