ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年11~12月の注目!ミュージカル

紅葉の便りが聞かれるようになったこのごろ、劇場街でも回を重ね、熟成された再演演目が目立ちます。ブロードウェイ・ミュージカルから意欲的なオリジナル作品まで、よりどりみどりのラインナップから、今回は『何処へ行く』『ダンス オブ ヴァンパイア』はじめ、特に注目の作品をご紹介。開幕後は続々、観劇レポートを追記していきますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

紅葉の便りが聞かれるようになったこのごろ、劇場街でも回を重ね、熟成された再演演目が目立ちます。ブロードウェイ・ミュージカルから意欲的なオリジナル作品まで、よりどりみどりのラインナップから、今回は『何処へ行く』『ダンス オブ ヴァンパイア』はじめ、特に注目の作品をご紹介。開幕後は続々、観劇レポートを追記していきますのでお楽しみに!

【11月開幕の注目作品】
『ダンス オブ ヴァンパイア』11月3~30日=帝国劇場←観劇レポートUP!
『何処へ行く』11月5~10日=THEATRE 1010←稽古レポート&出演・松原剛志さんインタビュー&観劇レポートUP!

【12月開幕の注目作品】
『夢の続き』12月4~7日=四谷・絵本塾ホール←稽古レポート&観劇レポートUP!
『スクルージ』12月4~15日=赤坂ACTシアター←稽古レポート&観劇レポートUP!
『CHICAGO』12月4~23日=東急シアターオーブ 12月26~27日=梅田芸術劇場メインホール←観劇レポートはこちら
『エルコスの祈り』12月20日~1月11日=自由劇場←観劇レポートUP!
『フランク・ワイルドホーン&フレンズ ジャパンツアー』12月23日=梅田芸術劇場メインホール 12月26・27日=東急シアターオーブ←観劇レポートUP!

【All Aboutミュージカルで特集予定、もしくは特集した注目ミュージカル】
『HEADS UP!』11月13日開幕 気になる新星にて出演・相葉裕樹さんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『KAKAI歌会2015』11月20日開幕 Star Talkにて出演・福井晶一さんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『CHICAGO』12月4日開幕 Star Talkにて出演・湖月わたるさんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『ドッグファイト』12月11日開幕 気になる新星にて出演・ラフルアー宮澤エマさんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『花より男子The Musical』1月5日開幕 出演・松下優也さんインタビューを掲載!
『地球ゴージャス The Love Bugs』1月9日開幕 Star Talkにて出演・城田優さんインタビューを掲載!

【Pick of the Month NOVEMBER 今月の一本】

何処へ行く

11月5~10日=THEATRE 1010
『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

【見どころ】
西暦60年代のローマ帝国を舞台に、恋愛や人々との出会いを通して人間的成長を遂げ、暴君ネロに反旗を翻す武将、マルクスの物語『クオ・ヴァディス(主よ、どこへ行かれるのですか)』。シェンキェヴィッチによるこの長編小説を(『レ・ミゼラブル』と同様の)ポップ・オペラ形式でミュージカル化、昨年初演された本作が一部キャストを変え、再演されます。
『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

壮大な物語はハマナカトオルさんの脚本、takさんの音楽によってテンポよくまとめられ、キャストにはマルクス役・松原剛志さん、リギア役・彩乃かなみさん、マルクスの叔父ペトロニウス役・福井晶一さん、ペテロ役・川口竜也さんら演技、歌唱に定評のある方々が集結。「人間はどう生きるべきか」という生硬なテーマも、スリリングな展開の中でわかりやすく伝えられる舞台が期待できそうです。
『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

【稽古場レポート】
稽古場のあるビルに入ると、扉は閉まっているにも関わらず、階段の踊り場まで熱い気配がむんむん。漏れ聞こえる不穏な曲調に導かれ、扉を開けるとそこではまさにクライマックス、皇帝ネロの命によって多くのキリスト教徒、そしてペテロまでもが虐殺されるシーンが展開しています。多くの人々が命を奪われるいっぽうで、マルクスらによる反乱が報じられ、ネロは次第に追い詰められてゆく。30名以上のアンサンブルの怒りや恐怖といった感情が渦巻く中で、淀みない音楽に乗って物語はスピーディーに進行、観ている側も目が離せません。
『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

『何処へ行く』リハーサルより。(C)Marino Matsushima

その後の抜き稽古ではマルクスと叔父ペトロニウスの語らい、ペテロの目前でのマルクスとリギアの衝突のシーン等が、彼方昔の物語とは思えないリアルさをもって演じられ、役者陣が既にすっかりキャラクターを体に入れ込んでいることがうかがえます。この後、二週間のブラッシュアップを経て、本番ではさらにうねりのあるドラマに仕上がってゆくことが予想されます。

【主演・松原剛志さんインタビュー】
アニメソングを水木一郎さんに師事し、後にミュージカルへも活躍の場を広げた松原さん。ミュージカルとアニメソングは「聴き手に歌詞を確実に伝える」「雰囲気ではなく、気持ちを乗せて歌う」という点で似ているのだとか。今後もたくさんの役をこなし、「求められる俳優」であり続けることが目標だと言う。(C)Marino Matsushima

アニメソングを水木一郎さんに師事し、後にミュージカルへも活躍の場を広げた松原さん。ミュージカルとアニメソングは「聴き手に歌詞を確実に伝える」「雰囲気ではなく、気持ちを乗せて歌う」という点で似ているのだとか。今後もたくさんの役をこなし、「求められる俳優」であり続けることが目標だと言う。(C)Marino Matsushima

――松原さんにとって本作はどんな作品でしょうか?

「作者のハマナカ先生は20年も本作の構想を温めていらっしゃったけれど、当初はこれだけのスケールのものを世に送り出すにはかなりの人数が必要ということで、なかなか実現しなかったのだそうです。先生の思いが詰まった作品の初演で昨年、単独主演をさせていただけた。その重みもありますし、『アイ・ハヴ・ア・ドリーム』『ひめゆり』に肩を並べるミュージカル座さんの代表作に仕上げていかないと、と思っています」

――昨年の初演に続く再演の手ごたえ、いかがですか?

「大まかな演出は変わっていないと思いますが、配役が一部変わったことでお客様の印象は大きく変わるのではと思います。例えば、今回僕の叔父ペトロニウスを演じる福井晶一さんに僕は(内面的に)似た部分を感じていまして、血が繋がっているリアリティが感じられるのでは。また、前回ペテロは宝田明さんが演じていらっしゃいましたが、今回は川口竜也さん。お声も素晴らしいし演技に対してもとても造詣が深い方で、若さを活かしたペテロとなっていますし、今回はペテロの曲が一新されてもいますので、ずいぶん変わったと感じていただけるかもしれません」

――原作は長大な小説ですが、本作はつまるところ、何についての物語と受け止めていらっしゃいますか?

「人を慈しむこと、慈愛でしょうか。欧米諸国や日本で今、基本とされている倫理観は、この慈愛に根差していますが、僕ら俳優にとって難しいのは、物語当時のローマ帝国ではキリスト教が確立されておらず、残虐で弱肉強食の、現代とは全く違う価値観が当たり前だったという点です。そういう状況の中でマルクスが疑問を感じ始めたということが、どれだけ斬新なことだったか。僕たちが勉強し理解して、お客様にきちんと感じていただかなければならないと思っています」

――マルクスはとても大きな内的変化を遂げる役ですね。

「愛するリギアや、その養父母の慈愛に感化されて変化してゆく役ですが、僕自身、かつて若さゆえに暴走して利己的になっていたころ、“自分は嫌われてでも”という覚悟で僕を叱ってくださった先輩方がいらっしゃったことを思い出しますね。当時いただいた愛を物語の中で追体験しながら演じています。初演は作り上げることで精一杯でしたが、今回はベースがある分、役の気持ちに嘘なく、丁寧にと心掛けています。じっくり観ていただいて、心から釘づけになるような舞台に仕上げたいです」

【観劇ミニ・レポート】
『何処へ行く』撮影:山内光幸

『何処へ行く』撮影:山内光幸

階段舞台を埋め尽くす出演者たちが「主よ、何処へ行かれるのですか」とラテン語で歌う序曲「クオ・ヴァディス」。壮観の幕開けに続いては「裏切りと欺瞞によって築かれた」ローマ帝国とそこで暴挙の限りを尽くす皇帝ネロを揶揄する貴族ペトロニウスのナンバーがあり、現代人の感性とはまったく異なる価値観に突き動かされていた社会の概要が語られます。彼のもとを訪ねるのが、甥で軍人であるマルクス。リギ族の王女リギアに一目惚れをしたという彼のため、ペトロニウスは一計を案じますが、それが端緒となって彼ら自身、そして帝国の運命が動いてゆく…。個人レベルの恋愛が社会全体を一気に巻き込んでゆくさまが、特に2幕、ダイナミックにして鮮やか。言葉の明瞭さのずば抜けたマルクス役・松原剛志さん、ペトロニウス役・福井晶一さんがこの物語を力強く牽引し、リギア役・彩乃かなみさんの、美しくも芯のある歌唱も光ります。
『何処へ行く』撮影:山内光幸

『何処へ行く』撮影:山内光幸

恋愛とともにもう一つ、本作の主要テーマであるのが、キリスト教のもたらした欧州社会の価値観の変化。それまで「力」が全てであったローマ帝国で、迫害も死をも恐れず信仰を守り、自己犠牲も厭わないキリスト教信者たちは帝国の人々に大きな衝撃を与え、この時代を境に現代に通じる「西洋的倫理観」が確立されていったことが、わかりやすく提示されます。その中心的人物である使徒ペテロは、出番はそう多くないのですが、川口竜也さんの揺るぎない存在感と声とにより、役柄を説得力あるものに。ローマを逃れる途中で(今は亡きはずの)イエスに遭い、死を覚悟して引き返そうとする場面の迫力は、この日、筆者とともに鑑賞していたキリスト教関係者も涙を禁じ得ないほどのものでした。
『何処へ行く』撮影:山内光幸

『何処へ行く』撮影:山内光幸

キリスト教理解にとどまらず、ネロ時代という社会、当時の人々の感覚などについて極力実相に近づこうという真摯な姿勢が、舞台のそこここから感じられる舞台。また、単に歴史絵幕を見せて終わるのではなく、「自分は関係ない」と災難から逃げようとする人物が「この時代に生きている限り「関係ない」とは言えない」と切り捨てられる場面で、現代人もまた社会の一員である限り、そこでの諸問題から目を背けるべきではない、とメッセージを投げかける作品でもあります。いわゆる「歴女」はいわずもがな、本作のタイトルさながらに、「まだ生き方を定めていない学生たち」にもお勧めしたい舞台です。

*次頁で『ダンスオブヴァンパイア』以降の作品をご紹介します!
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