日本で演出を受け、言葉を超えた“日本人の感性”を実感
『二都物語』写真提供:東宝演劇部
「オーディションで『二都物語』『エニシング・ゴーズ』両方の歌を歌って、ほぼ同時に合格しました。『二都物語』のディケンズの原作は以前から知っていて、『レ・ミゼラブル』の時代ですし、とても重い話なので演じていて精神的に大丈夫かな?と思ってたんですけど、共演の井上芳雄さんや健ちゃん(『ボンベイ・ドリームス』でも相手役の浦井健治さん)、今井清隆さん、めぐ(濱田めぐみ)さんといった皆さんが、大先輩なのに家族みたいにかわいがってくださって、お陰様で賑やかにその期間を過ごせました。皆で支え合ってやっていましたね。
音楽もすごくきれいで、私が歌う一曲だけフランク・ワイルドホーンの作曲なのですが、この『Never Say Goodbye』という曲にはまってしまって、マムや友達にも「この曲いいでしょ~」ってメールしたりしていました(笑)。楽し気で、意外ですか? 作品が重かったので、毎日舞台が終わるごとに一度“すぽーん”と役を自分から出さないと、精神的にもたなかったと思います。そういうふうに、仕事とプライベートは別々にしないといけないということを学んだ作品でした」
――舞台人たちの憧れである帝劇という舞台に、新人として上がった気分はいかがでしたか?
「本当に緊張しましたし、私でいいんですかという気持ちももちろんありました。でも、小さいころからのダンスや歌のレッスン、演劇学校でのトレーニング、それらの積み重ねでここに来れたんだなと思いましたし、すばらしい音響の劇場で、大勢のお客様の前で歌わせていただくことで、ここが私の居場所なのだと、一瞬だけでも思えました。自分が一番生き生きできる場がステージなんだと再確認できました」
――『二都物語』の演出は文学座の鵜山仁さんでした。アメリカ人の演出家とは違いましたか?
「アメリカ人の演出家はとにかく思ったことをばーっとおっしゃる方が多くて、かえって意図が分からない部分もあるんです。でも日本人は繊細な表現をして下さるので、分かり易い。鵜山さんもアイディアをきちんと言葉にして伝えて下さるんですが、それが“一味違う”表現なんです。
例えば、井上さんが歌を歌う時に“きらきらしている場所に行くというより、ディズニーランドに行く感覚で”とおっしゃったんですが、それで井上さんの表情が全然変わったんです。一味違う表現だからこそ、こんなに違う表情が引き出されたのかなと感動しました。私はまだ日本語のヒアリングに制約があるので、その点で不安もあったのですが、意外に通じ合える部分が多くて新鮮でしたね。やっぱり、心の中は日本人なのですね」
『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
「『二都物語』とはがらりと違う作品で、リフレッシングでした。音楽も有名で昔からよく聞いていましたし、とてもやりがいがありました。でも私の役はダンスが少なくて、ちょっとさびしかったかな。私は3歳からバレエをやっていたので、ダンスが一番自信を持ってできるんです。歌の方が緊張したり怖がったりしてしまいます。す。今回の『ボンベイ・ドリームス』もあまり踊らない役のようで、ちょっと残念ですね」
――すみれさんはどんな作品がお好きなのですか?
「コメディが好きなのですが、これまで演じてきたのはシリアスな作品が多いですね。『二都物語』もそうですし、その前の『tick tick,boom!』も、亡くなった作曲家さんのお話でした。学生時代にも、鬱病になってしまった人の役を演じたりしていました。でもそういう経験があるからこそ、コメディにはとても興味があるし、どんどんやってみたいですね。海外の映画だとコメディばかり見てますし、バラエティもよく観ています。ミュージカルでもコメディだったら絶対観に行くタイプです。
高校時代に演じた『The Foreigner』という作品(オフ・ブロードウェイ上演の人気コメディ)もすごく好きですね。稽古しながら毎日爆笑していました。シェイクスピアの『十二夜』なども好きです。でも演劇って、シリアスな作品でもどこかに笑える部分が入っているんですよね。『RENT』もそう。そこで観客をリラックスさせてからまた哀しい場面に戻る。ぜひたくさん演じたいです」
――今後はどんな表現者を目指していますか?
「いろんなことをやっていきたいです。舞台ももちろんやりたいですし、トークのお仕事もやりたいし、それプラス、新しいチャレンジも重ねて行きたいです。人間誰しもそうかもしれないけど、何かしら違う空気を体に感じたり、違う世界に入ってみることで、もといた世界により感謝できたり、そこを新しい視線で見たり、よりよく出来るのかなと思います。いろいろチャレンジしていくなかで、それらが繋がっていて、バレエをやっていたから歌にも生きるとか、歌をやっていたからお芝居にも生きるとか、そういうことってあると思うので、いろいろやりたいなと思います」
――バラエティ番組に出ていらっしゃるすみれさんも素敵なのですが、舞台女優としてはもったいないような気もします。もっと舞台のお仕事をなさればいいのに…と。
「私も、舞台のほうが自信はあります。でも、だからこそバラエティをやったりして、トークとか、苦手なところを磨きたいんです。突然台本をいただいても、日本語に自信がないと演技はなかなか難しい。でも今は台本も読めるようになってきましたし、ヒアリングも理解できるようになってきましたので、お芝居、歌、映画、ドラマと幅広くチャレンジしていきたいです」
――ホームグラウンドは日米のどちらとお考えですか?
「アメリカと日本、両方で立っている感じです。この前初めてアメリカのドラマに出演させていただいて、それもあってハワイに帰ったりもしたんですけど、これからも必要とされるときに日本、アメリカを行き来できたらと思います。日本でもこれから、ミュージカル映画や『グリー』みたいなミュージカル・ドラマが生まれたりするんじゃないかな。ぜひそういう場に関わって行けたら嬉しいです」
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ほっそりとした長身ながら、大きく、堂々とした発声がいかにも「舞台人」らしいすみれさん。誰もが親しみを覚えずにはいられないその朗らかさは、『二都物語』『エニシング・ゴーズ』の令嬢役でも発揮され、特に前者では主人公が重大な決断をするきっかけの存在として、大役を果たしていました。日米で道を切り拓きながら、ブロードウェイやプロデュースといった「夢」に少しずつアプローチ中の彼女。インドの新時代、そして希望を象徴するような『ボンベイドリームス』のヒロイン役は、きっとすみれさんにとっても、女優としての新境地となることでしょう。
*公演情報*
『ボンベイドリームス』2015年1月31日~2月8日=東京国際フォーラム ホールC 2月14~15日=梅田芸術劇場メインホール
*次頁で観劇レポートを掲載しました!*