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アメリカの医師はどのようにキャリアを決めるのか?(3ページ目)

日本もアメリカも、医師のキャリアは医学部卒業後に決めなければなりません。日本では好きな専門科(内科・外科・精神科・皮膚科など)を選べるのですが、アメリカではそう簡単ではなく、人気の専門科をめぐる競争が卒業前に待ち受けています。また、日本よりも医師のキャリアはより多様です。人気のキャリアであり続ける「医師」という職業は、それぞれの国でどのように捉えられているのでしょうか?

野田 真史

執筆者:野田 真史

皮膚科医 / 皮膚の健康ガイド

アメリカと日本、どちらが恵まれているのか?

医師としての時間的、金銭的余裕を考えるとアメリカに軍配が上がります。ただ、その指導医のポジションを手に入れるには年間700万円ほどの授業料を4年間払いながら4年制大学のあとにメディカルスクールに通わなければならないこと(なんと研修医の7割は600万円以上の、1/3以上には2400万円以上の学費に対する借金があります)、メディカルスクールに入るために大学在学中にも熾烈な競争があること、メディカルスクールを卒業したあとにも薄給で最低3年のレジデンシーというトレーニングが必要であり、トータルではほかの職業に比べて10年ほどの機会損失があること、を考えると、簡単にそうは言えません。

(国立であれば)安い学費で医学部に通えて6年間で一般の大学教育と医学教育を修了できる、その上2年間の初期研修を終えれば、専門医でないとはいえ医師として一人前に診療を行える、という日本のシステムは、医師になりたいけれど学費が高く、トレーニング期間が長すぎて敬遠してしまう、ということがあり得るアメリカのシステムよりも優れている面はあります。

もし日本にはない分野で医師としての力をつけたい、という場合にはアメリカで専門医として働くことには大きな意味があります。例えば、製薬会社と病院が連携して行う治験や、患者さんの組織(皮膚や血液など)を使った研究はアメリカのほうが圧倒的に研究費の額も大きく、製薬会社との連携も強く、最新の薬剤開発に医師として関わることができます。

また、内視鏡技術など日本が優れている分野がある一方で、感染症や緩和医療などアメリカが進んでいる分野があります。アメリカでは海外の医学部を卒業した医学生もレジデンシー(医学部卒後のトレーニング)に受け入れているので、日本からアメリカに渡る医師も増えています。長い研修を終えるには時間がかかりますが、日本にはない技術を学べる、文化的に多様なアメリカでトレーニングを受けられる、指導医としてアメリカに残ることもできる、という魅力があります。

今後、日本の医学部6年生が「卒業したらどの病院で研修する?」ではなく、「アメリカと日本どっちで研修する?」とまず確認し合う日がくるかもしれません。


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