2015年、第39回世界遺産委員会速報!

フォース・ブリッジ

新たにイギリスの世界遺産に登録された全長2.5kmの鉄道橋、フォース・ブリッジ。海に浮かぶ真紅と三角形を連ねたトラス構造が美しい

毎年6~7月に開催されている世界遺産委員会。2015年は6月28日~7月8日にかけてドイツのボンで開催され、今年も新たな世界遺産が誕生した。

今回は新登録の世界遺産の一覧表とその内容、拡大された世界遺産、危機遺産リストの変更点等、第39回世界遺産員会の概要を紹介する。なお、本記事はユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の公式サイトの情報を参考に編集した。

[関連サイト]

新登録の世界遺産は24件、世界遺産総数1031件に!

世界遺産「シンガポール植物園」

シンガポールに誕生したはじめての世界遺産「シンガポール植物園」の進化園。こちらでは地球が誕生して以降の植物進化史を再現している

2015年も新たに世界遺産が誕生した。新登録の世界遺産は24件で、このうち文化遺産が23件、自然遺産はなし、複合遺産が1件となっている。また、3件の拡大・変更が承認された。

これにより世界遺産の総数は1031件となり、そのうち文化遺産が802件、自然遺産197件、複合遺産32件となった。

日本は世界遺産を1件増やしたことで国別世界遺産保有数で13位から11位に順位を上げた。フランスが単独4位、メキシコが単独6位となり、並んでいたドイツが5位、インドが7位に順位を下げた。

また、シンガポールとジャマイカにはじめての世界遺産が誕生した。これで世界遺産条約締約国191か国のうち、世界遺産を保有していない国は28か国となった。

[参考記事]

ユネスコ、世界遺産の破壊を受けてボン宣言を採択

世界遺産「ハトラ」

ISILによって爆破され、ブルドーザーで破壊されたイランの世界遺産「ハトラ」。ISILは現在シリアの世界遺産「パルミラの遺跡」も制圧しており、その破壊が懸念されている

第39回世界遺産委員会は冒頭からISIL(いわゆるイスラム国)に対する強い非難が寄せられた。

ISILは今年に入って文化遺産の破壊を繰り返しており、2月にイラクのモスル博物館の彫刻を鈍器で破壊し、3月にはアッシリアの古都ニルムドをブルドーザーでなぎ倒し、世界遺産「ハトラ」を爆破。5月にはシリアの「パルミラの遺跡」を支配下に収めて爆弾や地雷を仕掛けたとの報道が伝えられた。

さらに世界遺産委員会開幕中の7月3日、ISILはパルミラで高さ約3m、重さ15tに及ぶ石灰岩製の石像「アラート神のライオン像」を破壊する映像を配信した。

21世紀に入って、特に中東で世界遺産の破壊が相次いでいる。タリバンに爆破されたアフガニスタンの「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」、マリのイスラム過激派組織アンサル・ディーンによって破壊された「トンブクトゥ」や「アスキア墳墓」、シリア内戦で砲撃を受けた「古都アレッポ」や「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン」、イスラム教スンニ派組織フーシ派に対する空爆が続くイエメンの「サナア旧市街」や「シバームの旧城壁都市」などが一例だ。

そもそもユネスコはふたつの世界大戦の反省から生まれた組織で、「国際連合教育科学文化機関」の名の通り、教育・科学・文化を普及させて戦争を防ぐことを目的としている。世界遺産活動もその一環なのだが、むしろ世界遺産が戦争に利用されているようにさえ思われる。

こうした危機に際し、1945年にユネスコが設立されて70周年を迎える今年の世界遺産員会で、核となる価値観と指針を見直すために「ボン宣言」が採択された。

ボン宣言では、正義と自由と平和のための文化と教育が人間の尊厳に不可欠であり、すべての国の責務であることを確認すると同時に、世界各地で起こっている破壊行為を非難し、すべての組織に破壊の停止を要求し、全世界に協調を呼び掛けている。同時に、戦争や内戦で破壊された世界遺産はもちろん、4月の地震で多くの建物が倒壊したネパールの「カトマンズの谷」といった自然災害による損壊に対しても、迅速に再建・修復することを確認した。

世界遺産活動とは何なのか? なぜ教育・科学・文化が必要なのか? ユネスコ憲章やボン宣言を見直してその理念を確認してみる必要があるのかもしれない。

■ユネスコ憲章前文(日本ユネスコ協会連盟公式サイトより)
  • 戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。
  • 相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。
  • ここに終りを告げた恐るべき大戦争は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代わりに、無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義をひろめることによって可能にされた戦争であった。
  • 文化の広い普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、且つすべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神をもって果さなければならない神聖な義務である。
  • 政府の政治的及び経済的取極のみに基く平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない。
  • これらの理由によって、この憲章の当事国は、すべての人に教育の充分で平等な機会が与えられ、客観的真理が拘束を受けずに探究され、且つ、思想と知識が自由に交換されるべきことを信じて、その国民の間における伝達の方法を発展させ及び増加させること並びに相互に理解し及び相互の生活を一層真実に一層完全に知るためにこの伝達の方法を用いることに一致し及び決意している。
  • その結果、当事国は、世界の諸人民の教育、科学及び文化上の関係を通じて、国際連合の設立の目的であり、且つその憲章が宣言している国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進するために、ここに国際連合教育科学文化機関を創設する。
ボン宣言は以下からPDFをダウンロードすることができる。

[関連サイト]
The Bonn Declaration on World Heritage(英語版)
Declaration de Bonn sur le patrimoine mondial(フランス語版)