宇宙・天体/星空にまつわる豆知識、トリビア

なぜちょうこくしつ座が星座の名前に?!神話のない不思議な星座たち

なぜ「ちょうこくしつ座」が星座の名前になったのでしょうか。星座と聞いて思い浮かぶのは、神様や英雄、動物の姿。それらの星座には、神話や冒険物語がつきものです。しかし世界共通の88星座の中には、「これも星座の名前なの?!」と驚いてしまうようなものもあります。

執筆者:景山 えりか

ちょうこくしつ座……不思議な星座たち

なぜちょうこくしつ座が星座の名前に?!神話のない不思議な星座たち

星座の名前の由来をしっていますか?

星座はギリシア神話から誕生したと思っている人は少なくないでしょう。でも、実はそうではありません。
 
<目次>
 

星座の始まりはメソポタミア

星座の起源は、今からおよそ5000年以上前のこと。現在のイラクにあたる場所で、チグリス川とユーフラテス川がペルシア湾へ注ぎこむ付近の、メソポタミア地方に由来すると考えられています。

その土地で農業を営んでいたシュメール人は、星の動きを観察して、種まきや収穫の時期を知る術としていました。やがて人々は星と星をつなぎ、身近な動物や神様の姿に当てはめました。これが星座の始まり。私たちになじみのある星座は、メソポタミア生まれなのです。
 

ギリシア神話と結びついて広く世界へ

時代がくだっていくとともに、メソポタミアの星座は周辺諸国に伝わっていきました。一方、古代ギリシアではギリシア文学(神話)が登場。神話の神々は、恋をしたり、嫉妬したり、悲しんだりと、とても人間的。そんな親しみやすい物語と星座が結びつけられて、世界中に広まっていきました。
 

星座作りのラッシュを経て、制定された88星座

15世紀になって大航海時代が到来すると、南半球の星空が観測されるようになり、天文学者たちは個人的な趣味や権威の象徴として勝手に星座を作り始めてしまいます。さらに星座と星座の隙間を埋めるような小さな星座も作られて、星空は大混乱状態に!

そこで1928年、国際天文学連合は星座を整備し、世界共通の88星座を制定。同時に星座と星座の境界線も定められました。

というわけで、私たちが夜空に探すことができる星座は全天で88です。

長い歴史の中で、ギリシア神話と結びついて普及した星座ですが、先ほども書いたように、天文学者たちが勝手に作った星座があるもの事実です。それらの星座には、当然神話はなく、しかもちょっと風変わり。でも、そこが魅力といえなくもありません。

それでは、私が「こ、これは無理があるのでは?!」と思った不思議な星座の中から、日本で見られるものを厳選して3つご紹介しましょう。
 

ちょうこくしつ座

「ちょうこくしつ」とは「彫刻室」。なんと、部屋を表す星座です。この星座を作ったのはフランスの天文学者・ラカイユ。ラカイユ本人は「彫刻家のアトリエ」という星座名をつけたのだそう。星と星をつないだ形は、とてもアトリエ(彫刻室)には見えませんけれど。ラカイユは想像力が豊かだったのでしょうね。
ちょうこくしつ座

「ちょうこくしつ座」は秋の星座です。芸術の秋にぴったり?!

星座絵を見ると、槌とノミが無造作に置かれ、台には胸像が置かれています。この胸像は制作途中なのでしょうか……謎です。

暗い星ばかりで全体をとらえるのは難しい星座ですが、「旬の星座を楽しむ【秋の星座】」で登場した、秋の星空でたったひとつの1等星・フォーマルハウト(みなみのうお座)と、デネブカイトス(くじら座)を目印にすると、だいたいの位置がわかります。
 

ちょうこくぐ座

彫刻室だけじゃなくて、道具も星座にしないと! というわけで、「彫刻具」です。作った人は、もちろんラカイユ。星座と星座の間を埋めようと、隙間家具的に作られました。その小ささは、小さな星座トップ10にランクインするほど。
ちょうこくぐ座

「ちょうこくぐ座」を作ったラカイユは、アート好きだったのかもしれませんね

彫刻具として星座絵に描かれているのは、「たがね」と呼ばれる鉄の棒。石を砕くときに使う、先の尖った道具です。交差した2本のたがねが、リボンで結ばれているところがなかなか洒落ています。

この星座も暗い星ばかりなので、夜空に探すのは至難の業。冬の宵、オリオン座が真南に昇ってくる前に、地平線に近い南の低空で輝いています。見晴らしのいい場所で、人工の灯りの影響を受けない暗い空に探すのがコツです。
 

ポンプ座

フランスの天文学者・ラカイユは、科学機器や道具を好んで星座にしました。ポンプ座もその中のひとつで、実験に使う真空ポンプなのだとか。かなりマニアックです。
ポンプ座

星と星をつないでもポンプに見えないので、想像力でおぎないましょう

星座絵を見ても「これがポンプなの? どうやって使うのかしら」と、首をかしげてしまいますよね。ラカイユが生きていた時代、当時発明されたばかりの真空ポンプですから、そう思ってしまうのも当然です。それにしても、星と星をつないだ形と星座絵があまりにもかけはなれているので、この星座を楽しむには、たくましくて豊かな想像力が求められそうです。

ポンプ座は春の星座です。「旬の星座を楽しむ【春の星座】」でご紹介した「春の大曲線」のカーブをからす座の先までのばしていくと、ポンプ座に行き着きます。また、同じく春の星座のしし座が南の空高く昇ったときに、レグルスから地平線方向へ視線を移していくと、低空にポンプ座があります。やはり暗い星ばかりで星座全体をとらえるのは難しいため、位置を確認するところから始めましょう。

真空ポンプを夜空に探す……ロマンチックな気分は味わえそうにありませんが、「たぶん、あそこだ!」と確信を持てたときは、爽快な達成感でみたされること請け合いです。

いかがでしたか? 掘り下げていくとけっこうおもしろい神話のない星座たち。88星座の中には、そのような星座がまだまだありますから、自分のツボにはまる、お気に入りを探してみましょう。
 

全天88星座の名前リスト

※50音順にご紹介しています。
※「座」は省略してあります。
※【 】は見頃となる季節、もしくは南天(南半球)でよく見えることを表しています。

1. アンドロメダ【秋】
2. いっかくじゅう(一角獣)【冬】
3. いて(射手)【夏】
4. いるか(海豚)【夏】
5. インディアン【南天】
6. うお(魚)【秋】
7. うさぎ(兎)【冬】
8. うしかい(牛飼)【春】
9. うみへび(海蛇)【春】
10. エリダヌス【冬】
11. おうし(牡牛)【冬】
12. おおいぬ(大犬)【冬】
13. おおかみ(狼)【夏】
14. おおぐま(大熊)【春】
15. おとめ(乙女)【春】
16. おひつじ(牡羊)【秋】
17. オリオン【冬】
18. がか(画架)【冬】
19. カシオペヤ【秋】
20. かじき(旗魚)【南天】
21. かに(蟹)【春】
22. かみのけ(髪)【春】
23. カメレオン【南天】
24. からす(烏)【春】
25. かんむり(冠)【夏】
26. きょしちょう(巨嘴鳥)【南天】
27. ぎょしゃ(馭者)【冬】
28. きりん(麒麟)【冬】
29. くじゃく(孔雀)【南天】
30. くじら(鯨)【秋】
31. ケフェウス【秋】
32. ケンタウルス【春】
33. けんびきょう(顕微鏡)【秋】
34. こいぬ(小犬)【冬】
35. こうま(小馬)【秋】
36. こぎつね(小狐)【夏】
37. こぐま(小熊)【春】
38. こじし(小獅子)【春】
39. コップ【春】
40. こと(琴)【夏】
41. コンパス【南天】
42. さいだん(祭壇)【夏】
43. さそり(蠍)【夏】
44. さんかく(三角)【秋】
45. しし(獅子)【春】
46. じょうぎ(定規)【夏】
47. たて(楯)【夏】
48. ちょうこくぐ(彫刻具)【冬】
49. ちょうこくしつ(彫刻室)【秋】
50. つる(鶴)【秋】
51. テーブルさん(テーブル山)【南天】
52. てんびん(天秤)【夏】
53. とかげ(蜥蜴)【秋】
54. とけい(時計)【秋】
55. とびうお(飛魚)【南天】
56. とも(艫)【冬】
57. はえ(蠅)【南天】
58. はくちょう(白鳥)【夏】
59. はちぶんぎ(八分儀)【南天】
60. はと(鳩)【冬】
61. ふうちょう(風鳥)【南天】
62. ふたご(双子)【冬】
63. ペガスス【秋】
64. へび(蛇)※頭部と尾部に分かれています【夏】
65. へぶつかい(蛇遣)【夏】
66. ヘルクルス【夏】
67. ペルセウス【秋】
68. ほ(帆)【春】
69. ぼうえんきょう(望遠鏡)【夏】
70. ほうおう(鳳凰)【秋】
71. ポンプ【春】
72. みずがめ(水瓶)【秋】
73. みずへび(水蛇)【南天】
74. みなみじゅうじ(南十字)【南天】
75. みなみのうお(南魚)【秋】
76. みなみのかんむり(南冠)【夏】
77. みなみのさんかく(南三角)【南天】
78. や(矢)【夏】
79. やぎ(山羊)【秋】
80. やまねこ(山猫)【春】
81. らしんばん(羅針盤)【春】
82. りゅう(竜)【夏】
83. りゅうこつ(竜骨)【南天】
84. りょうけん(猟犬)【春】
85. レチクル【南天】
86. ろ(炉)【秋】
87. ろくぶんぎ(六分儀)【春】
88. わし(鷲)【夏】

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