古刹と呼ばれる寺社、植生など
地形以外にも地盤を知る手がかりは多数

日本の地形は非常におおまかに分けると山地、丘陵、台地、低地の4種類。そのうち、山地は宅地とされることが少ないため、実質的には丘陵以下の3種類ということになる。ここではそのうち、東京都の西側にある武蔵野台地から多摩川沿いの、川が作った低地、その対岸にある多摩丘陵を地盤の専門家とともに歩き、そこで見られる風物、地形などから危険の兆候を解説していきたい。

 

大国魂神社

江戸時代以前の寺社があるような場所は高台で安全な場所であることが多い。このエリアは高台でありながら水にも恵まれていたため、武蔵野台地の他エリアよりも早くから開けていた(クリックで拡大)

スタート地点は東京都下、府中市である。武蔵野台地は荒川と多摩川にある台地で、場所によって作られた年代が異なるが、府中市あたりは武蔵野台地の中では比較的新しい立川面と呼ばれる部分にあたり、府中駅周辺であれば約2万年前に形成されている。この地で有名なのは鎮座から1900年という大国魂神社。参道のけやき並木は国の天然記念物に指定されている。

 

「この時点でここの地盤が硬いことが分かります」とは、住宅地盤調査・設計施工主任技師の高橋和芳さん。古刹とされるような寺社はその土地の中でももっとも高い、安全な場所にあることが一般的なためである。もちろん、江戸時代に幕府の方針や火災、震災などで移転した寺社もあるため、全てが高台にあるとは言えないが、由緒を調べてみて江戸期以前である、移転の過去がないのであれば、その地は安全とみなせる。

 

けやき並木

しばしばイベントなども行われ、府中市民にはおなじみの場所がここ。宅地としてもこの周辺は評価が高い(クリックで拡大)

「けやきも安全の目印です」と高橋さん。植物にはすぎの根の深さを基準にして根の浅い浅根性、深く根を張る深根性のものがあり、けやきは深いタイプ。そのため、地盤が弱いところでは十分に根を伸ばすことができず、地下水位が高いところは根腐れして育ちにくい。大国魂神社の見事なけやきは水害の危険のない高台の、強い土地を具現化しているわけだ。

 

畑

植生では畑は高台、水田は低地というのが一般的だが、最近は田から畑への転用も。写真は同じ武蔵野台地上にある新座市内(クリックで拡大)

その他、根が深い植物としてはくぬぎ、みずなら、こなら、とち、あかまつ、くろまつ、もみなど。武蔵野の雑木林の主体はくぬぎ、ならにけやきなどであることを考えると、雑木林は安全な地盤の目安のひとつと言える。逆に根の浅い植物としてはひのき、ひば、さわら、からまつ、えぞまつ、ぶな、かば、むくのきなど。ちなみに木の根の深さは土砂崩れを防止するのに役立つと言われてはいるものの、森林の年齢や崩壊の起きる深さなどにもよるため、それほど明確に因果関係を主張できるわけではないようだ。

*樹種については「森林の土砂崩壊防止機能」川口武雄著(森林の公益機能解説シリーズ6)日本治山治水協会、1987年3月より引用

 

大国魂神社

府中の郷土かるたは昭和48年に制定されており、該当の札には「松を立てない正月飾り」とある。札は碑として市内に建てられているが、この札は大国魂神社ではなく、旧甲州街道沿いの国府八幡神社にあるそうだ(クリックで拡大)

ちょっと脱線するが、府中市の郷土かるたでは府中の神様は待つのが嫌いとされており、松のない門松を飾る習わしがあるとか。昔、長らく待たされたことがあるからだそうで、やけに人間的な神様である。

 

ところで、府中市ではこのところ、マンションラッシュが続いているが、市の北側の地盤の良い土地だと3mほどで支持層に至ることがあり、基礎にお金をかけなくて済む例も多いという。その分、同じ金額なら内装のグレードを高くすることもできるわけで、地盤がしっかりしている土地では良い買い物ができるともいえる。

 

多摩川が作ったかつての水田地帯では
土地の高低に注意

崖線の高さ

府中本町駅から競馬場への通路。道路は削られて傾斜は緩やかになっているが、こうして見るとかなりの高さがあることが分かる(クリックで拡大)

大国魂神社から南へ向かい、立川崖線(府中崖線などその地の地名を付けた名称で呼ばれることもある)を多摩川が作った氾濫低地に向かって下る。東京競馬場へ行ったことのある人なら分かると思うが、府中駅から向かうと競馬場との間には坂がある。これが崖線である。府中本町駅から競馬場に向かう空中通路の高さが崖の高さでもある。地元の不動産会社などではこれを称して坂上、坂下と言っていたという。

 

今昔マップで見る府中市中心部

今昔マップon the webで見た府中中心部。大国魂神社から南側は田になっていることが分かる(クリックで拡大)

さて、その坂下だが、宅地化が進むまでは水田として使われており、現在は畑、一戸建てなどが入り混じる状況。こうした場所で注意したいのは土地の高さである。よく見ると畑は道路面よりも低い場所に作られており、道路、住宅はそれよりも高い場所にある。これは水田に土を入れて畑にし、そこにさらに土を盛って道路、住宅を作ったという意味である。ご存じのように、土を盛る造成方法は軟弱であることが多く、地震にも弱い。防災を第一に考えるのであれば、あまり選びたくはないのが率直なところだ。

 

高さの異なる場所

元々は水田が広がっていたエリアで周囲を見ると、畑と道路、住宅それぞれに高さが違うことが分かる(クリックで拡大)

また、こうした土地であるにも関わらず、1階部分を掘り下げて建てられている物件をたまに見るが、これは1階部分を下げることで高さ制限内で建てられる面積を最大化するためのもの。居住できる面積を広くすることはできるが、その分、水害などの危険は増す。どちらを優先するかは考え方次第だが、安全を考えた場合には勧めたくない物件である。

 

多摩川沿いにはかつての砂利採掘場が。
人工の土地には強度が分からないという不安も

多摩川周辺

多摩川沿いの平坦な場所。過去にはこのエリア一帯に大きな砂利穴が掘られていたそうだ(クリックで拡大)

畑、一戸建て混在エリアを抜けると多摩川の近くである。多摩川の氾濫低地内には砂利を採掘してできた穴を埋めた作られた土地が広がっており、これまであまり問題視されてはこなかったが、高橋さんはそれでいいのだろかと警鐘を鳴らす。「自然の地盤についてはどのくらいの強度があるのかを調査する方法があるし、法律もそれに則って計算式などを定めています。ところが、人工の地盤についてはその計算式が当てはまらない。安全か、安全でないかがそもそも分からないのです」。

 

郷土の森公園

郷土の森公園。過去の地図を見ると大きな池があったことも分かる(クリックで拡大)

多摩川の砂利採掘は関東大震災後、コンクリートの使用が増えたことから急増。許可を得ない盗掘や橋脚の基礎部分が露出するほど掘りまくった例などもあり、当時の内務省東京土木出張所は昭和10年に砂利採掘の現況について警告を発する文書を出している。これは現在、土木学会の「土木デジタルアーカイブス」で見ることができるが、ここに掲載されている砂利採掘現場のとんでもない写真を見ると、この上に土を盛っただけで安全が担保されると信ずるのは難しい。

等々力緑地や多摩川競艇場が砂利採掘上の跡地であることは知られているが、府中市の郷土の森公園も同様。周辺にはそれ以外にもかつて砂利採石場だった土地があるはずなので、こうしたところに住む場合には必ず、土地の来歴を調べるなど注意したいところだ。

 
●参考資料
多摩川砂利採掘取締に関する状況(1935年 内務省東京土木出張所)

続いては多摩川を渡り、稲城の丘陵地帯を歩く