
書店に行くと、パフォーマンスを高めるための実用書が数多く並んでいます。それらの本でよく見かけるのは、「朝30分早く起きれば人生が変わる」「脳疲労を防ぐには、重要な作業を朝に集中的に行いなさい」といったアドバイスです。
しかし医学的に本当のことをいうと、パフォーマンスが最大化する時間帯は「一人ひとり違う」といわざるをえません。なぜなら、脳のゴールデンタイムがいつなのかを決める「朝型」「夜型」は、人によって違うからです。
今回は、数ある論文から、あまりよく知られていない「朝型」「夜型」について、現在分かっていることをご紹介します。
自分自身に合った時間帯に能力が最大化する
皆さんは、「やらなければならないのに、なんとなく乗り気になれない・集中できない」という経験はありませんか? 私たちの注意力、記憶力、実行能力は、一日の中で常に一定なわけではありません。
ポーランド、カジミェシュ・ヴィエルキ大学のMonika Wiłkość-Dębczyńska氏らは、「人間の認知機能(記憶、思考、理解などの知的な脳の働き全般)は、自分の体内時計のタイプとテストを受ける時間帯が一致したときに最も高まる」と、2023年に明らかにしました。これは、「同調効果(シンクロニー効果)」と呼ばれる非常に有名な認知機能の研究です。
また、フランス、トゥール大学のRené Clarisse氏らは、2010年に寄宿学校に通う若者たちを対象にした注意力のテストを行っています。研究の結果、朝型の若者は午前7時の段階で「選択的注意力」(必要な情報だけに集中する力)が、夜型の人より明らかに優れていることが分かりました。しかし正午から午後2時ごろになると両者の点数は同じくらいになり、さらに夜の午後7時30分になると、今度は夜型の若者のほうが優れた注意力を発揮することが確認されたのです。同じ学生たちで比べているのに、時間帯によって結果が真逆になっているというのは不思議に感じられるかもしれません。
実は「朝型」と「夜型」は個々人によって生まれつき異なるのです。もし夜型の人が数ある実用書を真に受けて、朝に重要な仕事に集中しようとすれば、どうなるでしょうか? 結果として、同じ仕事をする朝型の人に負けてしまうことになります。これは努力の問題ではありません。自分が「朝型」か「夜型」かは、自分自身で分かっていたほうがいいのです。
「朝型」「夜型」は優劣ではない! 12万人規模の遺伝子調査で判明した事実
では、「朝型」「夜型」は何で決まるのでしょうか? 従来のイメージでは、「朝型生活を送れる人は、生活がきちんとしている」「夜型の人はだらしなく、夜更かしの癖がついてしまっている」というものがあるかもしれません。早起きを推奨する「朝活」ブームなどもありました。しかし、「朝型が優れていて、夜型が劣っている」と考えるのは、いうなれば非科学的な偏見です。朝型か夜型かは、実は私たちが生まれ持った遺伝子が大きく関係しているからです。
英国、エクセター大学のSamuel E Jones氏らは、12万8266人の遺伝子データを分析し、2016年に論文として発表しました。この研究では、人が朝型になるか、また、睡眠時間がどう変化するか決める新しい遺伝子座が複数特定されています。つまり、私たちの体内時計のベースは生まれ持ったDNAの設計図によってある程度決められているというわけですね。
ですから、「朝が苦手」「どうしても早起きできない」「午前中は頭が働かない」という人は、怠惰な性格なのかもしれないと、自分を責める必要はありません。それは怠け心や努力不足ではなく、あなたが生まれ持った遺伝子による性質だからです。優劣ではありませんし、夜型の人は、朝型向けに作られた社会に合わせて生活しているだけでも、努力しているともいえます。自分を責めるのではなく、朝型・夜型の性質を理解して、うまく活かす方法を模索するべきでしょう。
同じ個人でも朝型・夜型に変化することも……年齢とともに変わる体内時計
また、体内時計には遺伝子だけでなく、「年齢」も大きくかかわることが分かっています。「子どもの頃は早起きだったのに、中高生になると急に夜型になってしまい、朝起きられなくなった」という経験がある人もいるかもしれません。実はこれも自然なことなのです。
例えば、米国カリフォルニア大学のMaira Karan氏らが2021年に発表した調査があります。この調査は14~17歳の青少年329人を対象に、腕時計型の活動量計(アクティグラフ:睡眠や活動のサイクルを測定する機器のこと)を用いて行われました。2年ごとに計3回、睡眠と覚醒のリズムを追跡調査した結果、14~19歳にかけて、若者たちの睡眠・覚醒リズムが徐々に遅くなり、夜型化(夕方優位性)が進むという発達傾向が明らかになったのです。
「中高生が夜更かしになる」と聞くと、スマホの見過ぎや生活リズムの乱れと考えがちですが、生物学的な発達プロセスとしては自然な変化だといえそうです。その後、さらに年齢を重ねて高齢期に入ると、今度は逆に朝型へと変化していく傾向があることも知られています。年齢によって体内時計も変化するとは、人間の体は本当によくできていると感じます。
「脳の日記」でタイプを把握! 脳のゴールデンタイムの活かし方
このように、「脳のゴールデンタイム」は遺伝や年齢によって不可抗力的に決まり、変化していきます。正しく理解し、利用していくことが大切です。
筆者の父は「勉強しろ」が口癖の厳しい人でしたが、一方で勉強さえしていればそれ以上は何もいわない人でもありました。そのことに気づいた高校生の私は、試行錯誤して次第に自分なりの生活リズムを作るようになっていきました。高校生の頃にしていたのは、「生徒会活動や部活動を終えて帰宅したら、ひとまず眠る」というスタイルの生活です。20時に起きて食事をし、入浴を済ませ、パソコンゲームをしてから、22時から午前3時ごろまでの深夜の静かな時間にラジオ番組を聞きながら机に向かう。24時になると、母がおにぎりと漬物とお茶を部屋に差し入れてくれていました。それがルーティンの夜型リズムが、当時の私にとっては最も集中でき、勉強のパフォーマンスも高くなるスタイルだったのです。
夏休みの勉強合宿などで強制的に朝型の生活に合わせなければならないときは、自分にとってベストな生活リズムが乱れて大変だった記憶があります。勉強に集中するための合宿なのに、体調を崩してしまい、勉強どころではなくなってしまったのです。振り返ってみると、家で夜型の生活を送る私を否定せず、受け入れてくれていた両親の存在は、本当にありがたいことだったと感じます。
さて、それではあなたの「脳のゴールデンタイム」はどう見つければいいのでしょうか? 例えば、生活スタイルはそのままに「脳の日記」をつけてみましょう。日時単位で記載できるバーティカルな手帳がおすすめです。「朝8時はやる気に満ちあふれていた」「夜になると疲れて何も考えられない」など、ありのままでかまいません。1週間くらいつけると、どの時間帯のパフォーマンスが優れているのかが分かってきます。睡眠時間も大きく影響するので、記載することを忘れてはなりません。
そして、試験の勉強や重要な書類の作成など、集中力が必要な作業は、自分のタイプに合わせた時間帯に配置していきましょう。朝型なら午前中、夜型なら午後や夕方以降にするのが効果的です。人によって向いている時間は違いますので、周りに流されず、自分が「乗り気」になれる時間に作業を集中させるのです。
もう、自分の個性を否定する必要はありません。大切なのは、自分自身の特性を知り、上手に利用することです。ぜひ、あなたの「脳のゴールデンタイム」を見つけてみてください。
■参考文献
1.Samuel E Jones,Jessica Tyrrell,Andrew R Wood,et al.Genome-Wide Association Analyses in 128,266 Individuals Identifies New Morningness and Sleep Duration Loci.PLoS Genet.2016 Aug 5;12(8):e1006125.
2.Clarisse R, Le Floc’h N, Kindelberger C, Feunteun P.Chronotype, Sleep Quality and School Performance in adolescents- an integrative literature review.Chronobiology International 2010;27: 826–841.
3.Maira Karan,Sunhye Bai,David M Almeida,et al.Sleep-Wake Timings in Adolescence: Chronotype Development and Associations with Adjustment.J Youth Adolesc.2021 Apr;50(4):628-640.
4.Monika Wiłkość-Dębczyńska,Magdalena Liberacka-Dwojak. Time of day and chronotype in the assessment of cognitive functions.Postep Psychiatr Neurol.2023 Sep;32(3):162-166.
5.Lalremruati Jongte,Amit Kumar Trivedi.Chronotype, sleep quality and academic performances among Mizo students.Chronobiol Int.2022 Mar;39(3):398-408.







