2歳児は赤ちゃんを「かわいい」と思う?
ぼくがお世話するんだ!
どうやらこの気持ち、環境や経験とともに芽生えるようです。2歳になったばかりの小さなこどもが、保育園で初めて赤ちゃんに接したときの戸惑い、そして戸惑いを乗り越えて「かわいい」「お世話したい」と思うようになるまでのエピソードをご紹介します。
わたしが保育園で1歳児クラスを受け持ち、新年度がスタートしたばかりの4月の出来事です。この年齢は日々発達し、たいへん変化が大きい年齢ですので、同じクラスでも4月生まれと翌年3月生まれのこどもでは、発達過程がまるでちがうのです。つまり、4月生まれのこどもは、4月に1歳児クラスに入園(または進級)して間もなく誕生日を迎え、2歳になります。活発に走り回れるようになり、少しずつ言葉も出始め、感情も豊かになってきます。でも、気持ちはまだまだ赤ちゃんな部分があり、甘えたいお年頃。一方、同じクラスでも3月生まれのこどもは、つい先月に1歳になったばかりで、まだよちよち歩きだったり、ハイハイしていることもあります。同じクラスのこどもでもこれだけの違いがあるということになるのです。
2歳児、赤ちゃんを踏みつける!?
そんな1歳児クラスで一番のお兄ちゃん、4月生まれの「りょうくん(仮名)」のエピソードです。りょうくんは、4月に入園したばかり。毎朝お母さんとの別れがつらく、いつも泣いてしまう男の子です。一方同じクラスでも3月生まれの「あきくん(仮名)」は、ついこのあいだ1歳になったばかり。0歳児クラスから進級してきました。あきくんはまだハイハイやよちよち歩きをしていて、ときにはぐずったり泣いて甘えたりしている子です。この小さいあきくんに対して、4月にいち早く2歳になったりょうくんは、なんだか日に日に攻撃的な行動をとるようになっていきました。あきくんが泣いたりぐずったりすると、なんと無言で脚を踏みつけるようになっていったのです。
わたしが初めてその光景を目の当たりにしたときは、もちろん驚きましたから、すぐにりょうくんを引き離し「どうしたの?そんなことしたら痛いでしょ!?いけません!」と叱ってしまいました。しかしりょうくんはまだ2歳ですから、どうしてそんなことをするのかなど、説明できるはずもありません。それから、この行為は毎日続きました。
りょうくんは赤ちゃんに対して何かしらの思いがあってしているはずだと、わたしは考えました。ほかの子には一切このようなことはせず、赤ちゃんであるあきくんだけにこのようにしていましたから。それなら、その原因が解消されればしなくなるはず。そのように考えたわたしは、りょうくんの気持ちを想像してみました。
自分より小さい子がいることへの不安
りょうくんにとっては生まれて初めての保育園、そしてクラスには自分より小さい子がいる。赤ちゃんであるあきくんは、まだハイハイしていて、身の回りのこともすべて大人(保育士)が世話を焼き、泣けばみんながあきくんに声をかけ、かまってあげる。そんな光景に、ちょっとだけ大きいりょうくんは、寂しさを感じるのかもしれない。自分が見てもらえなくなる(=愛情を受けられなくなる)という不安や心配があるのかもしれない。家庭の兄弟間でも、下の子が生まれた時に上の子が精神的に不安定になったり赤ちゃん返りすることがある。これと同じことなのではないか……。わたしはりょうくんの気持ちをそのように想像してみました。
赤ちゃんでなく2歳児の方を抱きしめる
そう考えたわたしは、あきくんを踏みつけるりょうくんを叱らないことにしました。踏みつける行動が出た時は、あきくんをかばうよりもむしろ「りょうくーん。おいでー」と優しい表情・口調で呼びかけ、膝に乗せてぎゅっと抱きしめることにしました。「りょうくんも抱っこしてほしいのかな?大丈夫よ。先生、りょうくんもいっぱい抱っこするよ」と語りかけながらたくさん触れ合い、頭や身体をたくさん撫でながら、しばらくの間、お話したり遊んだりして過ごすようにしました。もしわたしの考えが合っていれば、これでりょうくんは落ち着いてくれると信じて、続けました。2ヵ月たったある日の大変身!
そんな対応を続けて、2ヵ月ほどたったころ。ついに変身の時が訪れました!りょうくんの赤ちゃん攻撃は、ピッタリと止みました。さらに驚いたことに、踏みつけ攻撃をやめただけでなく、ほかの誰よりもあきくんをかわいがり、お世話してくれるお兄ちゃんに大変身してしまったのです!お昼寝前のお着替えではあきくんのパジャマを持ってきてあげるし、お散歩にでかけるときはあきくんの靴を用意してあげる。脱いだ後はしまってあげる。もちろん自分のこともちゃんと自分でします。あきくんがぐずってなかなか食事が進まないとき、わたしが一生懸命声をかけ、様子を見ながら少しずつ食べさせ、やっと完食できたときなどは、わたしの耳元で小さな声で「食べたね!よかったね!」と囁いてくれるのです。わたしは感動でニコニコしっぱなしでした。
わたしはりょうくんがますます愛おしくなりました。それだけでなく、不安や心配を克服して見事に育っていく人間の心と身体、その力強いエネルギーを目の当たりにし、2歳のりょうくんから元気をたっぷりもらいました。
こどもの育っていく姿を見守り支える保育の仕事は、やっぱりやりがいのある素敵な仕事だな、と感じた出来事でした!
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