「工業地域」に住宅は建てられる!?
用途地域一覧
では、「工業」はどうか。工業系は「準工業地域」「工業地域」「工業専用地域」の3つ。都市計画法上では、準工業地域は「主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進する地域」とあり、住宅との相性に大きな問題はなさそうだ。
しかし、工業地域「主として工業の利便を増進するため定める地域とする」は、住居の建設が許されない工業専用地域「工業の利便を増進するため定める地域とする」と、「主として」の有無の違いしかなく、その見分け方が難しいともいえる。
下丸子のマンション群は「工業地域」内
大田区下丸子は、東急多摩川線「下丸子」駅西側一帯に広がる市街地である。西方に多摩川が流れ、対岸(川崎市)に渡る「ガス橋」がかかる。環境、利便ともに良好なロケーションの一画にあたるといえるだろう。かつては大手企業の工場もあり、用途地域ではこの辺り一帯の多くが工業地域に指定されている。ところが工場らしき施設の多くは閉鎖、今世紀に入って次々と大規模マンションに入れ替わった。唯一「キヤノン」があるが、研究開発や管理部門など本社機能の属する事業所として利用されているようだ。
つまり、当該地域に関していえば実態は土地を高度利用し数千もの世帯が暮らす住宅用途として活用されている。用途地域を定めた時点での規制だけが取り残されているわけだ。街づくりの基盤となるものだけに、頻繁に変更できないないのだろう。
時代の流れと用途地域の整合性
そもそも都心の土地活用は、都市計画法ができるずっと前から行われてきた。閑静な住宅街の歴史をたどれば大名屋敷だったという実例も多い。敷地の大きさをいかして、良好な街並みが受け継がれ今に至る。つまり、都市計画の設計指針である「用途地域」は、それに基づいて街並みができてきたのではなく、継承された現況を壊さないためのルールという捉え方も(場所によっては)できる。刷新という点では下丸子の例にもあるように、かつては工場街だった場所がマンション群に生まれ変わる地域も増えてきた。臨海地区なども良い例だろう。
長い目で見れば、現実に即した用途地域に変更がなされていくものと思われる。が、「昔は工業ばかりだった」というイメージが住宅としての相場形成にマイナスに働くことがもしあるとするならば、景観改善による資産価値向上は「思った以上」となるのかも知れない。
【関連記事】
「第一種低層住居専用地域」はなぜ人気があるのか?