人気急上昇中の世界遺産「福建の土楼」
土楼王と呼ばれるにふさわしい圧倒的な威厳を見せる高北土楼群・承啓楼の内観
その驚異的な姿から近年人気上昇中で、旅行者が急速に増えているという。今回はガイドも強くオススメする中国の世界遺産「福建の土楼」を紹介する。
ミステリアスな集合住宅・福建の土楼
「東歪西斜」と呼ばれるように柱が傾斜している裕昌楼。アンバランスに見えるが、700年以上前の建設と伝わる最古級の土楼だ
初渓土楼群を見下ろす絶景
特に円楼(円形の土楼)。実際目の前にすると、円形の歴史的建造物というだけで世界的に非常に珍しいことに加え、最大で直径70m超、6階建てというケタ外れの規模があいまって、土壁で歴史が感じられるのに近未来的でどこか宇宙的な不思議な感覚を覚えてしまう。
内部もまた驚きの連続だ。「土楼王」の異名をとる承啓楼(しょうけいろう)は瓦屋根が四重の同心円状に連なっている。裕昌楼(ゆうしょうろう)にいたっては柱が斜めに据え付けられているという意味不明の構造だ。
こちらは田螺坑土楼群
そして自然豊かな渓谷のあちらこちらに土楼が立ち並んでおり、森の中に円や楕円、四角形といった多数の幾何学図形が口を開けている。このミステリアスな光景を衛星写真で確認したアメリカ政府は中国の核ミサイルサイロと勘違いしたというが、さもありなんだ。
■河坑土楼群の衛星画像(Google マップ)
福建の土楼ができるまで
1880年建設の洪坑土楼群・福裕楼。屋根の高さが異なる五鳳楼と呼ばれる方楼で、前部2階、後部5階の構造。林三兄弟が暮らすため3分割されており、中央の祖廟も三山に見える
高北土楼群・承啓楼、最外部の回廊
古代、東アジアの中心は黄河中流の「中原」と呼ばれる土地にあった。もともと「中国」もこの地を示しており、為政者たちは豊かな土壌を誇るこの土地を奪い合い、多くの国が首都を築いた。長安や洛陽といった都を筆頭に中原は大いに繁栄したが、戦乱の絶えない土地でもあった。
紀元前の時代から、中原を支配したのは主に漢民族だった。しかし、中国では国が変わると王族も貴族も一掃されるため(易姓革命)、秦や唐・宋・元等々、国が滅びるたびに支配層は一族を伴って都を逃れ、地方に落ち延びた。こうして都落ちした漢民族は土着の民族から「お客さん」を意味する「客家」と呼ばれた。
洪坑土楼群・如升楼の内部空間
土楼は12世紀頃から造られはじめたといわれるが、20世紀に入ってから建てられたものも少なくない。客家の土楼をまねて造られた他民族の土楼も存在する。
客家はこうして山中に埋伏しつつ、優秀な人材が誕生すると一族でサポートして中央や海外へ進出。そして出世した人物が基盤を築き、一族をつないで世界にネットワークを構築した。客家は世界に1億人以上存在するといわれており、中国元国家主席のトウ小平やシンガポール初代首相リー・クアンユー、台湾の元総統・李登輝、タイの元首相タクシン・チナワットといった有名人を多数輩出している。