今回は元キーロフ・バレエのエルダー・アリエフが振付指導に、イリーナ・コルパコワが監修にあたります。
三木>現在教わっているエルダー先生には去年の『海賊』のときもお世話になっていて、コルパコワ先生は本番前に来る予定です。オーソドックスなロシアスタイルなんですけど、セルゲーエフ版なので、より難しいですね。例えば二幕のパ・ド・ドゥのシーンも、難度の高いリフトが入っているし。永橋>エルダー先生によく注意されるのが、踊り分けの部分。一幕、二幕、三幕と、女性が成長していく過程を見せるようにと言われます。技術をきちんとこなしながら表現を加えるところがすごく難しくて、とにかく回数を重ねて慣れていかなければという感じですね。
三木>コルパコワ先生はご高齢なので、前回の『海賊』の時は体調がすぐれず残念ながら来日が叶いませんでした。今回は本番までに何とか来てくださると言っていて……。
永橋>ぜひ来て欲しいです! コルパコワ先生に身をもって教えてもらえるなんて、そんな経験めったにないですから。私も『眠れる森の美女』といえばコルパコワ先生という感じで、映像で何度も観ていたので。
(C) TOKIKO FURUTA
三木>エルダー先生がiPadで秘蔵映像を見せてくれるんですけど、信じられないですよ。“本当に何十年も前のひとなの?”という感じ。古臭さが全くないんです。真の超一流ってそういうものなんだなって感じます。
永橋>もう芸術です。スターですね。今回の版もコルパコワ先生が踊っていたものをもとにしているらしく、エルダー先生も“コルパコワ先生は目線はこうだったよ”とエッセンスを教えてくださいます。できるだけそれを取り入れながら、自分自身のオーロラ姫を踊れたらと思います。なかには独特だなっていう部分もありますね。テクニック的な部分やアームスの使い方とか、目線の付け方にしても、ちょっと日本人的ではないというか……。
三木>例えば日本ではメソッドを習っても、実際に踊るときはアームスの通過点などはある程度崩すことが多いもの。でもエルダー先生の場合、“ここはこうでなければいけない”と決まっているんです。例えば上にあげた手を日本人ならそのまますっと下ろすけれど、エルダー先生は手が下からあがって来たなら必ず一度開いて終わらせなければパとして成立しないと言う。そこで音に遅れてしまうのは君の踊り方が間違っているんだと。ただ動作が増えた分については、“こういう風に音を取ればいいんだよ”ときちんと指導してくださるので勉強になりますね。
永橋>音楽的に教えてくださるし、だからこそアクセントが生きてくる。先生が言う通り踊ると、きちんと表現が見えてくるんです。
(C) TOKIKO FURUTA
最も手強いなと感じる部分はどこですか?
三木>なにせ妥協がないので、繰り返しがとにかく多くて……。“さあランスルーしよう!”と言っておきながら、最初のワンステップを踏んだ途端“ストップ!”って止められる。絶対に見逃してくれないんです。ソロを続けて5、6回踊るなんて当たり前で、体力面ですごくきついですね。もともとロシア人の気質自体そうだと思うけど、エルダー先生は群を抜いてます。世界各国でバレエマスターをされてきたし、芸術監督としてもみてる。ディレクターでありマスターでもあるからより厳しいんですね。手強いなんてものじゃないです。一日が終わると、脚が子鹿みたいになってます(笑)。永橋>体力的な部分と、精神的な部分もそう。毎回同じことをやらされるから、メンタルも強化される。でもそこが楽しいというか、妥協せずにどんどん積み重ねることで良くなっているのを感じるので、エルダー先生にくらいついていきたいです。注意されるのは、アームスの通り道や立ち方とか、本当に基礎の部分。自分が足りてないところがよくわかって、良い反面大変ですね。考えて踊らないと、今までずっとやってたことがたまに出てきてしまう。いかに自分がやりやすいように踊っていたか、もう一度確認できるので勉強になります。特に三幕は踊り慣れているので、クセで踊らないようにしなければと思っています。あとやっぱりロシアバレエなので、踊りにエネルギーがあります。全幕のグランドバレエ、しかも『眠れる森の美女』に見合うエネルギーがないと主役は踊れない。しかも東京文化会館は大きいし、衣裳や装置に負けないようにしなければと思います。
(C) TOKIKO FURUTA