世界遺産/アジアの世界遺産

フォンニャ-ケバン国立公園/ベトナム(2ページ目)

バロック芸術を思わせる鍾乳洞や高層ビル群がスッポリ入る世界最大の洞窟通路、死海のように体が浮き上がる泥の池など、フォンニャ-ケバンには大自然が4億年をかけて創り上げた壮大な地下世界が広がっている。近年は象徴であるフォンニャ洞窟とティエンソン洞窟の他に、ティエンドゥオン洞窟、トイ洞窟、エン洞窟等々、多彩な洞窟が続々オープン! 今回は世界屈指の洞窟リゾート「フォンニャ-ケバン国立公園」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

フォンニャ-ケバン国立公園の誕生とその特徴

ティエンドゥオン洞窟の鍾乳石

本当に美しいティエンドゥオン洞窟の鍾乳石。直線と曲線が織りなす繊細かつ大胆な造形は現代美術を思い起こさせる

見事なつらら石

見事なつらら石。条件によるが、1cm伸びるのに50年ほどを要するという

4億年前、フォンニャ-ケバン国立公園周辺は海の底に沈んでいた。ここに生物の死骸が大量に降り積もり、分厚い石灰層ができあがる。

やがて土地が隆起すると、陸となった石灰層に雨が降り、川が流れる。石灰岩の特徴は、水を通しやすく溶けやすいこと。川底が削られて谷となり、雨に削られて複雑な地形ができあがる。

地中では浸透した水が穴を穿って洞窟を掘る。洞窟の天井からポタリポタリと落ちる水から溶けた石灰が固まってつらら石となり、一方落ちた水滴の石灰が盛り上がって石筍(せきじゅん)ができる。この両者がつながったものを石柱という。こうして数千万年をかけて鍾乳洞を彩っていく。

これまで園内で発見された洞窟は300以上。2009年に約50の洞窟が発見され、2012年にも40以上の洞窟が見つかった。まだまだ多くの未発見洞窟があるものと思われる。

 

カーテンと呼ばれる膜状鍾乳石

カーテンと呼ばれる膜状鍾乳石。乾燥しており、完全に岩となっている。フォンニャ洞窟にて

園内には年間2000~2500mmの雨が降り(東京は1500mm程度)、豊富な降水量が豊かな森林を生み、その森林が数多くの動物種を育んでいる。哺乳類154種、鳥類314種、爬虫類117種、両生類58種、魚類170種が確認されており、その中にはフォンニャケバンヤモリをはじめとする固有種や、オオホエジカ、ウンピョウ、サオラのような絶滅危惧種を含んでいる。

この地は2000年に国立公園に指定され、2003年に重要な地形を評価した登録基準(viii)が適用されて世界遺産リストに登録された。2015年には46%の登録範囲の拡大とともに、生物の進化史における重要な見本である登録基準(ix)、および絶滅危惧種などの重要な生息地を評価した登録基準(x)が適用されて、拡大登録された。

 

フォンニャ-ケバンの象徴、フォンニャ洞窟(ウェット・ケイブ)

信じがたい造形を見せるフォンニャ洞窟

信じがたい造形を見せるフォンニャ洞窟。最大で高さ83mに及ぶ。他の洞窟が公開される2010年以前、フォンニャ-ケバン国立公園の洞窟観光といえばこことティエンソン洞窟に限られていた

フォンニャ洞窟とティエンソン洞窟

下がフォンニャ洞窟。右に点在するお堂のような建物がティエンソン洞窟の祠群

日本語で、風の牙の洞窟。洞窟が川を飲み込んでいるように見え、天井から垂れ下がるつらら石が牙のように見えたことからこの名が付いたのだろう。英語ではフォンニャ・ケイブ、あるいはウェット・ケイブと呼ばれている。

ソン川の支流が山を削ってできた洞窟で、川は地下河川となって7.7kmにわたって山を貫いている。メインの洞窟の周囲には13の小洞窟が接続しており、そうした小洞窟を合わせると全長は44.5kmに及ぶ。

 

フォンニャ洞窟の石灰棚

フォンニャ洞窟の石灰棚

その存在は15世紀頃から知られており、ベトナム戦争中は弾薬庫や避難民の住居・治療院として利用された。1990年に全貌が確認され、1995年にはツアーが開始されてティエンソン洞窟とともにフォンニャ-ケバン国立公園のランドマークとなった。

観光客は、フォンニャの町から竜の絵が描かれたドラゴンボートに乗って洞窟を訪れる。ボートは入口から1~1.5kmほどまで進入し、途中にあるビーチに上陸して散策を行う。大規模なつらら石や石筍・石柱があちらこちらに散在している。

こうした一般的なツアーの他に、4.5km地点までカヤックで進入する探検ツアーも催行されている。

 

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