先生への敬意は、まず親が示すべき

伊藤:学校と塾とでよく対比されることがありますが、学校の先生についてはどうお考えですか?

坪田:学校の先生達は、本当にいい人が多いんですよ。だけどシステムが古いから、カリキュラム至上主義だから、この日までにこれをやらなきゃいけない。何かあったら報告書を書かなきゃいけない。校長や教育委員会に報告しなきゃいけない。学校の先生の仕事の7割が報告書を書いているらしいです。それくらい大変なんですよ。だから、先生もがんばりすぎない方がいい。

伊藤:先生も大変なんだから、保護者としては「先生も大変なんですね」くらいの視点で見てあげてほしいと。

坪田:そう。たとえば、親が子どもの前で先生のことを「若い先生でホントひどくて、あんな人に教えてもらいたくないよな」って言ったとしたら、子どもは先生のことをどう思うと思いますか?「『あいつは教え方が下手なんだ』って親が言ってた」となって、他者への敬意なんて芽生えないでしょ。優秀じゃなかったらバカにしていい、って違いますよね。

先生だって親御さんが来たら緊張するでしょうし、うまくいかない授業だって当然あるんですよ。そんな中で相手を信頼して任せて、うちの子の良いところを引き出してくださいねって姿勢で親がいれば、先生だってがんばろうって気になるけど、あそこがダメここはダメ、過去にこういう失敗しているらしいよとか、そういう目線で親が見てたら、そりゃ先生たちも萎縮してしまいますよ。僕はむしろ、先生たちに対して敬意を持つってことを、親がまず率先してやるべきなんじゃないのって思います。

親が子どもにできること=やって見せること

親の何気ない言葉が子どもを間違えた方に導いてしまうことも。子どもがどう捉えるかを考えて伝えてあげてほしい

親の何気ない言葉が子どもを間違えた方に導いてしまうことも。子どもがどう捉えるかを考えて伝えてあげてほしい


伊藤:それではあと2つ、おうかがいさせてください。ひとつ目は、親が受験生の子どもにできることを、もう少し具体的に教えてください。

坪田:一番は、言うんじゃなくてやってみせることですね。例えば、「ちゃんと勉強しなさい」って言ったりするじゃないですか。ちゃんと勉強するってのが何なのかを、親がまずこれがちゃんと勉強することなんだって、いっしょにやるとか、目で見せるってことがすごく重要です。みんな言って聞かせるだけなんですよね。

山本五十六(1884年~1943年:海軍軍人で連合艦隊司令長官。最後まで開戦に反対した人物)の有名な言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」というのがあると思うんですが、この重要なポイントというのが、最初に「やってみせ」がきているところなんです。これはリーダーが率先してやるということではないんです。

最初に言った「ビジョン」ってのが重要で、やって見せることによって、子どもは映像化するんですよね。

伊藤:親の背中を見て育つということですね。

坪田:親が率先してやることが偉い、ではなくって、「ビジョン」として映像化することによって子どもがやりやすくなるってところがポイントなんです。

言って聞かせてだけだったら子どもは映像化しないから、全然違うことやっちゃったりするんですよ。よく「何回言えばわかるの!」みたいなことを親御さんが言うと思うんですけど、何回言えばわかるのかなと思って実際に統計を取って調べてみたら、532回でした(笑)。

親子で進路の意見が分かれたら…

伊藤:それでは最後に。親は誰しも、子どもにこうなってもらいたい、良い学校へ行ってほしいといった思いがありますが、子どもはそんなことを気にもせず、全然違う道へ進もうとしている時に、親はどう接したら良いのでしょうか?

坪田:僕は、先生って呼ばれる職業の中で、日本一ジャニーズと少女マンガに詳しいという自負があります。それはなんでかっていうと、女子高生たちは基本的にジャニーズや少女マンガが大好きだからなんです。「Tom likes playing tennis.」って英文を覚えさせるくらいだったら、「Mr. Kamenashi likes playing tennis.」ってやった方が、めっちゃ映像をビジョン化するんですよ。

だってTomって言われたって誰だかわかんないじゃないですか。だけど、亀梨君は~とかいうとイメージがわくんですよ。しかもそれが自分が好きな人だから、「でも亀梨君はテニス好きじゃないと思う」とか言って、「じゃあそれ英語で何て言えばいい?」ってなるわけですよ。

つまり、これがさっき(前編に出てきた)の大人の言葉でしゃべるんじゃなくって、子どもの言葉でしゃべるってこと。その子が好きなことや趣味、例えば初音ミクとかラブライブとか、それを大人の価値観で「何の役にも立たない」「それはダメ、こっちの方が重要なんだ」「で、将来はなぁ」じゃなくて。今子どもたちの間で流行っている妖怪ウォッチとかで例えて言うと、当然理解しやすいし入りやすいしテンション上がると思うんですよね。

なのでぜひ「子どもさんの趣味って何かご存じですか」「好きなものって何ですか」って聞いてみて、それをいっしょに読んだり見たりして、おもしろいところを探ってみたらどうでしょうか。

結構おもしろいんですよ。最新の人気のもの・最先端のものをおもしろくないって思う人は、ヘンに子どもの教育にかかわらないほうが良いと思います(笑)。子どもが興味があるものを好きになれない人は、子どもにどれだけ言っても伝わらないと思います。

伊藤:そういうときは、子どもの好きにさせることがいいということでしょうか。

坪田:そう。その人は自分が好きなものが一番いいと思っているということなんです。多様な価値観を受け入れられなくて、自分の価値観を子どもに押し付けているということなので、子どもの趣味に興味が持てないときは教育するべきではないと僕は思います。厳しいことをいうと。

伊藤:今のお父さんお母さんは、都市部を中心に小さい頃から受験受験で、視野が狭くなってしまうることもあると思うので、とても大切なメッセージと思いました。

坪田:僕は正直、受験が悪いとは思っていないけど、子どもが乗り気でもないのに動かないことに対して「あなたはダメ人間ね」と怒っているのは最悪だと思います。でもそこを乗せられているんだとしたら、僕は一生懸命やることってすごくいいことだと思います。

例えば、「高校時代何やっていました?」と聞かれて、「ひたすら受験勉強をやっていて、東大に受かるためだけに命をかけてきました。受験対策しかしてないです」というと、価値観的に微妙だなっていう人が多いと思うんです。ところが「野球」だったらどうなんだと。例えば「甲子園目指して、仲間と一緒にがんばって、それしかしてないです」と言うと、「がんばったね」って言うと思うんです。でもこれ一緒ですよね(笑)。

「受験のための勉強なんてやったって意味ないよ。だって将来、そんなの役に立たないじゃん」って言いますけど、それだったらサッカーも野球もプロにならない限り役に立たないぞと。

むしろ目標って何か一生懸命がんばること自体はいいことなんだけど、それを価値観として押しつけて「やらないからダメ」ってことは偏狭だなと。そこから脱却できるといいんじゃないでしょうか。

ダイバーシティって言いますけど、子どもの多様性を受け入れて、その多様性の中の一番良いところを伸ばそうって。そうすることが大事なんじゃないかと思っています。

伊藤:それが大人の価値観ではなく、子どもの価値観を尊重してあげるということですね。ありがとうございました。


受験期に限ったことではない親子のつながりや居場所のつくり方について、わかりやすいお話とすぐに実践できる子どもとの接し方を、おうかがいできました。子どもが思うように勉強しないお父さんお母さん、ぜひ今度お子さんに、趣味や好きなことを聞いてみましょう。まずは子どもを認めることからです。

「子どもの多様性を受け入れる。そして多様性の中でも一番良いところを伸ばす。塾も親もそんな存在でいられるといい」という坪田先生の思いがよく伝わってきます。

「子どもの多様性を受け入れる、そして多様性の中でも一番良いところを伸ばす。塾も親もそんな存在でいられるといい」という坪田先生の思いがよく伝わってきました


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