世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

ロイヤル・エキシビジョン・ビル/オーストラリア(2ページ目)

19世紀のゴールドラッシュからオーストラリアを見守り続けてきた世界遺産「ロイヤル・エキシビジョン・ビルとカールトン庭園」。多文化が共存し、文化と自然を愛する「ガーデン・シティ」メルボルンの象徴を案内する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

混合庭園、カールトン庭園の構造

カールトン庭園にあるふたつの池はまるで自然のもののよう。たくさんの鳥たちが羽を休めている

カールトン庭園にあるふたつの池はまるで自然のもののよう。たくさんの鳥たちが羽を休めている

24時間無料で人々に解放されているこのさりげない庭園。ただ適当に木々を配したように見えるのだが、自然のすばらしさを伝えるためにかなりの工夫が凝らされている。

シンプルな姿が美しい

シンプルな姿が美しい

まず全体はおおまかにシンメトリーをなしており、ロイヤル・エキシビジョン・ビルを中心にほぼ東西対称で、南北にはサウスガーデンとノースガーデンが配されている。人々の憩いの場となっているサウスガーデンの北部中央には噴水があって、そこから放射状に道を通している。

道の周りは街路樹や花壇が規則正しく並び、幾何学的なパターンを作り出している。ところが全体は完全な平面ではなくて軽い傾斜があったりとデコボコで、さすがオーストラリアというようなオークやユーカリの巨木があっちこっちに植えられているのだが、これも自然の森のように適当に置かれている。ふたつある池は位置も形もランダムで、昔からあった自然の池のように鳥が浮かび、魚が泳ぎ、水草が繁茂している。

 

ヨーロッパ庭園の幾何学美も感じるけれど、なんだか日本や中国の庭園のような風情も感じてしまう。けれど木々や公園の巨大さは、まさにオーストラリア。

建築家ジョセフ・リードは形式を重視した「幾何学式」と、自然をのびのびと表現した「風景式」を混ぜ込んで、このような混合庭園によって、新大陸オーストラリアを開拓した人類の叡智と、オーストラリアの大自然の雄大さを表現した。

カールトン庭園の魅力とメルボルンの文化

ロイヤル・エキシビジョン・ビル正面の噴水。花壇には四季折々に咲く花が植えられている

ロイヤル・エキシビジョン・ビル正面の噴水。花壇には四季折々に咲く花が植えられている

庭園は古代エジプトや古代ギリシアの壁画にすでに見られるほか、マヤやアステカをはじめ世界中の文化で愛されてきた。世界遺産にも数多くの庭園が登録されており、カールトン庭園をはじめ、京都の龍安寺や慈照寺、中国の四大名園(頤和園、承徳避暑山荘、拙政園、留園)、イスラム庭園ならインドのタージマハルやイランのイマーム広場、西洋庭園ならフランスのヴェルサイユ宮殿やオーストリアのシェーンブルン宮殿など、実に数多い。

なぜ人は庭園を愛し、築いてきたのだろう?

庭園との調和がすばらしい

緑と調和するロイヤル・エキシビジョン・ビル

なぜだかわからないけれど、すばらしいこの自然を閉じ込めて、いつでも触れられるようにしたい……昔から人はこんなことを感じていたようだ。自然をよりハッキリ主張するために効率的に植物を配置したり、配置そのものに美を見つけてそれをアートに高め、庭園は文化にまで成長した。

これをよく知っているのがメルボルンの人々だ。メルボルンの総面積に占める庭園の割合は、なんと1/4。19世紀のゴールドラッシュ以降、人々は自然を開拓し、街を大きく発展させてきた半面、自然に触れる喜びを忘れることがなかった。

メルボルンはワインやシーフード、肉料理のおいしさで有名だし、アート系の活動もとても盛んな「芸術の都」。それも同じこと。自然のちょっとした喜びを愛し続けてきた心豊かな人々が、庭園を生み、食を生み、アートを生み、メルボルンを生み出した。
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