ユーリ・ン振付『悪魔の物語』(『兵士の物語』より)
ストラヴィンスキー作曲『兵士の物語』を“悪魔”の視点で読み替えた本作。2004年、愛知芸術文化センターのダンスオペラシリーズ第一弾として愛知で初演を迎え、以降アジアで再演を繰り返してきました。演出・振付は、香港を拠点に活躍する振付家ユーリ・ン。『悪魔の物語』(c)Tatsuo Nanbu
ーー今回の再演では江上悠(香港バレエ団)を振付パートナーに迎え、日本でリ・クリエイションを実施。ダンスバージョンとして改訂・再演を行います。
ユーリ>私はいつも、“もしこれが自分にとって最後の作品になるとしたら?”と自問自答しながら作品をつくっています。今回江上悠さんを振付家に加えたのも、そうした想いから。自分ひとりで作品に向かうのではなく、新しいひとを加えることでどういう変化が起きるのか、新しい振付家と一緒に手がけることにより自分自身にどういう影響があるかを探る、ある種の試みでもあります。
ジョヴァンニ・ディ・パルマに振付けた『春の祭典』はウヴェ・ショルツにとって最後の作品になりましたが、ウヴェ・ショルツが亡くなった後、ジョヴァンニが彼の作品を継承する形で振付指導を行っている。その様子を見て、とてもすてきだなと思いました。いつか自分があの世に行った後、私の作品が再演されている様子を天国から見て、“あの腕の位置を直したい!”と思うことがあるかもしれない(笑)。そんなとき私の意向を汲んでくれるひと、私の意志を継承してくれるひとがいてくれたらと……。
今回の改訂版では、基本的に江上さんが新しい振付や新しいステップをつくっています。もちろん2004年に私が振付けた『悪魔の物語』をよく理解し、それを踏まえた上でのリ・クリエイションです。江上さんとは芸術的な感性がすごく似ているのを感じます。なぜその振付にしたのか、なぜそのステップにしたのか、江上さんがつくる新しい動きの意味をすぐ理解することができる。私にとって非常に信頼のおける振付家です。江上さんの音楽性もとても興味深いものがあり、彼の音楽に対する反応、例えばどこでアクセントを取るかといった音の意味合いや、またそれによってつくられる動きの流れなど、いろいろな面で大きな刺激を受けています。
『悪魔の物語』リハーサル(c)miki sato