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体罰は“愛の鞭”ではなく違法! しつけと虐待の境界線は? 医師が教える育児に限界を感じたときの対処法

【児童精神科医が解説】しつけと虐待の線引きは「子どもにとって有害かどうか」です。責任感や疲労で追い詰められた親が感情を爆発させてしまう背景と、限界を感じたときの適切な対処法について解説します。(※画像:amanaimages)

秋谷 進

秋谷 進

医師 / 子どもの健康・医療ニュース ガイド

小児科医・児童精神科医・救急救命士。金沢医科大学卒業後、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院、三愛会総合病院、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て、たちばな台クリニック小児科。小児神経・児童精神を中心に診療に従事している。

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Child Abuse
子どものしつけと虐待の線引きは、「子どもにとって有害」かどうかです

子に愛情を注いでいて「自分は絶対に虐待なんてしない」と思っている人でも、仕事のトラブルや疲れ、寝不足などが積み重なり、心の余裕がなくなる瞬間はあるかもしれません。思わず子どもにイライラして、大声を上げてしまったり、「カッとなって手が出そうになった」りしたという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

今回は、誰しもが当事者になりうるからこそ知っておきたい、しつけと暴力の境界線、そして限界を迎える前にできる対処法について、児童精神科医の視点から分かりやすく解説します。

かつては「愛の鞭」でも、現代では「違法行為」! 厳しく禁じられた体罰

まず、皆さんに質問です。

「皆さんは子どもの頃、親から叩いてしつけられることがありましたか?」

現在、子育ての中心にいる世代の中には、「自分も子どもの頃に親から叩かれて育った」「お尻を叩かれるくらいは普通のしつけだった」という方も多いかもしれません。昭和や平成初期までは、現在の体罰に当たる行為が、「愛の鞭」として社会的にもある程度容認されていた背景がありました。

しかし、現代の子育てと「愛の鞭」には大きなズレがあります。日本では、2020年4月に施行された改正児童福祉法などにより、親(親権者など)による子どもへの体罰が法律で全面的に禁止されました。かつて「ごく普通のしつけ」とされていた行為は、令和の現在では明確な法律違反であり、場合によっては虐待とみなされるのです。

「時には叩いてでも厳しくしつける方が子どものためだ」と考える人もいるかもしれませんが、体罰は子どもの発達に悪い影響を及ぼします。国内外の多くの研究でも、お尻や手を叩くスパンキングなどの体罰が、子どもの反社会的な行動を増やしたり、脳の機能的な発達に悪影響を与えたりすることが科学的に明らかになっています。

なぜ親は追い詰められるのか? 「理想の育児」と疲労の蓄積

子どものしつけと虐待の線引きに悩む方もいるようですが、大事なのは「子どもにとって有害」かどうかです。

では、なぜ親は「しつけのつもり」で手をあげてしまうことがあるのでしょうか。

2017年の日本看護科学会誌での研究によると、母親たちは主に以下の3つの要因から、しつけと虐待の境界線で行き来していると報告されています。

  • 感情が高ぶった際に、無意識に子どもを強い力で圧倒しようとしてしまう
  • 「ちゃんとした母親であらねばならない」という理想像や責任感からくる疲労の蓄積
  • 周囲からの評価や「きちんとしつけられているか」という他者の目を過剰に気にしてしまう心理

要するに、多くの親は「子どもを厳しく教育しなければ」という強い責任感から、無意識に自らを限界まで追い詰めてしまっているのです。

育児の疲労が限界に達したとき、安心できる周囲のサポートが不足していると、しつけの枠を超えて感情が爆発しやすくなることが示唆されています。

児童相談所はヘルプサインの受け皿……家族関係修復のために「相談・通告」は重要

2026年5月、読売ジャイアンツの阿部慎之助元監督が18歳の長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、社会に大きな波紋を広げました。報道によれば、長女が生成AIに父親とのケンカを相談し、その流れで児童相談所へ匿名相談をしたところ、警察への通報・現行犯逮捕に至ったとされています。長女自身は後に、「殴る蹴るなどの過度な暴力」はなかったことと、警察が来て驚いたことなどを手紙で釈明しています。

法律(児童虐待防止法第6条)には、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、市町村や福祉事務所、児童相談所に通告しなければならない」とする通告義務があります。しかし、今回の報道や、「通告」「通報」といった言葉に対し、「ささいな親子げんかで家族が引き裂かれる」「一度通報されたら終わりだ」と、強い恐怖や拒絶感を抱いた方もいるかもしれません。

ここで皆さんに強くお伝えしたいのは、児童相談所への相談や通告の本来の目的は「家族をバラバラにすること」ではなく、「これ以上の深刻な事態を防ぎ、家族全体を救うための支援の入り口」であるということです。

阿部元監督のケースでは、年齢的な要件やその場の緊迫性から警察が介入する形となりましたが、本来の児童福祉の枠組みは、孤立した家庭に公的なサポートの手を差し伸べるためにあります。子ども虐待を防止するには、虐待した親を責めるのではなく、理解し支援することが最も有効であることが分かっています。児童相談所などへの通告は、決して「親への罰」ではなく、限界を迎えた家族が再び健全に関係を修復していくための「ヘルプサインの受け皿」を作ることなのです。

感情の波にのまれないために……親の感情コントロールに役立つ2つの処方箋

そうは言っても、目の前で子どもがトラブルを起こしたとき、瞬時に湧き上がる怒りをコントロールするのは至難の業です。そこで、診察室でもお勧めしている、カッとなった瞬間に理性を保つための2つの方法をご紹介します。

1つ目は「タイムアウト法」です。イライラが爆発しそうだと感じたら、まず子どもの安全(ケガをしない環境)を確保した上で、親自身が別の部屋やベランダ、洗面所などに移動し、子どもから物理的に距離を置きましょう。数分間、一人の空間で静かに過ごすことで、脳の興奮を鎮めることができます。

2つ目は、アンガーマネジメントにおける「6秒のカウントダウン」です。人間の激しい怒りのピークは、長くて「約6秒間」といわれています。カッとなったら言葉を発したり手を動かしたりする前に、心の中でゆっくり「1、2、3……」と6まで数えるか、冷たい水を一口飲むなどして最初の6秒間をやり過ごしてみましょう。これだけでも、突発的に手が出てしまうリスクを大幅に下げることができます。

児童精神科医として、診療の場でも、子どもにしつけは必要だけれども、さじ加減が大切だと説明しています。

実のところ、私自身もかつて一度、わが子を叩いて叱ってしまったことがあります。友達のものを隠したと知り、「なぜそんなことをしたのだという疑問からくる不安」「親として厳しくしつけなければならないという責任感」から追い詰められてしまったのです。しかし後から判明したのは、友達に意地悪をされたわが子が、どうしようもなくなった末に仕返しをした、という経緯でした。

なぜ友達のものを隠してはいけないのか、善悪を教える前に感情的に叱ってしまったのです。普段怒らない私が激しく怒ったのがよほど怖かったのでしょう。結果として、子どもがそのとき学んだのは「善悪の判断」ではなく、「私に怒られるか怒られないか」という判断基準でした。

本来は、まずなぜそのようなことをしたのかを穏やかに聞き、「友達関係で困ったなら親か先生に言えばいいんだよ」と優しく諭すべきだったのです。親子の関係性を保ちながら、継続して話し合える土台を作るべきでした。

「完璧な親」はいません。つらいときは周囲に頼る勇気が大切です

子どもを健やかに育てるために最も大切なのは、まず保護者であるあなた自身がストレスなく、心身ともに健康であることです。

子育てに簡単な正解はなく、最初から「完璧な親」もいません。1人の人間としてつらいと感じたなら、周囲を上手に頼り、適切なサポートを受けることも大切です。

反省はしても後悔はしないよう、少しずつ肩の力を抜いて、子どもとの歩みを進めていきましょう。

■参考文献
1. 日本小児科学会.子ども虐待診療の手引き.
2. 細坂泰子,茅島江子.乳幼児を養育する母親のしつけと虐待の境界の様相.日本看護科学会誌 2017;37:1-9.
3. Sachiko Baba,Ehab S Eshak,Kokoro Shirai,et al.Factors Associated With Family Member’s Spanking of 3.5-year-old Children in Japan.J Epidemiol.2020 Oct 5;30(10):464-473.

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