ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年11~12月の注目!ミュージカル(2ページ目)

深まりゆく秋の空気に冬の寒気が感じられるようになってきました。人恋しい季節には、ロマンティックなミュージカルはいかがでしょうか。今回は『Onceダブリンの街角で』『スリル・ミー』『BEFORE AFTER』『コンタクト』『マザー・テレサ 愛のうた』『金魚鉢』『bare』『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』をご紹介します。開幕後は随時観劇レポートも追記していきますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

【『bare』観劇レポート】

『RENT』よりも青く、
『春のめざめ』よりも“今”。
新たな青春ミュージカルの傑作、誕生の瞬間

『bare』

『bare』撮影:森弘克彦

筆者が観た日のキャスト(ダブルキャスト)は辛源さん(ジェイソン)、岡田亮輔さん(ピーター)、ラフルアー宮澤エマさん(アイヴィ)、谷口ゆうなさん(ナディア)、神田恭兵さん(マット)。“アメリカの高校”の一般的なイメージとは異なり、厳格なカソリックの教義が絶対的な寄宿制高校を舞台に、ジェイソンとピーターは罪悪感にとらわれながら「秘密の恋」を育みます。

先に言い寄ったのは優等生で、女の子たちの憧れの的でもあるジェイソンの方ですが、親の期待や将来を考えると、「罪悪」である同性愛を公表するわけにはいかない。「公表しよう」と訴えるピーターを避けるあまり、やはり容姿に優れ、異性にモテモテであるにも関わらず満たされない日々を送るアイヴィに引き寄せられ、ついに一線を越えてしまいます。
『bare』

『bare』撮影:森弘克彦

アイヴィにとってはついに見つけた「真実の愛」でも、ジェイソンにとっては一夜の過ち。それは思わぬ結果を引き起こし、それは彼ら自身、そして周囲の人々を悲劇の渦へと巻きこむことに……。
『bare』

『bare』撮影:森弘克彦

舞台はこの「一夜の過ち」以降、徐々に緊迫。順風満帆、無邪気でさえあったジェイソンは転落の予感におののき、ピーターは失意の中で心を閉ざす。アイヴィも夢見たことがすべて壊れて行く、と虚空に思いをぶつけます。それぞれの場面での辛源さん、岡田さん、ラフルアーさんの赤裸々な表現が素晴らしく、観ていて息が苦しくなるほど。神田さん、谷口さんはアップテンポのナンバーでも口跡が明瞭で、彼らが抱えるコンプレックスもしっかりと伝わり、作品世界の陰影がより濃いものになっています。

『bare』

『bare』撮影:森弘克彦

また本作はピーターの母クレア、校長である神父、演劇部顧問であるシスター・シャンテルという大人たちを、通り一遍の「無理解な人々」ではなく、それぞれに哀しみを背負い、また分別も知恵もありながら若者たちを止められないやるせなさを携えて描いている点も特徴。特に息子がゲイであることに長年気づきながらそのことに蓋をしてきた母クレアの心情が痛みを持って語られることで、ドラマにより奥深さと普遍性がもたらされています。3人を演じる(順に)伽藍琳さん、阿部裕さん、小野妃香里さんがそれぞれに印象的。

細かい点では場面の緩急など、さらに素晴らしいものになる余地もあるものの、出演者からタイトル通りの“bare”な芝居を引き出した点で、初演出にして十分に魅力的な舞台を創り上げた原田優一さん。カーテンコールで辛源さんが「こんなに皆で同じ思いを共有し、稽古できた作品も久しぶりでした。ぜひ再演を」と言っていたことからも、彼の「稽古場運営」が役者の意欲を掻き立てるものであったことが窺えます。『RENT』よりも青く、『春のめざめ』よりも“今”。日本の観客にも愛される、新たな青春ミュージカルが誕生した瞬間と言えるでしょう。


【Pick of the Month NOVEMBER】

Onceダブリンの街角で

11月27日~12月14日=六本木EXシアター
舞台写真はすべて北米ツアー版より。Stuart Ward and Dani de Waal from the ONCE Tour Company ? Joan Marcus

舞台写真はすべて北米ツアー版より。Stuart Ward and Dani de Waal from the ONCE Tour Company (C) Joan Marcus

【見どころ】
世界的なヒット映画『Once ダブリンの街角で』(2000年)を舞台化し、2008年度のトニー賞を8部門制覇したミュージカル『Once』。その全米ツアーカンパニーが待望の来日公演を行います。

舞台はダブリン。半年前の失恋を引きづり、人生に希望の持てない男「Guy」とチェコ移民の若い女「Girl」が出会い、それから数日間のうちに彼は人生を取り戻す。けれどそれは互いのほのかな思いに気づき、決断を下すまでの時間でもあった……。

友情と愛情のはざまを揺れ動く繊細な物語は、およそ大劇場でのミュージカルには似つかわしくない題材ですが、舞台版の演出家ジョン・ティファニーは物語をアイリッシュ・パブの中で展開させ、パブ独特の親密さ、アコースティックな音楽を活用することでみごとに表現。まるで1メートルの距離で主人公たちの心模様を追っているような心持ちにさせる演出が、華やかなミュージカルに慣れたブロードウェイの観客には「革新的」と映り、大絶賛に至ったのでしょう。

切なさと人恋しさに満ち、観劇後はきっと優しい気持ちに包まれるミュージカル。主人公たちの一瞬の心の機微も見逃さないよう、なるべく前方の席から見守ることをお勧めします。また、舞台上のパブは日本公演でも開演前と幕間に実際に営業し、ビールなどを販売。途中からアンサンブル・キャストによる演奏も始まりますので、できれば開場時間にあわせて到着しましょう!

*次ページでロンドン版&来日版『Once』観劇レポートをご紹介します!

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 9
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます