ストレス/ストレスフリーの思考術

激やせ、むちゃ食い―摂食障害から解放されるヒント(2ページ目)

とてもやせているのにダイエットをし続ける、ダイエットとむちゃ食いの終わらないループを繰り返す――こうした摂食障害に苦しむ人に共通してよく見られる考え方の傾向とはどのようなものでしょう? 摂食障害を生む考え方を、根本から見つめ直すヒントをお伝えします。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

「良い部分」「悪い部分」に固執し、全体が見えない

鏡を見つめる女性

体形だけでなく、他のことにも「良い、悪い」で考えすぎる傾向はありませんか?

精神分析家のM.クラインは、スプリッティングは乳児初期に固着した原始的な防衛機制であると説明しました。

クラインによると、赤ちゃんはみなこの防衛機制を持ち、自分の中の死の不安を生じさせる“悪い部分”から、前進して生きる自分という“良い部分”を守ろうと、必死になっているのだと考えられています。乳児初期の赤ちゃんはこのスプリッティングを外界に投影し、対象も「良い対象、悪い対象」という部分で捉えていると言われています。

そのため、たとえば最も身近な人であるお母さんも、母乳をくれる「良いおっぱい」、母乳をくれない「悪いおっぱい」とスプリッティングで捉えます。

成長するとともに「良いおっぱい」も「悪いおっぱい」も、どちらも一人のお母さんだと分かると、初めて分裂していた部分対象を全体対象として捉えることができるようになります。しかし、スプリッティングに固着したままでいると、対象を「善悪を含んだ全体」として捉えることができず、その傾向が後の人生でも続いてしまうとされています。

たとえば、摂食障害の人によく見られるのは、やせ体形だけでなく、「エリート校に入る、ブランド物を持つ、容姿端麗、一流企業に入る、一等地に家を持つ」といった世間的に「良い」と言われるものを獲得し、キープすることへのこだわりです。それらを獲得し、キープできる自分は「良い自分」。達成できず、ドロップアウトするのは「悪い(ダメな)自分」。そんな自分にならないように、いつも過剰な努力をしているなら、スプリッティングが関係しているのかもしれません。

極端な目標を設定し過剰な努力を続けていると、いずれは破綻してしまうでしょう。しかし、スプリッティング傾向を持つと、「悪い(ダメな)」状態になることを過剰に恐れるため、再び極端な目標を見つけては、過剰な努力をして破綻するパターンを繰り返してしまいます。

自分の認知傾向に向き合い、捉え方を修正する

精神分析では、ダイエットをきっかけとした摂食障害も、こうした行動傾向の延長にあるものだと考えられています。したがって、摂食障害はなぜ健康を害するほどやせ体形にこだわるのか、なぜ自制できないほどの過食が続くのかなど、自分の考え方と行動の傾向を根本から見つめ直さないかぎり、改善は難しいと言われています。

そうして自分自身を見つめた上で、物事を「良い、悪い」と部分で見ていた傾向を、善悪を含んだ「全体」として捉えられるように、意識づけをしていくことが大切です。人や物事には良い部分、悪い部分、色々な部分が混在し、それらが統合して全体像が形成されていることを理解することです。

自分の中には、「前向きな自分」「努力する自分」という良い部分もあれば、「目標を投げ出す自分」「サボる自分」という悪い部分もある。それらが混在・統合して「全体としての自分」が成り立っていることを心から納得できれば、スプリッティングから卒業できることと思います。

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