労務管理/就業規則の基礎知識

退職願・退職届・辞表、違いが分かりますか?

退職する際には「書面により退職の意思表示をすること」と、就業規則等で規定している企業が多いことでしょう。皆さん、実務上区別せず、退職「願」・退職「届」を混合して取り扱っていませんか? 実は表現方法の違いにより法的な意味が異なります。後日のトラブル回避のためその違い、退職の法的ルールを本記事で理解しておきましょう。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

退職「願」・退職「届」を混合していませんか?

退職願・退職届、似ていますが法的意味が異なります

退職願・退職届、似ていますが法的意味が異なります

退職するときは「書面により退職の意思表示をすること」と、就業規則等で規定している企業が多いことでしょう。法的には「書面」でなく「口頭」でも有効ですが、言った言わない等のトラブルを避ける意味で「書面」による意思表示のルールを徹底しておきたいものです。

ところでこの「書面による意思表示」、ちょっと注意が必要です。皆さん、実務上区別せず、退職「願」・退職「届」を混合して取り扱っていませんか? 実は表現方法の違いにより法的な意味が異なります。

実際の企業実務では、退職までの流れを会社側と従業員で話し合って合意退職(円満退職)することが多いですね。こうした状況下では、表現方法の違いにあまり神経質になる必要はないのかも知れませんが、後日のトラブル回避のためその違い、退職の法的ルールを本記事で理解しておきましょう。

2つに区分される退職の意思表示

労働者からの退職の意思表示は次の2つに区分することができます。

1.「退職届」・「辞表」
労働者が「一方的に解約の意思を通告するもの」です。一般的には、「退職届」を使いますが、経営者や役員など一定の役職者が会社を辞める場合には、文言として「辞表」が使われます。

2.「退職願」
使用者の承諾を前提条件とする「労働者が使用者に合意解約を申し入れるもの」です。

企業実務では「退職願」が一般的に使用される!

実際の企業実務では、労働者からの退職の意思表示は、一般的に2.の「退職願」が使用されることが多いですね。退職の意思表示は「合意解約の申し入れ」と解釈される傾向にあるからです。また、文言上1.の「退職届」や「辞表」となっていても実務上「一方的な解約意思の通告」ではなく、「退職願」=「合意退職の申し入れ」として取り扱っている場合も多く見受けられるところです。

なお、退職「願」は合意退職の申し入れですが、一方で労働者側に強い退職の意思があるのであれば、その意思を明確に記載した退職「届」として提出することが必要です。

一度出した退職届・退職願を撤回できるか?

では次に一度出した退職届・退職願を撤回できるかどうかについて解説します。特に区別せず取り扱っている場合、臨機応変で対応している企業が多いことでしょう。そもそも撤回の可否はどうなっているのでしょう?

1.退職「届」は撤回できない

退職「届」は、相手方に到達した時点で意思表示が完了し撤回はできないと考えられています。従って会社側が承諾したかどうかに関係なく、受理された時点で退職が確定します。一方的に退職の意思を表示したわけですから受理=退職、となるわけです。

2.退職「願」は撤回できる

これに対し退職「願」は、労働者が自らの意思に基づき労働契約の解約を申し入れる書面です。会社がこれに応じた場合に退職が成立(合意解約)します。従って会社側で応じた意思がその労働者に到達した時点で、退職が成立すると考えられています。

裁判例を見てみると、「人事部長など使用者側で承諾する職務の者が退職を承諾し、その意思が当該労働者に到達するまでの間は、使用者に不測の損害を与えるなど, 信義則に反する事情がないかぎり、原則として撤回が可能である」と考えられています。

従って、一度出した「退職願」を撤回しようとする場合には、至急にかつ確実な方法(書面等)で退職願を撤回する意思を伝えなければならないことになります。企業実務では、願が出された場合、慰留をして思いとどまってもらうこともありますね。こうしたことから、「退職願」が一般的に使われているのです。

次のページでは、退職に関する法的ルールを解説しています。
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