
皆さんは「がん」と聞いて、どのようながんを思い浮かべますか? 胃がん、大腸がん、すい臓がん、肺がん、乳がん、子宮がん、前立腺がんなど、さまざまな答えが出てきそうですが、「食道がん」を思い浮かべる人は少ないかもしれません。
しかし近年は著名人の罹患報道もあり、注目を集めています。実は、食道がんは消化器のがんの中でも早期発見が重要ながんの1つです。進行がんになってしまうと大腸がんなどとは比べものにならないほど高難易度の手術が必要になり、再発もしやすくなってしまうためです。食道がんは命に関わる疾患で、日本では年間におよそ1万人もの人が命を落としています。
今回は「食道がん」とはどのようながんなのか、そして、どうすれば食道がんの「サイン」を見逃さないかについて分かりやすく解説します。
早期発見が重要な食道がん。ステージ(がんの進行度)で大きく変わる経過
食道は、のど(咽頭)と胃をつなぐ長さ約25cmの筋肉の管です。口から入った飲食物を、ぜん動運動(筋肉の収縮)によって胃へと送り届ける役割を果たします。
食べ物が通るのは数秒なので、意識しにくいのも特徴ですが、その管にも悪性細胞が出てくることがあります。統計的には食道がんは50歳代から60歳代にかけて発症率が高くなる傾向があります。また、男女比は10対1と、圧倒的に男性の患者数が多く、喫煙と飲酒は日本における主要な危険因子であることが大きな特徴です。
そして食道がんはステージ(がんがどこまで広がっているかを段階で表したもの)によって大きく生存率が変わるのも特徴で、国立がん研究所の調査では、次のように5年実測生存率がステージで大きく変わります。
- ステージI:70.6%
- ステージII:44.7%
- ステージIII:25.3%
- ステージIV:8.1%
なぜなら、食道には胃や腸などのほかの消化管にある「外側を覆う丈夫な膜(外膜・漿膜)」がないため、がんが壁を突き破って外へ広がりやすいからです。
さらに、食道の壁にはリンパ管や血管が網の目のように豊富に走っており、周囲を心臓、大動脈、気管、肺などの重要臓器に囲まれています。そのためがんが少し進行するだけで、周囲の臓器へ直接侵入(浸潤)したり、早い段階から広範囲にリンパ節転移を起こしたりしやすいという特徴があります。
だからこそ、早期発見が非常に重要なのです。
なぜ食道がんは早期発見が難しいのか
食道がん全体の5年実測生存率はおよそ43%前後と報告されています。これは、早期発見が難しく、内視鏡で切除できるような初期の段階では、自覚症状がほとんど現れないためです。また、症状出現から診断確定までの平均期間が食道がんでは平均約4.1か月と長く、その期間にも食道がんが進行することも一因に挙げられます。
そのため、多くの患者が病気がある程度進行し、ステージII~IVになってから初めて医療機関に駆け込むことになり、治療や回復の難易度を上げてしまっています。
では、なぜ初期の段階で気付くことが難しいのでしょうか。2023年の論文によると、食道がんの初期症状が「一時的に消えてしまうこと」や「日常的な体調不良への誤認」、そして「持病のせいだろう」という思い込みが受診を遅らせる原因であると分かっています。
具体的な例を挙げると、食道がんの症状はずっと続くわけではありません。「横になると胸が圧迫されて息苦しいが、横を向いて寝たり、しばらく休んだりすると一時的に楽になる」といった波があるため、大したことはないだろうと放置してしまうのです。
そのため、「食事のときにのどに痛みを感じる」という症状があっても、単にしゃべり過ぎによるのどの腫れや軽い風邪の症状だろうと思い込んでしまいがちです。高血圧の持病がある人の場合、「胸の痛み」が起きても心筋梗塞の前触れと考え、ニトログリセリンの自己服用のみで様子見を続けてしまうこともあります。
体が発する小さなSOSを上手に汲み取ってあげることが大切なのです。
検査を受けるべき食道がんの主な初期症状・進行後の症状
過去の臨床研究では、食道がん患者が経験する主な症状として
- 嚥下困難(93%)
- 体重減少(46%)
- 嘔吐(33%)
- 胃の痛み(25%)
- 胸の痛み(21%)
が挙げられています。これらの自覚症状がある場合は、検査を受けることが望ましいです。
また、胸やけや、熱いものを飲み込んだときのしみるような感覚も、食道がんの症状のことがあるため、注意が必要です。
水ものどを通りにくくなったり、痩せたり、背中の痛みが出たり、声帯を動かす神経への影響による声のかすれ(嗄声)が出てきた場合は、すでにかなり進行している可能性があります。
私は53歳ですが、先日、医師の友人である同級生を食道がんで亡くしました。ある日、一緒に食事をしていた彼が「最近、のどに物がつっかえるんだよね。早食いのせいかな。でも、お茶を飲めば平気だよ」と笑って言いました。私は「早食いだからって、そんなにつっかえるものだろうか。おかしくないか?」と問い詰めましたが、彼は「お前までそんなこと言うなよ」と怒ってしまいました。
しかし、彼の家族も同様に心配していた通り、後日、食道がんが判明したのです。外科手術の後、見舞いに行った私に、彼は筆談で「ありがとう」と伝えてくれました。主治医である先輩は「命は助かったが、がんは進行していたから、これまで通りに食べて話すのは難しいだろう」と話していました。ところがその数日後、彼は術後合併症の肺炎で急逝してしまったのです。ご家族からの連絡でそれを知りました。
若くして食道がんで亡くなった本人が一番つらかったのは間違いありません。しかし、もう二度と彼に会えなくなった家族や友人もまた、「第二の患者」と言えるほどつらい日々を送っています。「もっと早く受診していれば……」という言葉さえ、今となっては口にできません。そして私自身、あまりのことに彼の死をいまだに信じられないでいます。
小さな違和感を放置しないで! 早めに内視鏡検査を受ける意識を
残念ながら、食道がんは通常の健康診断やバリウム検査では見落とされることが珍しくありません。自覚症状がある場合は、検査前に医師へしっかりと詳しく伝えることが大切です。最近の内視鏡治療では、特殊な光(NBI:Narrow Band Imaging)を用いるなどして、早期の食道がんも発見可能になってきています。
食べ物がつかえる、胸やのどに違和感がある……。これら初期症状は、よくある小さな不調でもあり、様子見しがちです。しかし食道がんだった場合、「そのうち治るだろう」と様子を見ているうちに進行してしまいます。症状がかすかな段階で見つけられれば、内視鏡だけで治療できることもあります。そのためにも内視鏡検査を受けることが重要なのです。
気になる症状が続くときや、特に50歳以上の男性で飲酒・喫煙が多い方は、「まだ大丈夫」と思わず、一度内視鏡検査を受けてください。あなたの行動が、あなたと家族そして周りの人のこれからの長い人生を守ります。
■参考文献
1.Hui Ge,Liang Zhang,Xuanxuan Ma,et al.Symptom Experiences before Medical Help-Seeking and Psychosocial Responses of Patients with Esophageal Cancer: A Qualitative Study.European Journal of Cancer Care 2023.
2.K Ojala, K Jokinen,M Sorri,M I Kairaluoma.Symptoms and diagnostic delay in patients with carcinoma of oesophagus and gastric cardia: a retrospective study of 225 patients.Postgrad Med J.1982 May;58(679):264-7.
3.国立がん研究センター.食道がん.
4.大阪医科薬科大学一般・消化器外科.食道がんの診断と治療.







