
健診や定期検診で「再検査」や「要精密検査」の結果を受け取っても、「体調はいいから大丈夫」「今は仕事が忙しいから」と自己判断し、そのまま放置してしまう方は少なくありません。もちろん、どの検査項目も放置すべきではありませんが、なかでも見過ごしてはいけないのが「血糖値の異常」です。
筆者である私自身も、1型糖尿病と診断されてから35年間、毎日血糖管理や治療と向き合い続けてきました。その経験からも強く感じるのは、「血糖値は放置すれば静かに体を蝕むが、正しく向き合えば必ずコントロールできる」ということです。
血糖値が高くても、初期には体の変化を自覚できないものです。痛みもなく、日常生活も何ら問題なく過ごせるため、数値として指摘されても放置してしまいやすいのが高血糖の怖さとも言えます。
しかし高血糖の状態が続くと、気付かないうちに血管や神経へのダメージが進んでいきます。これにより、心筋梗塞、脳卒中、腎機能の低下、網膜症など、生活に大きな影響を及ぼす病気リスクが上がってしまうのです。
厚生労働省は『令和6年国民健康・栄養調査』に基づく推計から、国内で糖尿病が強く疑われる人が約1100万人、予備群にあたる人が約700万人、合計で約1800万人いることを明らかにしています。
今回は、高血糖をなぜ放置してはいけないのかを分かりやすく整理し、体の中で起きている変化と、今から始められる対策について解説します。
自覚症状のないまま進行する高血糖……糖が多い状態で体に負担になる「糖毒性」とは?
健診結果に「血糖値200mg/dL」と書かれていても、体にとってそれがどれほど深刻な状態なのかはイメージしにくいかもしれません。そもそも「血糖値」とは、血液の中にどれくらいブドウ糖が含まれているかを示す値です。一般に空腹時血糖値は100 mg/dL未満が目安とされています(特定健診(特定健康診査)では空腹時血糖ないし随時血糖100mg/dl以上を特定保健指導の基準値としています)。200 mg/dLはかなり高い状態です。
高血糖が続き、血液中で糖が多い状態が続くと、体には少しずつ負担が積み重なっていきます。体にダメージを与えるほど糖が多い状態を「糖毒性」と言います。血管や神経が傷つき、気付かないうちに全身の臓器へダメージが広がっていく状態です。インスリンの分泌や働きが低下し、糖尿病が進行しやすくなる状態とも言えます。
なお、日本糖尿病学会では次の4つの診断基準を挙げており、いずれかに当てはまる場合は「糖尿病型」と診断されます。
具体的な糖尿型の診断基準は、
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上(*1)、
- 75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が200mg/dL以上(*2)
- 随時血糖値が200mg/dL以上(*3)
- HbA1cが6.5パーセント以上(*4)
のいずれかです。「糖尿病型」と判定されただけでは、直ちに確定診断とはなりません。原則は、再度血糖値またはHbA1cで「糖尿病型」であることを確認することによって「糖尿病」であると確定診断されます。なお、喉の乾き(口渇)、多尿、原因不明の体重減少などの典型的な糖尿病症状がある場合は、1回の検査でも診断の強力な根拠となります。
以下で、各指標について詳細を解説します。
*1. 空腹時血糖値とは10時間以上絶食した状態で測定した血糖値のことです。糖尿病型診断基準における正常値は110mg/dL未満であり、110~125mg/dLを境界型(予備群)、126mg/dL以上は、糖尿病型となります。
*2. 75g経口ブドウ糖負荷試験とは、75gのブドウ糖を飲み、時間の経過による血糖値の変化を調べる検査です。その2時間後の血糖値が200mg/dL以上だった場合、糖尿病型となります。
*3. 食後であっても、健康な人であれば血糖値は140mg/dL(高くても200mg/dL)に収まるため、単回の検査であっても、血糖値200mg/dL以上が確認された場合は糖尿病型となります。
*4. HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、最近1~2カ月の血糖値の傾向を反映する指標です。HbA1cが6.5パーセント以上が糖尿病型となります。
血液中に余分な糖が多い状態が続くと、全身の血管や細胞に少しずつ負担がかかります。
高血糖が持続すると、体内では活性酸素が増えやすくなり、酸化ストレスが強まります。活性酸素は細胞を傷つけ、老化に関わる変化を進める一因です。そのため、高血糖が続くと、血管や細胞の傷みが進みやすくなります。
さらに、この状態はインスリンを分泌するすい臓のβ細胞にも負担をかけます。β細胞の働きが低下するとインスリンが出にくくなり、血糖値がさらに上がりやすくなる悪循環が生まれます。こうした高血糖そのものが機能低下を招く状態は、医学的に糖毒性と呼ばれます。
高血糖の放置が招く恐ろしい「2大リスク」
では、高血糖状態を放置し続けるとどうなるのでしょうか。大きく分けて2つの重大なリスクが体に襲いかかります。
【リスク1】全身の血管がボロボロになる(細小血管障害・大血管障害)
血液中の過剰な糖分は、血管の内壁を内側から攻撃し、全身で動脈硬化を急速に進行させます。
■細い血管の障害で起こる「3大併発症」
- 神経障害: 手足のしびれ、冷え、鋭い痛みが現れます
- 網膜症: 目の奥(網膜)の微細な血管が壊れ、進行すると失明に至ります
- 腎症: 血液をろ過する腎機能が低下し、最終的に人工透析が必要になります
■太い血管の障害で起こる「大血管障害」
脳や心臓の太い血管が詰まることで、脳卒中(脳梗塞)や心筋梗塞など、命に直結する深刻な病気を突然引き起こすリスクが高まります。
【リスク2】免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる
高血糖の影響は、将来の血管トラブルだけではありません。実は、「今現在の免疫力」を著しく低下させることが分かっています。
高血糖状態が続くと、免疫の要である白血球(好中球)の働きが低下します。特に血糖値が200mg/dLを超えると、好中球が病原体を退治する力が著しく弱まることが報告されています。
その結果、普段ならすぐ治るような擦り傷や風邪が重症化したり、手術後の傷口が感染を起こしたり、通常ならかかりにくい珍しい感染症にも罹患しやすくなってしまうのです。
「糖毒性」の悪循環を断つための「3つの基本対策」
健診で高血糖を指摘されたとしても、諦める必要はありません。今すぐ適切な対策を始めれば、高血糖による悪循環(糖毒性)を断ち切ることができます。
まずは以下の3つのアクションを必ず実践しましょう。
1. 放置せず、まず医療機関を受診する
何より優先したいのは、内科や糖尿病内科を受診することです。再検査や必要な精密検査を受けることで、今の血糖の状態や、すでに体に影響が出ていないかを確認できます。早い段階で状態を把握し、適切な治療や生活改善につなげることが、将来の合併症を防ぐ近道になります。
2.食事は食べる順番と内容を意識する
厚生労働省は、規則正しくゆっくり食べる食事を、とくに野菜、海藻やきのこ類など、食物繊維を多く含む食品を意識して取り入れることを勧めています。こうした食品は、食後の血糖上昇をゆるやかにする助けになります。食べる順番を工夫する方法として、野菜類から先に食べることを取り入れる人もいます。まずは普段の食事に野菜の副菜を一品増やすことから始めると続けやすくなります。
3. 日常生活の中でこまめに動く習慣をつける
まとまった運動時間を確保するのが難しくても、日常生活の中で体を動かす機会を増やすことは、血糖管理に役立ちます。たとえば、エレベーターではなく階段を使う、いつもより少し長めに歩くといった工夫でも、身体活動量を増やせます。まずは今より1日1000歩多く歩くことを目標にすると始めやすいでしょう。運動で筋肉を使うと、ブドウ糖が利用されやすくなり、血糖コントロールの改善につながります。
血液検査の結果は、体からの大切なサインです。自覚症状がないからといって高血糖をそのままにすると、気付かないうちに血管や臓器への負担が進み、将来の合併症につながるおそれがあります。だからこそ先延ばしにせず、健診結果をきっかけに早めに医療機関を受診してください。あわせて毎日の食事や運動など生活習慣を少しずつ見直していくことが大切です。
■参考文献:
1.日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024.
2.厚生労働省.令和6年国民健康・栄養調査結果の概要.
3.Shinji Kawahito,Hiroshi Kitahata,Shuzo Oshita.Problems associated with glucose toxicity: Role of hyperglycemia-induced oxidative stress.World J Gastroenterol 2009;15:4137–4142.
4.Mouri MI, Badireddy M. Hyperglycemia. In: StatPearls. Treasure Island, FL: StatPearls Publishing; 2026.







