ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.30 福井晶一、“硬軟自在”に進化中!(5ページ目)

17年間在籍した劇団四季では、ヒロイックな持ち味と温かみのある美声で大役を次々手掛け、退団後は『レ・ミゼラブル』等で活躍中の福井晶一さん。その最新作は原田優一さん共演『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』です。お二人への取材から最近発表したCD、レミゼ話まで、最新取材をたっぷりお届けします!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

「KAKAI歌会2015」観劇レポート
演じ手の目線で「歌遊び」を極める、ユニークなショー

『KAKAI歌会2015』写真提供:ショウビズ

『KAKAI歌会2015』写真提供:ショウビズ

オープニングの「KAKAI」に続く「Beautiful Songs」で、生バンドの前にずらりと並び、朗らかな表情で歌う今回の出演者たち。ワンフレーズずつ歌う声質がみごとに6人6様で、構成・演出の原田優一さんはここをポイントに座組を決めてゆかれたのかもしれません。

各人のソロ・コーナーへと移行すると、トップバッターの谷口ゆうなさんはアップテンポの「シネマ・イタリア―ノ」で躍動感あふれる歌声を披露。その後ろでは黒いハットを被った原田さん、福井晶一さんがフォッシー風ダンスを披露していますが、特定のミュージカル作品世界の縛りがないため、同じ振付を踊っていてもそれぞれの“味”が如実に現れるのがコンサートならではの面白さ。福井さんの久々ののびやかなダンスに、彼の当たり役であるマンカストラップ(『キャッツ』)を懐かしく思い出した方も多いのではないでしょうか。

白羽ゆりさん、原田さんのソロは“ここではないどこか”への憧憬タイプの楽曲で、ロマンと物語を一曲の中に描き出すお二人の表現力が流石です。続く泉見洋平さんの「A Whole New World」も同系統のナンバー…と心地よく耳を傾けていると、泉見さんはくるりと半身を返し、邪悪な声でジャファーのナンバーに転換…と思えばまたアラジン役…という、“ディズニーいいものVS悪者”対決コーナーが、予告なしに始まっていました。『リトル・マーメイド』アリエルとアースラの伊東えりさん、『ライオンキング』シンバとスカーの福井さんともども、誇張たっぷりで“いいものVS悪者”の歌い分けを楽しみつつも、歌唱そのものは決しておふざけにならず、きちんと歌っていらっしゃるところにミュージカル俳優のスタンスがうかがえます。
『KAKAI歌会2015』

『KAKAI歌会2015』

続いては『八時だヨ!全員集合』の聖歌隊のイメージで、全員が並んでのCMソングメドレー。誰もが知っている(であろう)フレーズが数珠つながりにアレンジされ、時に振り付きで歌われます。商品名を連呼しているだけなのに不思議な感動を呼ぶ伊東さんのソロ「チェルシー」、至極真面目に踊っているのが何ともシュールな福井さん、谷口さん、原田さんの「武富士」が出色。

ソロ・コーナーと思っていたらこれも3曲が“悲劇自慢”というテーマでくくられていた白羽さんの「私だけに」(『エリザベート』)、谷口さんの「命を上げよう」(『ミス・サイゴン』←泉見さんトゥイが一瞬特別出演)、そして原田さんの「Tomorrow」(『アニー』)のマッシュ。伊東さん、泉見さん、福井さん(ダイナミックな歌唱で本編で拝見したくなる「Music of the Nighit」)ソロに、全員の「Showほど素敵な商売はない」まで駆け抜け、前半の幕が下ります。
『KAKAI歌会2015』

『KAKAI歌会2015』

続く2幕は花魁姿(!)の福井さん、原田さんによる「Let It Go」から。『CLUB SEVEN』シリーズなどで女装には慣れているだけに(?)原田さんの花魁姿は既に違和感がありませんが、長身でお髭もそのままの福井さんが大きな鬘を被り、「どこまでやれるか自分を試したいの そうよ変わるのよ私」と絶叫する姿はなかなかのインパクト。この毒気(?)の直後に配されたことで感動がいや増したのが、若い夫婦の日常を切り取ったナンバー「大切なあなたへ」(『おひさま』)。泉見さん、伊東さんが歌いながらリアルに演じるカップルの“平凡だけど愛に満ちた一日”の光景は初々しく、思い合う相手がいるって素敵、とほのぼのとした心持にさせてくれます。
『KAKAI歌会2015』

『KAKAI歌会2015』

そしてお次は「ザ・ベストテン」の番組再現をイメージした昭和歌謡コーナー。巨大な玉ねぎ頭の鬘を被った伊東さんと原田さんを司会に、谷口さんが森昌子、福井さんが野口五郎、白羽さんが山口百恵、泉見さんが西城秀樹…と、昭和の時代を彩った歌手たちに扮して熱唱!とはいえ、“物まね”の精度を追求しているわけではなく、それぞれにそのナンバーの雰囲気を醸し出して盛り上げます。“CMの時間”には福井さん、原田さん、谷口さんが早変わりにて再度「武富士」ダンスを披露したり、“中継コーナー”として客席通路にこの日のゲストが登場(この日は今井清隆さんがまたしても“違和感のない”女装で「他人の関係」を披露)したりと、原田さんは細部までこだわる、こだわる。

気をとりなして(?)フォーマル・スーツに着替えたゲストの今井さんが「観たことないんだけど」という驚きのコメントとともに「神よなぜ許される」(『モーツァルト!』)で迫力の歌声を聞かせた後は、白羽さん、谷口さんが情感豊かに「For Good」(『ウィキッド』)を歌い、泉見さんの「サラ」(『ダンス・オブ・ヴァンパイア』)、伊東さんの「夢破れて」(『レ・ミゼラブル』)などお一人ずつの正統派歌唱タイムで、舞台はいよいよクライマックスへ…と思いきや、終盤に6人がそれぞれに「私が主役です」とばかりにサビ合戦。最後まで遊び心を忘れず、アンコールには美空ひばりの「歌はわが命」を皆さんの気概の象徴として歌い、お開きとなりました。
『KAKAI歌会2015』

『KAKAI歌会2015』

スターたちが持ち歌を披露しあう豪華なステージもいいけれど、歌い手の視点をしのばせたお遊びの会があってもいいのでは?という原田さんのコンセプトが明確な、このコンサート。それを第一線のスターたちが(意図的に声を潰す等の逸脱をせず)きちんとした歌唱をキープしつつ聞かせ、見せている点で、“ミュージカル”コンサートとしての品格を損なわない、楽しい会となりました。出演者の個性も随所に覗くこのシリーズ、一度観ると癖になってしまいそうです。


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