硫化水素の知られざる効果
硫化水素(H2S)と言えば、「卵の腐敗臭」と「毒ガス」というキーワードがまず思い浮かびます。体の中でいろいろな細胞の働きをコントロールしている「生理活性物質」とはつながりそうにありませんが、体内でも自然に作られるガスなのです。ガス分子は究極の極小分子で、たんぱく質を始めとする生体高分子のすき間に入り込み、結合することによってその機能を変化させます。例えば、酸素は血液で体中に運ばれますが、これは赤血球内のタンパク質であるヘモグロビンに酸素ガスが結合することによって、その機能を変えながら酸素が輸送されているのです。
ニンニク・ニラ・ネギなどに豊富に含まれる硫黄化合物(硫化アリルやアリシン)は体内に摂取された後、硫化水素を発生する有効成分となります。硫化水素の供給源としては、体内の酵素によって生産されるものと、腸内細菌によって生産されたものが考えられています。
血管内皮に存在する酵素によって硫化水素が作られた場合、血管平滑筋を弛緩させ、その結果血流増加効果が発生し(参考資料1)、また活性酸素による心筋細胞の老化を抑制する治療効果があることも発見されています(参考資料2)。そして、イギリスの研究者たちは、人間の細胞内に存在しエネルギー生成の役割をつかさどるミトコンドリアを保護することで細胞の活力を高める役割があることも発見しています(参考資料3)。
腸内細菌によって作られた場合は、粘膜上皮がバリアーとなるため消化管からは吸収されず、血中にはほとんど入らないようです(おなら由来の硫化水素は体には吸収されないのです)。
硫黄化合物を多く含む野菜
硫黄化合物は、主にアブラナ科の野菜に含まれる成分で、タマネギやニンニクなどの独特な強い刺激臭を持つ野菜や、大根などの辛味成分に含まれています。硫黄化合物を豊富に含む食品には、タマネギやニンニク、大根の他にも、ニラやネギ、ブロッコリー、カブ、ラッキョウなどがあります。
ニンニクを食生活に取り入れるには、バランスのとれた献立に、少しずつニンニクをプラスするのがコツです。中華料理や薬膳鍋に欠かせないニラやネギは、香味野菜として独特の香がありいろんなお料理のアクセントになります。
さむい冬を、血液循環効果のある「おなら野菜」で体ポカポカ乗り切りましょう。
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おまけ:おならのにおい対策
迷惑もののおならはガマンしてもダメのようです。うまくコントロールするためには、腸内環境をできるだけ良好することが効果的です。肉食などに偏った食事は、腸内環境を悪化させやすいので、野菜をバランスよくたっぷり取り入れながら、さらに善玉菌を増やす工夫をすれば、腸内環境は加速度的に良くなるでしょう。■関連記事
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※体内で微量生成される硫化水素は、種々の効果を持っていますが、大量の硫化水素は「毒ガス」ですので、充分ご注意ください。
<参考資料>
1. 硫化水素(H2S)の生理機能と医療応用
〔生化学 第85巻 第2号,pp.63―75,2013〕
2. 硫化水素が心不全を改善する仕組みを解明
~心不全の治療薬開発に期待~
平成24年7月4日 熊本大学
3. a novel mitochondria-targeted hydrogen sulfide donor, stimulates cellular bioenergetics, exerts cytoprotective effects and protects against the loss of mitochondrial DNA integrity in oxidatively stressed endothelial cells in vitro. Nitric Oxide, 41, 120-130. エクセター大学(英)