モノの硬さは水分量に左右される。
そして、水は低きに流れる
あらゆるモノの硬さは水分量に比例する
ここから2つのことが分かる。ひとつは低い場所は軟らかいということ。水は低い場所に流れるからである。もうひとつは時間が経つと水分は抜けるということ。つまり、古い土地は硬く、新しい土地は水分が抜けていないので軟らかいということである。
これが分かれば、地盤の硬軟も分かってくる。低い土地、新しい土地を避ければ良いということになるからである。そのうち、土地の高低については地形を知ることで分かるようになる。以下、首都圏の地形をざっくり見ていこう。
その土地が3種類の地形のうちの
どこにあるのかを知る
日本の地形は大きく山地、丘陵、台地、低地の4種類に分けられる。細かく、専門的に言い出せばもっといろいろあるが、本題には関係しないので、ここでは略する。そのうち、都市圏で人が居住しているのは山地以外の場所、つまり、丘陵、台地、低地の3種類である。非常に大ざっぱには高さのあるほうから丘陵、台地と続き、もっとも低い場所が低地と考えれば分かりやすいだろう。
首都圏の場合、神奈川県、東京都、埼玉県、千葉県にはそれぞれに台地、一部には丘陵があり、その間を河川が流れている。神奈川県と東京都の間には多摩川、東京都と千葉県の間には江戸川、東京都と埼玉県の間には部分的には荒川と考えれば分かりやすいだろう。川沿い、海沿いが低地であるのは自明で、そうした場所は地盤が弱い。低い土地は弱いのである。
そこでまず、知っておきたいのは自分が住む、住もうとしている土地が低地、台地、丘陵のいずれに属しているか、である。これについては「安全な街選びの第一歩、首都圏の地形を知る」という記事で詳述しているので参考にしていただきたい。
首都圏の主要部であればグーグルアースの上に東京地形地図という無料のアプリを重ねることで土地の高低が視覚的に分かるようになる。そこまで使わなくても、最近のスマホ等の地図アプリでは標高が出るものも増えているので、それを参考にする手もある。基本的には標高20m以上であれば台地で比較的安全と考えてよい。逆に10m以下、特に5m以下の場合には地震、水害などの危険を考えておく必要がある。最近では地下鉄の出口、津波などが想定される湾岸の街の電柱などにその地点の標高が掲示されているので、それをチェックするだけでも自分がどのような場所にいるかが分かる。
ただ、標高自体が高くても相対的に低い土地は存在する。たとえば、水芭蕉で有名な尾瀬沼は標高自体はとても高く1600m以上に位置するが、その周囲にはさらに高い山が続き、相対的に見ると低地。そのため、高いけれど低地ということになる。首都圏の場合も東京都の多摩川から荒川の間に広がる武蔵野台地の中には神田川や目黒川その他の河川が削った谷底低地(こくていていち)と呼ばれる低地がある。東京都心部に坂が多いのはそのため。台地の中にも低地があるわけで、台地だから全部安全というわけではないので注意が必要である。
その土地の過去と歴史、
どのように使われていたかを知る
次に土地の新旧を知ろう。正確を期するためには土地のそもそもの成り立ちを知り、その後、どのように使われてきたかを2段階で調べるのが良い。これについては独立行政法人産業総合研究所地質調査総合センターが作っている「20万分の1シームレス地質図」をチェックするのが効率的。その土地が何年前にできたかが分かる。また、同地図はスマホでも利用でき、GPSと連動させて使えば、自分が現在いる土地の古さを知ることもできる。ただし、20万分の1という縮尺なので、細かいところまでは分からないので、それについては現地での確認を忘れないようにしたい。この地図を見ると分かるが、東京低地などと呼ばれる低地ができたのは1万8000年前くらい。私たちは三代前からこの土地に住んでいて、その間何もなかったから安全などと口にするが、人間の時間と地球の時間は単位がそもそも違う。自分が知っている範囲で何もなかったということが安全という意味ではない。ちなみに地震よりも火山の時間のほうがもっと長いそうで、火山噴火の予知は地震以上に難しいと聞く。
次に過去の土地利用を調べたい。それに役立つのは現在の地図と過去の地図を左右に並べて表示できる「今昔マップon the web」が便利。首都圏のみならず、日本の主要都市について調べられるのが特徴だ。また、古地図になじみがなくても右側に必ず現代の地図が表示されるので自分がどこの地図を見ているかが分かるのが大きなメリット。
使い方としては時系列でどのように使われてきたかを調べるのが手。明治時代には池があった、急傾斜地だったのに現在は平坦な宅地になっているケースもあり、過去の地図を調べるだけで分かる危険も多い。
過去の地図を見る際にはそこに何があったかだけでなく、地名も併せてチェックしよう。現在の地名は過去の地名を集約して作られていることが多く、過去の地図には昔の、今は無くなってしまった字名などが残されている。それらが水にちなむような地名の場合には、そこから危険が分かることもある。過去に「災害時に危ない場所を地名から知る」という記事を書いているので参考にしていただきたい。
その土地と周囲の土地との関係、
危険の可能性について知る
ここまではパソコン上で知ることができるが、そこまでで満足してはいけない。必ず、現地へ行き、周囲の状況を自分で確認したい。たとえば、台地上にも低地があることは先述した通りで、そのあたりは縮尺の大きな地図では分かりにくい場合もある。だが、自分の体、目で確認すればそうしたところにも気づくはずだ。大事なことは自分が住んでいる、買おうとしている土地と周囲との関係である。周囲から見て低くなっていないか、坂の途中になっていないか、底になっていないかなど、関係から分かることは多いのだ。
特に注意したいのは自治体の境界周辺に位置している場合。川がある、幹線道路があるなど分かりやすい境界ならよいが、それ以外では地形や過去の川跡が境界になっていることなどもある。どうしてそこが境界になっているかで過去の地形を想像できることもあるのである。境界については「境界協会に聞く、街の境界の意味」という記事があるので参考にしていただきたい。
また、歩いてみる時には該当するエリア周辺に危険な兆候が見られないかを意識することも大事である。たとえば、電柱が傾いている、古い住宅と道路の間に段差があるなどは軟弱地盤の可能性が高いし、擁壁がはらみ出していたり、ひび割れなどが見られる地域では地盤とは異なるが、土砂崩壊などの危険があり得る。現地を歩く時にはその場所にあるものの水平垂直を意識し、傾き、段差に敏感になることが大事だ。参考になる、危険を写真で見られる記事としては、地形などに応じて「歩いて、見て知る地盤の危険 低地編」「歩いて、見て知る地盤の危険 高台編」「歩いて、見て知る危険な擁壁」がある。
もうひとつ、地盤自体は安全でも周辺に倒壊しやすい、燃えやすい家があったり、崖の崩落、橋の落下などで避難しにくい場所もあるので、現地を訪れる際にはそうした点にも目を配りたい。防災上危険がある場所はまた、防犯上危険がある場所とも重なる。いずれも安穏な生活を脅かすものと考えると、何を見てチェックするかは大きなポイントになるはずだ。「地震時に危ない場所は見えている」ので、見る努力をしたいところである。