世界遺産「チャムパーサック県の文化的景観にあるワット・プーと関連古代遺産群」

ワット・プーの本殿

ワット・プーの本殿。アンコールの巨大な寺院と比べるとかなり小ぶりだが、柱やまぐさ石(リンテル)に刻まれたヒンドゥー教の彫刻やレリーフはとても美しい

バライからカオ山を望む

バライからカオ山を望む。中央がカオ山で、シヴァの化身であるリンガと同一視された

聖なる山と称えられたカオ山の麓には、5世紀頃から千年以上にわたって古代都市が栄えていた。宗主国はたびたび変わり、宗教もヒンドゥー教から上座部仏教へと変化したものの、カオ山とワット・プーは聖地としてあり続け、多くの人々の信仰を集めてきた。

そして人々は神々=自然に感謝して、山や川・森・田畑・寺・街が一体化した美しい文化的景観を築き上げ、古代から伝わる絶景をいまに伝えている。今回はラオスの世界遺産「チャムパーサック県の文化的景観にあるワット・プーと関連古代遺産群」を紹介する。

 

天・地・人が一体化したワット・プーの文化的景観

本殿からワット・プーを見下ろす

本殿からワット・プー遺跡公園を見下ろす。上のふたつの池が聖なる池=バライ。右のバライから手前に延びる直線が参道と歩廊で、その右の四角い建物が南神殿、左が北神殿

大地の女神ナーン・トラニー

ヒンドゥー教の大地の女神ナーン・トラニー。瞑想中の釈迦が悪魔マーラに襲われた際に髪を聖水に浸して撃退し、釈迦は悟りの人=ブッダとなった。仏教とヒンドゥー教の習合が見られる

ワットは「寺」、プーは「山」を示し、ワット・プーで「山寺」の意味。そしてこの寺はプー・カオ、つまりカオ山という聖なる山の中腹に建てられている。この本殿から望む眺めは格別だ。

視界に広がるのは一面の緑。森の濃い緑や草原の晴れやかな緑、遺跡公園の区画整理された緑に空の青を映す聖なる池の淡い緑。その上を褐色のメコン川が横切り、さらに向こうにはアンナン山脈の山々が緑の稜線を描き出している。とてもやさしい景観だ。

500~1500年前、この山の麓には古代都市が広がっていたのだが、緑に囲まれた絶景はおそらく何も変わっていない。

そして人々はメコン川で獲れた魚やこの大地で採れた米や野菜を食べて子供を産み育て、その恵みに感謝し、寺で神様や仏様に祈りを捧げて生きてきた。チャムパーサックの寺で仏像を眺めていると、仏に祈りを捧げるラオス人たちの真剣さ・純粋さにしばしば心を打たれたものだ。

そうした人々の暮らしも、おそらく何も変わっていない。

 

ワット・プーに描き出されたクメール人の世界観

ワット・プー遺跡公園のフルムーン・ナイト

ワット・プー遺跡公園のフルムーン・ナイト。月明かりとロウソクの灯に浮かび上がる遺跡群がとても神秘的。ワット・プー祭と年に何度かの満月の夜に開催されている (C) VAT PHU-CHAMPASAK-LAOS

十字型テラス横の石像群

十字型テラス横に打ち捨てられている石像群。上の2体は門衛神ドヴァラパーラ、手前の円がヨーニで、かつては穴の部分からリンガが突き出していた

カオ山がいつから聖山として祀られたのか定かではないが、7世紀頃、この地に住んでいたクメール人たちはヒンドゥー教を奉じ、円柱型のこの山をリンガの山=リンガ・パルヴァータと呼んでいたようだ。

リンガは男性器を模した円柱で、最高神シヴァの象徴。その土台はヨーニと呼ばれ、女性器を示しており、こちらはシヴァの妻カーリー(パールヴァティー)の象徴とされる。ヒンドゥー教の寺院ではしばしばヨーニから突き出すリンガが祀られているが、これは性行為を表現しており、私たちの世界が神の母胎にあり、世界の万物を神が創造していることを表している。

そしてシヴァは世界の中心にあるという須弥山(しゅみせん。メール山)に住み、その周囲を聖なる海が囲んでいたという。一説によれば、カオ山はリンガであると同時に須弥山であり、その周囲に聖なる池=バライを造って聖なる海を模したのだとか。

 

ワット・プー本殿の仏像群

ワット・プー本殿の仏像群。ラオスの仏教寺院で見かける仏像はどこかコミカルだ

また、須弥山の近くには女神ガンガーの化身である聖なる川ガンジスが流れており、メコン川がこれを示すともいわれる。そもそも「母なるガンジス」を示すサンスクリット語「マー・ガンガー」が転じて「メー・コン」になったとする説もある。

つまり、ワット・プーとその周辺はこの世界の在り方を示した一種の曼荼羅(マンダラ)のようなものなのだ。そして人々は神によって創られたこの世界に生きることを喜び、神々とともにいることを感じ、その恵みに感謝しながら生きてきた。

この景色をボケーッと眺めていると、そんな気持ちがよく伝わってくるのである。