映画「ビリギャル」の原作で累計120万部を記録した『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の著者、坪田塾の坪田信貴先生に、子どものやる気をアップする接し方や親が子どもにできることなどをうかがいました。
ビリギャルの塾講師・坪田信貴先生

「塾生の人生を応援する」坪田塾の塾長、坪田信貴(つぼたのぶたか)先生。著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』は累計120万部、映画『ビリギャル』は動員数220万人を超える


子どものやる気を引き出す目標設定の秘訣

伊藤:最初に、「ビリギャル」こと、さやかさんのお話から伺いたいと思います。やる気を引き出す一番の秘訣は何だったのでしょうか?

坪田:一番大事だったのは、目標設定を適切にできたことかなって思います。あれがたぶん、早稲田だったり京大だったりしたら違ったのかなぁと。

最初、さやかちゃんに「志望校ある?」って聞いたら、「志望校とか聞かれても大学自体よく知らないから、わからない」って答えたんですよ。成績が良くない子ってだいたいそうじゃないですか。だからとりあえず、志望校がわかんない子には「じゃあ、東大にする?」って聞いてみるんです。そうしたら彼女は、「ダサイ男しかいないから嫌だ」って言ったんです。それを聞いたとき僕は、なんでこの子はこんな金髪のギャルなんだろうなぁと思って。

ダサイ男しかいないから嫌だってことは、逆に言えばイケてる男がたくさんいればいいということだろうなって思って、「慶應ボーイって聞いたことある?」って聞いたんです。するとさやかちゃんは「聞いたことある。チョー金持ちで、チョーイケメンでしょ!」って。それを聞いた瞬間に、「ああやっぱり。(さやかちゃんは)キラキラした人たちがいてその中心にいる自分にテンションが上がるんだな」って気づいたんですよ。

そこで「じゃあ、(志望校を)慶應にしない?慶應に行くって言ったら、周りの人たち何て言うと思う?」って聞いたら、さやかちゃんは「「絶対無理」って言うと思う」と。じゃあ、「もし君が慶應に受かったら、チョーウケない?」って言ったら、さやかさんは「チョーウケる」って言ったんですね。そこから、慶應受験(に向けての勉強)がスタートしたんです。

伊藤:なるほど。子どもと目標を決めるとき、会話のコツみたいなものがあるのでしょうか。

坪田:すごく重要なポイントがあって、親御さんが志望校を設定する時に、「あなたが好きな学校へ行けばいいのよ。好きなようにしなさい」って言いがちなんです。でも子どもたちって、何の知識もないし経験もない状況で「好きなようにしていいですよ」って言われて判断できるはずもないんです。

まずは子どもの価値観や引っかかるポイントというのを踏まえて、ある程度サポートする必要があると思うんですね。志望校を決める時に、僕がなんで「東大にする?」って聞くかというと、本人の先入観がどこにあるのかを知るためなんです。

そうするとほとんどのケースが「無理」って言うんですよね。やったこともないしどんなことかも知らないのに、単純に(考えて)無理って言っているんです。そうじゃないんだよということを伝えるために、まず聞くんですが、さやかちゃんの場合は、「無理」とかじゃなくって、「ダサイから嫌」っていうね(笑)。

(志望校は)こうした方がいいですよってケースでも、大人の言葉で言ってしまうんですね。例えば、「東大って日本一の大学、慶應ってのは名門大学で、偏差値も高くて、就職先もすごくいい。それで、将来安定するんだよ」って言った場合に、ギャルの女の子が、「将来安定するなら(合格目指して)がんばろう」って思わないですよね。

同じことを伝えようとしても、大人の言葉で伝えるか、その子が興味のある言葉で伝えるかでは伝わり方って当然違う。「ビジョン(=可視化)」って言葉をよく使うと思うんですが、目で見えるようにイメージを抱かせるのが「ビジョン」なんですね。

目標設定で、その子の価値観を重視して、その「ビジョン」を見せてあげるということがポイントなんじゃないかなって思っています。

やる気アップの秘訣は、ほめるのではなく変化に気づくこと

インタビューの様子

誰もがわかりやすい言葉で熱くお話しされる坪田先生。子どもへの深い思いやりを感じます

伊藤:教え方のひとつに「ほめること」がよく挙げられますが、坪田先生はほめるというより「受け入れる」「認める」という印象を受けました。

坪田:僕はよく「ほめて伸ばしてますよね」って言われるんですが、ほめているつもりも叱っているつもりもないんです。人間って必ず成長している。僕自身も、今、ガイド(伊藤)さんとお話しさせていただくことで成長させていただいていると思うんです。だけど、細かな成長に対して、みんな鈍感なんですよね。例えば、3年ぶりに会った親戚の子どもに「すごく背伸びたね」と言っても、(その子の)親御さんは「全然伸びてないんです。クラスでも前の方で」ということってあると思うんです。身近にいるから数ミクロンずつの成長に気づかない。それを長いスパンで見ると「おお(伸びてる)」と気づく。これが自分のことなら、なおさら気づかないんです。

さやかちゃんに「日本史の知識って何かあるの」って聞いた時に、「何にもわかんない」って。僕は「小学生の時から(今まで習ってきて)考えたら何か1個くらい出てくるはずだから、ちょっと考えて」って言ったら、「イイクニ作ろうとかそんなやつ?」って言うんですよ。「そうそうそれ、15秒前に比べたら1個出てきたじゃん。それだけで成長じゃん」って言ったんですよ。そうしたら彼女は鼻をぷくーっとふくらませて、「へへーん、あれでしょ。イイクニ作ろう平安京でしょ!」って。「おしい(笑)」って、「ほら2つ出てきたじゃん」って言うと、どんどん出てくるんですよ。

これが、歴史のことが「何も知らない、わかんない」って言う子に、「あのさー、何もわかんないの?」「全然勉強してきてないんじゃないの?」って言ってしまったら、「イイクニ作ろう」って言葉は絶対に出てこないんですよね。それで、「イイクニ作ろう」って出てきた瞬間に「ほらっ、これって成長じゃない?」って認めてあげることで、次の「平安京」って言葉が出てきたわけじゃないですか。

伊藤:坪田先生は、子どものちょっとした変化を見逃さない。先生自身が成長に前向きなんですね。そういう先生の姿勢が、子どものちょっとした変化に自然に気づける。だから「ああ、この人は本当に自分のことを見ていてくれるんだ」という信頼感へとつながるんでしょうね。

坪田:さやかちゃんは素直だから伸びたんだっていう人もいるんですけど、学校の先生には素直じゃなかったわけですよ。素直かどうかって相手の対応によって変わるはず。大事なのは、そのちょっとした変化をフィードバックするだけなんです。どの部分で成長したかを捉えてフィードバックして自分も一緒に喜ぶことなんです。

何のためにやっているのかっていうと、自信をなくした子が、こうやっているだけで成長しているし、なんか失敗したなって思ってる子でも、すごい大事なことなんだよねっていうのをポジティブに受け入れてくれる。学校生活で自信が持てた、学校で居場所ができた、他者への敬意が生まれた、そういうちょっとでも成長したなって思えることを一緒になって喜んでいるだけなんですけどね。

親として心が折れそうになったときは…

明るい未来を見ているような坪田先生の笑顔

明るい未来を見ているような坪田先生の笑顔も、ポジティブな気持ちにさせるひとつなのかもしれません

伊藤:さやかさんとの受験勉強は長い道のりだったと思いますが、先生として心が折れそうになったことってありますか?

坪田:心が折れるって、受験が目的になっていてそこ(志望校)に合格させられないかもしれないというところだと思うんですよね。僕は単純に、子どもと一緒に歩くのが好き、という感じなんです。子どもと散歩するのに、くじけそうになることはないのと同じように。

高校までの5教科の勉強って必ず答えがあって、答えがあるということは必ず解法がある。ピッチを刻んで(段階を踏んで)学習していけば必ず答えに到達する。ところが人生って答えがない。ある人が成功したからといって、そのやり方を踏襲して絶対成功するかっていうとそうとは限らないですよね。だけど5教科の勉強って必ず答えがあって、解法通りに解けば必ず正解するんですよ。なので、子どもたちに自信をつけやすいのが5教科の勉強だと思っています。

ただ問題は、時間との戦いなんですね。だからあと1ヶ月で現役で合格するためには、ってなったらしんどいですね。長期戦であれば心が折れることはなくて、短期戦のほうがくじけると思います。勉強って一生続くわけで、(極論をいうと)いつやったっていい。(現役にこだわらず)目標を決めたらそれに向かって歩んでいけばいいだけだと思います。

「地頭が悪い」は思い込み

伊藤:結局、地頭が良かったからではと言う人もいますが…。

坪田:結果を出すと、みんなそう言われるんですよ。僕は「地頭が良かったんですよね」「才能があったんですよね」って言われたら、「はいその通りです」って答えてます。そして「でも、あなたもそうですからね」って言ってます。僕からみれば、さやかちゃんだけが特別とは思っていなくて、「お母さん、あなたもあなたの息子さんも娘さんもそうですからね」って。

だから決してそこは間違ってないと思います。結果を出したらみんなそうやって言うんですよ。今の時点で過去の時点で結果を出してないから、「地頭が悪い」って思っているだけなんですよ。

伊藤:結果によって、周りの評価が変わってくるってことですね。

坪田:そう。仮にさやかちゃんが慶應も明治も関学もダメだったとしましょう。もし成績は伸びても受かってなかったら、「ああいうところ(慶應・明治・関学)は地頭が良い人が行くんだよ。ほら見たことか」って言われていたと思いません?さやかちゃんが慶應に受かったから、そう言われているだけで、逆に言うと、いま地頭が悪いと思っている子も未来が変わったらいくらでも人の評価って変わるんですよ。

僕が子どもたちに言うのは、「今の自分とか過去の自分とかどうでも良くって、未来の自分がどうありたいか。そのために今の自分が何をすべきかを考えてやろうよ」って。才能や地頭の良さなんて、後の結果によって変わってくるんですよ。

伊藤:未来から今の自分を見てみることが大事ということですね。

坪田先生とのお話は、まだまだ続きます。

後半では、学校と家族と塾の役割から、子どもへの接し方や心構え、親としてできることをひも解きます。
・後半はこちら…『ビリギャル』坪田先生「子どもはbeingでほめる」

(写真撮影:永谷正樹)



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。