造成地には違法、無許可その他
危険がいっぱい

危険な大谷石の擁壁

劣化が激しい大谷石を積み増して作られた擁壁。奥のほうは傾斜に対して並行に擁壁が作られており、構造上、地滑り等の危険があり、非常に危険(クリックで拡大)

山がちで平らな土地が少ない日本では山を削り、谷を埋めて宅地を造成してきた。人口が急増する時代にはそれは必然だったわけだが、問題はいい加減な造成が多かったこと。日本で国土の改変が始まったのは昭和30年代だが、宅地の造成を規制する宅地造成等規制法が施行されたのは昭和37年。すでに造成が進んでから後追いで法が作られたわけで、それ以前の造成が適法だったかどうかについては疑義がある。

 

造成中

許可を得て施工されている横浜市内の造成地。奥のほう、擁壁の上に柱を建てているのが見えるが、これは既存の擁壁に過重な負担がかかり、危険とされる(クリックで拡大)

加えて現在の造成が安全かという点にすら疑義がある。近しいところでは平成26年8月には土砂崩れで広島市の74人が死亡しているし、同年10月には横浜市緑区で1人が死亡している。しかも、横浜市の事故の後、市が過去の指導を洗い直したところ、最後の指導から一年以上放置されている違法造成地が200カ所以上に及んでいることが分かったという。人が死ぬかもしれない造成を違法に行い、しかも、それが是正されていないのである。平成27年7月にも日野市で無許可(!)で宅地造成を行い、怪我人が出たとして土木会社の関係者が逮捕されたが、この徹底的ないい加減さを考えると、住宅を買う人はかなりの注意をもって造成地を見なくてはいけない。

 

30度以上の傾斜地ががけ
がけが崩れるのを防ぐために擁壁がある

急傾斜地

高低差のある土地が多い神奈川県では擁壁どころか、5メートル以上で急傾斜地崩壊危険区域に指定されるエリアも少なくない(クリックで拡大)

さて、ここでは造成と密接に関わることが多い擁壁について取り上げる。擁壁とはがけが崩れてこないようにするためのものである。では、がけとは何か。建築基準法19条4項は「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」と規定しているが、肝心のがけについては同法は規定していない。

 

規定があるのは宅地造成等規制法で、同法施行令1条2項は「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地」としている。基準法に基づく自治体の条例の多くも同様に勾配が30度を超える傾斜地をがけとしていることから、がけとは30度以上の傾斜であるということが分かる。この角度以上のがけがある場合には擁壁を作るなど、がけが崩れてこないような安全策を取らなくてはいけないわけだ。

擁壁と塀

横浜市建築局建築指導部 がけQ&Aより

ちなみに塀との違いは右の図の通り。擁壁の場合には左右の土地の高さが違い、土の重みを支える必要がある。塀も倒れた時には被害を出すが、擁壁の場合は塀以上に大きな被害となることが多い。

 

富士山

富士山よりも急傾斜を見たら、擁壁が必要と思えば分かりやすいだろう

基準になる30度は安息角と言われ、非常にざっくり言うとバケツに入れた砂をぶちまけた時に山になって崩れない角度である。重力と砂の摩擦係数が均衡を保つ角度であり、実際には土質によって差がある。富士山の山頂付近には34度より緩やかな傾斜になっている部分、34度以上の傾斜になっている部分があるが、これは何が噴火して作られたかによるもの。そのため、正確にいうと土質に応じて擁壁を設置しなくて良いなど緩和規定があるのだが、いささか専門的になりすぎるので、そのあたりは割愛する。

 

古いひび割れた擁壁

2メートル以上の高さがある上、ひびが入り、かつ微妙に孕みだしている古い擁壁。妊婦のお腹を想像していただければ孕みだしの意味は分かるだろう(クリックで拡大)

角度の他にもうひとつ、ポイントになるのは高さである。何メートル以上をがけと言うか。これについては自治体によって基準が異なる。神奈川県の建築基準条例は3メートル以上について規制をかけており、平塚市は2メートルとしている。判断が分かれるところだが、ひとつ、目安とされているのは2メートルを以上の擁壁を作る際には建築基準法に基づき、建築確認申請が必要になるという点。確認がいる=がけと判断されているケースが多いのである。

 

ちなみに高い擁壁があるとそれだけで不安になるものだが、それほど高くないなら安心と思ってしまいがち。だが、建築確認申請が不要だからとあえて2メートル以下に抑えるケースもある。手間を省くのが目的だが、それ以外に目的があるのではという懸念もある。見た目だけで判断せず、設計図面を見せてもらう、国交省の認定工法で作られているかどうかを確認するなどしたいところだ。

危険な擁壁の2種類、
「そもそも危険」「後から危険」

渋谷川

今回は擁壁を見ながら田町から目黒までを歩いた。これは途中の古川(港区内での名称。それ以前は渋谷川)の護岸。一番下の部分は土木として作られているが、その上に複数、積み上げられている擁壁は宅地造成として作られており、所有者ごとに作り方も高さも違う(クリックで拡大)

さて、危険な擁壁には大きく2種類がある。そもそもが違法で危険というものと、作った時には問題なかったあるいはなかったように見えたものの、何らかの理由で危険になったものである。ここでは住宅地盤調査・設計施工主任技師の高橋和芳さんと一緒に歩きながら見て回った危険な擁壁を中心に何が危ないのかを見ていこう。

 

まず、国土交通省が作った我が家の擁壁チェックシート(案)によると、そもそも危険な擁壁としては以下の4種類がある。

1、 空石積み擁壁 
古い擁壁

古い寺社の擁壁。コンクリート以前の時代のものと思われる。場所によって積み方が違うなど、時代時代で積み上げられてきたことが分かる(クリックで拡大)

石などを積み上げただけでコンクリートで一体化されていないもの。当然だが、表面を保護する程度の機能しかなく、何かあったら、崩れる可能性大。だが、ぱっと見て分からない人も多いはず。

 
2、二段(多段)擁壁
2段擁壁

2段に積み上げられた擁壁。古い造成地ではけっこうよく見る(クリックで拡大)

段々に擁壁を積み上げたもので、宅地を広げようという意図で擁壁の後ろにまた擁壁を作りというやり方で作られている。崩壊しやすい。

 

3、増し積み擁壁
増し積み擁壁

左側はなんと5段も増し積みしており、かなり古いものらしい(クリックで拡大)

これも宅地を広げるために作られたもの。既存の擁壁の上にブロック塀などと積み上げて盛土を施してある。もし、下の擁壁がちゃんと作られていたとしても、上に乗ることは想定されていないので、全体としては強度が足りない。歩いていて一番よく分かるタイプがこれだ。当然増積み部分が高いほど危険で1メートルを超す場合は危険を覚悟したい。2メートル以上は率直なところ、論外。

 

4、張り出し床板
張り出し

張り出し床板。これも高低差の大きな地域ではよく見るタイプ

擁壁下端に建てた柱に鉄筋コンクリート造等の床板を支持させるもの。増し積み同様に既存擁壁に負担がかかりすぎることになり、非常に危険。

 

コンクリート

コンクリートブロックは擁壁でも塀でも危険が多いので、災害時には近寄らないほうが無難

また、コンクリートブロックを積んだだけの擁壁もダメ。そもそもコンクリートブロックは土を支えるものではない。コンクリートの擁壁のうち、重力式擁壁、鉄筋コンクリート擁壁以外はいけないことになっているが、ここは素人では分かりにくい。

 

公には想定されていないものの、
危険が予想される擁壁もある

縦に構造が違う擁壁

左側の元々の擁壁が崩れた後に2階に分けて改修をしたということだろうか。左側の古い擁壁にも分断された部分があった(クリックで拡大)

以上、明らかにダメというタイプがあるのだが、歩いてみると、実際にはそれ以外にも大丈夫かという擁壁がある。たとえば、少しずつ違う形式の擁壁を寄せ集めたタイプ。一度作ったものが壊れ、補強し、継ぎ足しという形で作ってきたのだろうが、それぞれに強度が違うはずで、そこに建物が乗ると弱いところに負担がかかりすぎないだろうか。不安だ。

 

防空壕の跡

人が立って入れるほどの高さのある防空壕の跡がある擁壁。一般にはもっと小さく作られていることが多いが、ここはかなり大きな壕であったことが推察される(クリックで拡大)

あるいは元々防空壕が作られていたところを後に埋めたタイプ。当然だが、防空壕の中は空洞になっているはずで、埋めたとはいえ、その部分は弱い。一部に弱いところがあるということは揺れた時にどうなるか、気になる。

 

大谷石

左側が大谷石の擁壁。かなり劣化していることが分かる。右側は煉瓦積みの擁壁。一般の宅地などで使われることは珍しく、何か、別の用途で作られて土地であろうと思われる(クリックで拡大)

それ以外では違法とまではされないが、大谷石積み、ガンタ積擁壁も避けたほうが無難。大谷石は柔らかくて加工しやすいが、経年で劣化、脆くなる。昭和40年くらいまでは塀などにもよく使われていたが、最近はあまり使われていない。劣化の状況がチェックポイントになる。

 

ガンタ積

廃品利用とでも言えば良いだろうか、いろいろな塊を利用して作られたガンタ積擁壁(クリックで拡大)

ガンタ積は古いコンクリート塊などを再利用して積んだもので、大谷石よりも危険。いずれも古い住宅街では使われていることがあるので要チェックだ。

 

「あとから危険」は施工に問題、
経年で劣化などがある

水抜き穴のない擁壁

どこを探しても水抜き穴のない左側の擁壁。右側、頭上にコンクリートが張り出しているのも恐怖(クリックで拡大)

擁壁の作り方としては練積み式・コンクリート積み擁壁、重力式コンクリート擁壁、鉄筋コンクリート擁壁などで、それ自体には問題はないものの、施工が悪かった、施工後に経年で劣化したなどで危険になっている擁壁もある。分かりやすいのは水抜き穴がないものだ。水抜き穴は擁壁背後に水が溜まり、擁壁に過大な重みがかからないようにするためのもので、3平米あたりに内径75ミリメートルの穴が1か所以上設置されていなければならない。それがないとしたら、そもそも、その時点でダメ。危険である。

 

劣化した擁壁

間知石積みだが、空き家になってしまっており、劣化が進んでいる擁壁。ひび割れがところどころに見える(クリックで拡大)

また、その水抜き穴から常に水がしみ出し、湿っていたり、苔が生えているのは内部の地下水位が上がっているなど、擁壁の劣化が進んでいる可能性がある。さらに泥水が出ているとしたら、擁壁の裏で泥の流出を止めるはずの設備が機能していないと思われ、内部の土が緩んでいる危険がある。

 

ものすごく危ない擁壁

左側の擁壁が倒れかかってきているだけでなく、実は右側も微妙に垂直がずれている。この道はそもそも暗渠で地盤が弱い。それもあって、この通路に沿った擁壁にはこうした危険個所が多数ある(クリックで拡大)

擁壁の劣化も危険な兆候。ひび割れはもちろん、全体が倒れかかってきていたり、真ん中あたりが孕みだしているなど水平垂直を意識してみれば分かるはずだ。コンクリートや石の表面に白くなっている部分がある場合には背面にひびが入っていると思われる。

 

表面が白い

背面にひび割れが入り、表面が白くなっている例

この辺りのどれが危険かについては国土交通省が「既存造成宅地擁壁の老朽化診断 目視点検調査要領」というカラーの資料をホームページ上で公開しているので、それを見れば素人でも判断できる。




次のページでは擁壁の作り方や基準そのものが住宅を軽視している点を見ていこう。