日本に19件目の世界遺産が誕生!
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」の構成資産のひとつ、旧グラバー住宅。長崎の貿易商・グラバー商会のトーマス・グラバーの私邸で、日本最古の木造洋風住宅といわれる
しかし今年6月の外相会談で双方が合意に至り、障害がなくなったものと思われていた。ところが世界遺産委員会開催中に韓国が反対のロビー活動を強め、日本もこの対応に追われた。結局日本は「自らの意思に反して連れてこられ、厳しい条件で労働を強いられた」ことを認め、インフォメーションセンターなどを設置して徴用について表記することを約束し、討議をいっさい行わないという前代未聞の状況で登録が実現した。
日本の物件が表立って登録の反対を受けるのは1996年の「原爆ドーム」以来のこと。「原爆ドーム」ではアメリカが反対し、中国も審議を棄権した。なお、韓国は日本の世界遺産暫定リスト記載の「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」でも朝鮮人の徴用があったということで、推薦した場合は外交問題化することを表明している。
さて、この世界遺産はこれまでの文化遺産と少々毛色が異なる物件だ。文化遺産はこれまで文化庁の文化審議会が主導してきたが、この物件の主導者は内閣官房の有識者会議。その大きな理由が「稼働中の工場」の扱いだった。
世界遺産に物件を登録するためには、推薦物件が各国の国内法で守られている必要がある。日本の場合、文化遺産については文化庁の管轄する文化財保護法がその役割を担っているのだが、橋野高炉跡及び関連施設、長崎造船所の一部、三池炭鉱の三池港、旧官営八幡製鐵所といった8施設はいまも稼働を続けており、文化財という枠に当てはめることができなかった。そこで内閣官房が主導して景観法、港湾法、公有水面埋立法などを組み合わせた新たな枠組みで登録を図った。
こうした意味で、これまでとは異なる新しい価値観からの世界遺産登録に成功したといえるだろう。この世界遺産の意義については内閣官房地域活性化統合事務局の報道資料を抜粋しよう。
■世界史的意義
- 重工業(製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業)は、日本経済の屋台骨を支える基幹産業である。幕末から明治後期にかけて、日本は工業立国の経済的基盤を築き、奇跡とも呼ばれる急速な産業化を果たした。20 世紀初頭には、非西欧地域において、他に先駆け、最初の産業国家として国家の質を変革した。アメリカ軍東インド艦隊の江戸湾来航以降、徳川幕府が開国の方針に改めた後、僅か半世紀で、重工業の急速な産業化を進め、国家の質を変革し、産業国家の礎を築いたことは、技術、産業、社会経済に関わる世界の歴史的発展段階において、極めて、歴史的価値、技術的価値、文化的価値の高い特筆すべき類稀な事象である。
■構成資産
三池炭鉱の中心を担った万田坑の第二竪坑櫓。万田坑や宮原坑で採掘された石炭が製鉄をはじめとする日本の産業革命を支えた
- 萩反射炉
- 恵美須ヶ鼻造船所跡
- 大板山たたら製鉄遺跡
- 萩城下町
- 松下村塾
- 旧集成館
- 寺山炭窯跡
- 関吉の疎水溝
- 小菅修船場跡
- 第三船渠
- ジャイアント・カンチレバークレーン
- 旧木型場
- 占勝閣
- 高島炭坑
- 端島炭坑
- 旧グラバー住宅
海底に眠る石炭を採掘した端島炭坑。通称・軍艦島。2009年に上陸が解禁され、映画『007スカイフォール』『ハシマ・プロジェクト』『進撃の巨人』等のロケ地となり、外国人にも人気が高い
- 官営八幡製鐵所(旧本事務所・修繕工場・旧鍛冶工場)
- 遠賀川水源地ポンプ室
- 三池炭鉱、三池港(宮原坑・万田坑・専用鉄道敷跡・三池港)
- 三角西港
静岡県の韮山反射炉。反射炉とは、光や熱を反射させることで高温を得る装置で、これで鉄を溶かして大砲などを鋳造した。ここで造られた大砲は東京のお台場などに配備された
- 三重津海軍所跡
- 韮山反射炉
- 橋野鉄鉱山・高炉跡