企業の約8割が「継続雇用制度」を選択
国は、2013年「改正高年齢者雇用安定法」により「継続雇用制度の導入」「定年の引き上げ」「定年制の廃止」のいずれかで「原則、希望者全員を65歳まで雇用」するよう企業に義務づけました。厚生労働省「令和2年 高年齢者の雇用状況(6月1日現在)」によると、「継続雇用制度の導入」を行った企業が約76%を占めています。定年制の廃止は約3%に過ぎません。●高年齢者の雇用確保措置の実施状況
- 継続雇用制度の導入 12万5352社 76.4%(前年より1.5ポイント減)
- 定年の引き上げ 3万4213社 20.9%(同1.5ポイント増)
- 定年制の廃止 4468社 2.7%(前年と同じ)
(内訳) 中小企業(31~300人規模)14万7081社/大企業 (301人以上規模) 1万7070社
「継続雇用制度の導入」の内容を詳しく見ると、4分の3の企業は「希望者全員を65歳以上継続雇用」していますが、大企業に限っては56%に過ぎません。
●希望者全員65歳以上の継続雇用制度 74.5%(前年比1.5ポイント増)
中小企業 8万5000社 76.9%(前年比1.4ポイント増)
大企業 8333社 56.2%(同2.3ポイント増)
●基準該当者65歳以上の継続雇用制度(25.5%)
中小企業 2万5521社 23.1%(前年比1.4ポイント減)
大企業 6498社 43.8%(同2.3ポイント減)
では、雇用確保措置がどのような状況なのか、全体の平均と事業規模別にもう少し詳しく見ていきましょう。
大企業も65歳定年が増加
まず「定年制」を見ていきましょう。全体では「廃止」する企業が2.7%(前年と同じ)、「65歳」は18.4%(前年比1.2ポイント増)、「66~69歳」は1.0%(同0.1ポイント増)、「70歳以上」は1.5%(同0.3ポイント増)です。では、事業規模別に見ていきましょう。・定年制を廃止(4468社 2.7%)
中小企業 4370社 3.0%(前年比0.1ポイント増)
大企業 98社 0.6%(同0.1ポイント増)
・65歳定年(3万250社 18.4%)
中小企業 2万8218社 19.2%(前年比1.3ポイント増)
大企業 2032社 18.4%(同1.3ポイント増)
・66歳~69歳定年(1565社 1.0%)
中小企業 1532社 1.0%(前年と同じ)
大企業 33社 0.2%(前年と同じ)
・70歳以上定年(2398社 1.5%)
中小企業 2323社 1.6%(前年比0.1ポイント増)
大企業 75社 0.4%(前年と同じ)
大企業でも「65歳定年」が増加しています。次に「66歳以上が働ける制度のある企業」と「70歳以上が働ける制度のある企業」について見ていきましょう。
66歳以上・70歳以上が働ける制度がある企業は3割超え
「66歳以上が働ける制度のある企業」は33.4%、「70歳以上が働ける制度のある企業」は31.5%で、大企業・中小企業を問わず前年より3ポイント程度増加しています。大企業では、「基準該当者」「その他の制度」など条件付きの雇用が1%強増えており、高齢者雇用に積極的になりつつあります。●66歳以上働ける制度がある企業(5万4802社 33.4%)
中小企業 4万9985社 34.0%(前年比2.6ポイント増)
大企業 4817社 28.2%(同2.9ポイント増)
・定年制の廃止(4468社 2.7%)
中小企業 4370社 3.0%(前年比0.1ポイント増)
大企業 98社 0.6%(同0.1ポイント増)
・66歳以上定年(3963社 2.4%)
中小企業 3855社 2.6%(同0.2ポイント増)
大企業 108社 0.6%(前年と同じ)
・希望者全員66歳以上の継続雇用制度(1万2367社 7.5%)
中小企業 1万6053社 8.0%(前年比0.7ポイント増)
大企業 608社 3.6%(同0.5ポイント増)
・基準該当者66歳以上雇用(1万7891社 10.9%)
中小企業 1万6053社 10.9%(前年比0.6ポイント増)
大企業 1838社 10.8%(同1.1ポイント増)
・その他の制度で66歳以上まで雇用(1万6113社 9.8%)
中小企業 1万3948社 9.5%(前年比1.0ポイント増)
大企業 2165社 12.7%(同1.3ポイント増)
●70歳以上働ける制度がある企業(5万1633社 31.5%)
中小企業 4万7172社 32.1%(前年比2.5ポイント増)
大企業 4461社 26.1%(同2.8%増)
・定年制の廃止(4468社 2.7%)
中小企業 4370社 3.0%(前年比0.1ポイント増)
大企業 98社 0.6%(同0.1ポイント増)
・70歳以上定年(2398社 1.5%)
中小企業 2323社 1.6%(前年比0.1ポイント増)
大企業 75社 0.4%(前年と同じ)
・希望者全員70歳以上雇用(1万1705社 7.1%)
中小企業 1万1158社 7.6%(前年比0.7ポイント増)
大企業 547社 3.2%(同0.5ポイント増)
・基準該当者70歳以上雇用(1万7286社 10.5%)
中小企業 1万5595社 10.6%(前年比0.6ポイント増)
大企業 1691社 9.9%(同1.1ポイント増)
・その他の制度で70歳以上雇用(1万5776社 9.6%)
中小企業 1万3726社 9.3%(前年比1.0ポイント増)
大企業 2050社 12.0%(同1.2ポイント増)
では、日経BPコンサルティングが2021年1月に実施した「定年後の就労に関する調査」から、定年後再雇用に対する職場の受け止め方をご紹介します。
「戦力になっている」と高評価
定年後再雇用された人の働きぶりに対して職場は、「(とても)戦力になっている」が65.7%と高く評価しています。「(とても)足手まとい」はわずか2.7%に過ぎません。これは働く高齢者にとって励みになるだけなく、企業が高齢者の活用に本腰を入れるきっかけになるのでは、と思います。他に職場の意識を2つご紹介します。●彼らの働きぶりを見て、将来自分が定年後働くうえでどのような不安があるか<トップ5>(複数回答)
1位 体力の衰え(59.5%)
2位 給料や待遇が下がる
3位 記憶力が学習能力の衰え(51.2%)
4位 気力の衰え(48.9%)
5位 培ってきた経験やスキルが時代に合わなくなる(31.8%)
●いくつまで働きたい・働くことになりそうか
・65~69歳 38.4%
・70~74歳 16.9%
次に、企業は60歳以降の雇用確保についてどのように対応しようとしているのか、をアンケート調査からご紹介します。
65歳以降の雇用確保措置を実施(予定)は46%
独立行政法人 労働政策研究・研修機構が2019年5~6月に行ったアンケート調査「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」によると、半数近くの企業は65歳以降の雇用にも条件付きで取り組んでいます。詳細は次の通りです。
●60歳前半の継続雇用の実態
・雇用形態:嘱託・契約社員58%、正社員42%、パート・アルバイト25%。
【従業員数】(嘱託・契約社員/正社員/パート・アルバイト) 単位%
100人未満 48.6/46.1/20.9
100人~299人 64.6/37.6/26.3
300人~999人 73.3/36.6/34.0
1000人以上 71.3/35.9/37.7
・定年前後の仕事の変化 : 定年前と全く同じ仕事44.2%、定年前と同じ仕事だが責任の重さが軽くなる38.4%、定年前と一部異なる仕事5.6%/定年前と全く異なる仕事0.5%
【従業員数】(同じ仕事/同じだが責任が軽くなる/一部異なる仕事/全く異なる仕事) 単位%
100人未満 47.0/34.0/5.0/0.5
100人~299人 43.8/41.3/5.8/0.5
300人~999人 35.9/48.1/6.9/0.6
1000人以上 34.1/44.3/8.4/1.8
●65歳以降の雇用
・雇用を確保する仕組み:希望者のうち基準に該当した人のみ働くことができる58%、希望者全員が働くことができる22%、働く事ができない17%。
【従業員数】(基準該当者のみ/希望者全員/働くことはできない) 単位%
100人未満 55.5/24.8/16.5
100人~299人 61.3/20.5/16.5
300人~999人 59.7/16.4/22.5
1000人以上 56.3/13.2/27.5
・働く際の基準 トップ5(複数回答)
健康上支障がないこと 82.4%
働く意思・意欲があること 81.8%
会社が提示する労働条件に合意できること 62.9%
会社が提示する職務内容に合意できること 61.2%
出勤率、勤務態度 57.7%
・雇用状況の実態:雇用している84%、雇用していない15%。
【従業員数】 (雇用している/雇用していない) 単位%
100人未満 82.0/17.3
100人~299人 85.2/14.4
300人~999人 88.3/11.0
1000人以上 87.1/12.9
・雇用確保措置の実施状況:実施または予定あり46.0%/予定なし51.1%
【従業員数】 (実施または予定あり/予定なし) 単位%
100人未満 46.4/50.2
100人~299人 47.2/51.3
300人~999人 42.5/55.8
1000人以上 43.7/55.1
・就いている職種 トップ5(複数回答)
専門的・技術的な仕事 45.5%
管理的な仕事 27.1%
事務的な仕事 23.0%
サービスの仕事 20.8%
運搬・清掃・包装等の仕事 15.9%
・雇用確保措置が必要と考える理由 トップ5(複数回答)
意欲と能力があれば特に労働者の年齢は関係がないため 76.3%
高年齢者の身に付けた能力・知識などを活用したいため 61.1%
まじめに働いてもらえるため 27.3%
若年者を採用できないため 25.7%
若年者に技術や仕事姿勢への教育効果を期待できるため 24.6%
・雇用確保措置を実施する場合に必要となる取り組み トップ5(複数回答)
継続雇用者の処遇改定 37.0%
高年齢者の健康確保措置 32.8%
全社的な賃金制度の見直し 22.6%
全社的な人事制度の見直し 18.7%
新たな勤務シフトの導入 18.1%
●70代前半の雇用確保措置の実施状況
「実施または予定あり」の企業が57%、「予定なし」は40%です。
【従業員数】 (実施または予定あり/予定なし) 単位%
100人未満 53.9/42.2
100人~299人 58.9/38.1
300人~999人 61.4/36.3
1000人以上 52.1/46.6
これまで以上に自分磨きが必要?
65~69歳までの雇用確保を事業主の努力義務とする「高年齢者雇用安定法」(2021年4月施行)を見越してか、企業は既に65歳以降の雇用について、処遇改善だけでなく人事・賃金制度など抜本的な見直しに着手しつつあります。一方、2020年に始まったコロナ感染拡大により、従来の働き方は新しい働き方へと大転換が求められています。これからの経済活動や働き方の変容や、時代や企業が求める能力の変化を見極めながら、スキルアップ・キャリアアップなどの自分磨きが今まで以上に必要になりそうです。【関連記事】
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