セクシュアルマイノリティ・同性愛/ゲイライフ

祝福感にあふれていたGW・東京レインボープライド(5ページ目)

今月は、東京レインボープライド(パレード&フェスタ)のレポートを中心に、ここ数ヶ月間にわかに活発化しているLGBTムーブメントのことなどをお伝えしたいと思います。今回も長文で恐縮なのですが、よかったら最後までお読みください。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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不可視化されがちな人々のこと

『R/EVOLVE 結婚と平等とピンクマネー』

『R/EVOLVE 結婚と平等とピンクマネー』R/EVOLVE(原題) 2013年/アメリカ/監督:Billie Rain/出演:Maximillian Davis、Lowell Deo、Lil’ Snoopy Fujikawaほか

東京レインボープライドはパレードだけではなく、レインボーウィークの期間中、写真展や映画上映、トークベイントなどもたくさん開催されていて、(とても回りきれなくて残念でしたが)本当にレインボーで素敵なGWだったなあと思いました(レインボーウィークのレポートはこちら

実はそのレインボーウィークで上映されていた『R/EVOLVE 結婚と平等とピンクマネー』という映画をたまたま観て、自分でも不思議なくらいジワジワと…いろいろ考えさせられました。ストーリーはこんな感じです。

舞台は、同性婚が認められそうになっていた頃のワシントン州。もともと保守的だった大手企業が時代の波に乗って同性婚推進キャンペーンに参入し、団体に多額の協賛をすることになったが、会社側は広告のモデルとして「アングロサクソン系の若くて美しい男性2人(ゲイであること以外、極めて普通で健全でクリーンで保守的なイメージ)」を起用するよう命令してきたため、写真を担当する主人公(たぶんヒスパニック系。パートナーがアフリカ系)が「有色人種やゲイ以外のセクシュアリティを排除している」として、仲間とともにこれに激しく抵抗する……

同性婚推進運動に企業が関わるとき、ともすると「支援」の名の下にセクシュアルマイノリティの多様性を排除し(「ありのまま」を許さず)、自社に都合のいいように「利用」することがある(きっとアメリカではあったのでしょう、映画になるくらいですから)という告発でした。言い換えると、商業主義批判(アンチコマーシャリズム、札束で頬を叩くようなことへの抗議)であり、同時に、運動(コミュニティ)に対しては、企業の言いなりになって多様なセクシュアルマイノリティのある部分を切り捨てる(見えなくする)のであれば、それって本末転倒じゃないですか?という問題提起でもあったと思います。

広告写真つながりで思い出したのですが、5年前に勤めていた会社で、ゲイサイトの広告に載せようとしたモデルさんが、エロスが匂い立つようなとびきりのイイ男で、ゴトウ的には超お気に入りだったのですが、社長(女性)にNGをくらってボツになった…という出来事がありました。「一般企業にもアピールするなら、こういうのはダメ、絶対」と(まさに映画と同じで「見えないように」されたのです)。ゲイ雑誌『バディ』の編集をやっていた頃、とあるコミュニティイベントのパンフレットに広告(さわやかな若いイケメンが上半身裸で写っている写真)を載せようとしたら「一般企業に配慮し、モデルの肌の露出を控えめにしてください」と言われたこともありました(ちょっと記憶が曖昧なのですが、たしか乳首見せもNGでした)

映画に描かれたように、アメリカではきっと、有色人種やジェンダークィアな(典型的な男性や女性にあてはまらない)人々が、よりマイノリティで、不可視化されがちなんだと思います。が、日本では少し事情が違っているような気がします。古くから異性装や性別越境に寛容で(『女装と日本人』参照)、女装家やニューハーフの方がTVで活躍し、欧米のようにトランスジェンダーが殴り殺されることもほぼありません。外国人にも優しい国です(たくさんTVで活躍中)。一方で、男性(特に、ゴツかったり、太ってたり、髭面だったり、毛深かったりという、いわゆるイケメンではないタイプ)がホモセクシュアルを匂わすことはタブーとされ、ロコツに嫌悪されてきました(メディアでも、日常的にも嘲笑や罵倒の対象になってきました)

BL(ボーイズラブ)のイメージとは異なるリアルなゲイの多くは、見た目の「男らしさ」を求めていますから、世間の人から見るとイケメンというより野郎くさい(むさ苦しい)感じです。非イケメンなゲイのエロティシズムは、ホモフォビックなストレート男性に「キモい」「ヘンタイ」と攻撃され、ゲイに寛容な女性にすら敬遠されたりしてきました(以前あった「蘇民祭」ポスターの事件のことも思い出してください)。ぼくらはずっと、そうした世間の蔑視や「いじめ」にさらされながら生きてきました。

世間はずいぶんセクシュアルマイノリティに寛容になりましたし、今後も女性(に見える方)や中性的な感じの方、イケメン(に見える方)たちはメディアにもたくさん登場し、脚光を浴び、救われる思いがするでしょう。が、たぶんぼくらがいちばん最後になるのかな…とさびしい気持ちになります。

もっと言うと(これは考えすぎかもしれませんが)、たとえ公に同性婚が認められたとしても、もし万が一、社会がゲイの性的な部分へのバッシングを始めたり、性産業が規制されたりという事態になったとしたら…。さまざまな事情でパートナーを持てず、セクシャルネットワークを拠り所にしている多くのゲイの方たちは、被抑圧感やスティグマを払拭できず、あるいは居場所を失い、孤立し、未来に希望を見出せず、セクシャルヘルスやメンタルヘルスを悪化させ…ということになるのでは?と心配になります。

こちらにも書いた通り、これまでにたくさんの方が命を落としてきました。つい最近も、立て続けにゲイの友人・知人の訃報が届き、なぜその若さで…と、ひどく悲しい気持ちになりました…。

今年のパレードで最も感動した場面のひとつは、本当にたくさんの方たちが「AIDS IS NOT OVER」というプラカードを掲げて歩いていたことでした(そのなかにはきっとHIV陽性の方もいたことでしょう)。ともすると見えなくされ、社会の片隅に追いやられがちな(なかなか声を上げることもできない)人々がいるということ、そして不可視化は命にも関わることなのだということを忘れてはいけないと、あらためて思いました。

ゴトウはそういう、ともすると見えなくされるタイプの方たちを(好きだからということもありますが)できる範囲でサポートしていきたいと思っていますし、それが自分のライフワークなのかな?と今、思い始めています。

ひとつ、いい話を。このGW、二丁目にある夜な夜な男たちが性を解放するお店の周年パーティがありました(この日だけはパーティ仕様でストレートの方なども入店OKでした)。そこに、お店の常連であるゲイの方(とそのアイカタさん)が、実のお父様といっしょに来ていたのです。お父様はそこがどんな場所か承知のうえで「息子に話を聞いていて、一度どんな場所か来てみたかったんですよ。皆さん幸せそうで安心しました。息子をよろしくお願いします」って言ってくださって。さらに、そのお父様は息子さんのアイカタさんを「息子が一人増えた」と喜び、「たとえ別れても俺の息子であることに変わりはない」とも言ってて。思わず涙腺が決壊しました…。そんな理解ある親御さんが世の中に増えてくれたらどんなに生きやすくなることか…。

念のため、誤解を避けるために申し上げると、ゴトウは今のLGBTムーブメントを批判しているわけではありません(現に、さまざまなかたちで応援していますし)。ただ、たまたまレインボーウィークに『R/EVOLVE 結婚と平等とピンクマネー』という映画を観たことがきっかけで、いろんな思い(もしかしたら杞憂かもしれないけど)がフツフツと湧き上がってきて…今ここで書いておかなくては、という思いがつのったのでした。最後まで読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
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