1本の茶木だけから作られる極上の香り
今回ご紹介する「鳳凰単ソウ」というお茶は、数ある中国茶の中でも特に香りの高いお茶として人気があるお茶です。お茶会などで振る舞うと、皆さんその香りに驚かれるものです。産地は広東省潮州市で、鳳凰山という山で作られることから冠に「鳳凰」の名前が付いています。そして、後に続く「単ソウ」という部分に特別な意味があります。このお茶は、本来1本の木から摘まれた茶葉のみで製茶されます。この「1本の木」という意味が「単ソウ」です。鳳凰単ソウの茶木はそれぞれ異なる香りを持っています。ですから、他の茶木から摘んだ茶葉を混ぜる事はせず、その「単ソウ」の香りを生かして製茶されるのです。これが、鳳凰単ソウの香りの秘密です。
単ソウの「ソウ」の字は写真文字。
蜜、花、果物、スパイス等、多彩な香りが魅力
このように作られる鳳凰単ソウには沢山の香りの種類があります。よく見かける香りの名前は「蜜蘭香(みつらんこう)」「黄枝香(こうしこう)」「桂花香(けいかこう)」」「蜜桃香(みっとうこう)」などでしょうか。その多彩な香りは、蘭、梔子(くちなし)、金木犀、桃、ライチ、マスカット、時にはスパイス等にも例えられ、通常、「鳳凰単ソウ 蜜蘭香」というような表記で売られています。また、作り手が、出来たお茶に思い思いの名前を付けることもあるので、聞いたことのない名前の鳳凰単ソウに出会うこともあります。最近出会った名前で1番面白いと思ったものは「鴨糞香(かもふんこう)」というものです。中国茶は、1つお茶の名前に対していろいろな説がある場合があるのですが、この名前の由来の1つに「あまりにも良い香りのお茶が出来たので、他の人に取られないようにわざわざ奇妙な名前をつけた」というものがあります。私はこの説が気に入っています。お茶の香りが良いことを上手く表しているというか、中国人らしいというか、とても面白いですよね。
この様に、鳳凰単ソウは香りが最大の魅力のお茶なのですが、種類が沢山ありすぎて、今ここで全てを挙げることはできません。ですが、選ぶ時や買うときの参考として、本当にざっくりとですが、花のような香りなのか果物のような香りなのかという分け方が出来ると思います。せっかく鳳凰単ソウを味わうなら、その時の気分に合った香りのものを選びたいですよね。ご自分の気分が花なのか果物なのか、これを1つのイメージとしてお茶を選ぶ時の参考にされると良いと思います。
また、中国でこのお茶を買う時、お店の方に花香(hua1 xiang1)か果香(guo3 xiang1)かを伝えるとイメージが伝わり易いと思います。現地で悩んだときは伝えてみてくださいね。
記事を書きながら飲んでいたのは「酔佳人」という名前。果香でした
香りと記憶の密接な関係
さて、鳳凰単ソウの華やかな香りのお話をしてきましたが、実は香りは人間の記憶と重要なかかわりがあると言われているんです。偶然香った香水にある特定の人を思い出したり、水や空気のに匂いに何かを感じたりしたことはありませんか?嗅覚というのは人間の5感の中でも2番目に人の記憶や感情に影響を与える感覚とも言われています。そして、特に脳の感情を司る部分へ影響すると考えられているんだそうです。
鳳凰単ソウは、他の中国茶に比べて特徴的で際立った香りを持つものが多く、そのバリエーションも多いお茶です。私もいくつかの鳳凰単ソウの香りに特定の思い出が残っています。これはとても面白いことで、そのお茶を飲むと自然とその時の思いがよみがえってきたりします。
ですから、何か良い事があった時などにこのお茶を飲めばその記憶が体の中に残ってくれたりするかもしれませんよね。
渋みの出やすいお茶なので、茶壺で淹れるのもお勧めです。
淹れ方のコツ
鳳凰単ソウの香りを楽しむためには、淹れる時に少しだけ注意が必要です。昨今は発酵や焙煎が軽めのものが出回っていていて人気があるのですが、伝統的なものは重めのものが多く、茶葉は上の写真のとおり黒っぽい褐色で大きいです。こういった茶葉は渋みや雑味が出やすいという傾向があります。
香りを存分に堪能する為には蓋碗(がいわん)で淹れることをお勧めしたいところなのですが、もしもお手持ちのお茶を淹れてみて、渋みや雑味が気になる場合は茶壺を使われると少し抑えられると思います。それから、香りを立たせる為に、お湯の温度は出来るだけ高い温度で淹れることをお勧めします。試してみてくださいね。
何か良い事があった時や節目の時、香り高い中国茶とともにそんな思いでを振り返る時間を作ってみるのは如何でしょうか?きっと鳳凰単ソウの芳醇で素晴らしい香りが、皆さんの思い出を素敵なものとして記憶に残してくれることと思います。