【『bare』観劇レポート】
『RENT』よりも青く、
『春のめざめ』よりも“今”。
新たな青春ミュージカルの傑作、誕生の瞬間
『bare』撮影:森弘克彦
先に言い寄ったのは優等生で、女の子たちの憧れの的でもあるジェイソンの方ですが、親の期待や将来を考えると、「罪悪」である同性愛を公表するわけにはいかない。「公表しよう」と訴えるピーターを避けるあまり、やはり容姿に優れ、異性にモテモテであるにも関わらず満たされない日々を送るアイヴィに引き寄せられ、ついに一線を越えてしまいます。
『bare』撮影:森弘克彦
『bare』撮影:森弘克彦
『bare』撮影:森弘克彦
細かい点では場面の緩急など、さらに素晴らしいものになる余地もあるものの、出演者からタイトル通りの“bare”な芝居を引き出した点で、初演出にして十分に魅力的な舞台を創り上げた原田優一さん。カーテンコールで辛源さんが「こんなに皆で同じ思いを共有し、稽古できた作品も久しぶりでした。ぜひ再演を」と言っていたことからも、彼の「稽古場運営」が役者の意欲を掻き立てるものであったことが窺えます。『RENT』よりも青く、『春のめざめ』よりも“今”。日本の観客にも愛される、新たな青春ミュージカルが誕生した瞬間と言えるでしょう。
【Pick of the Month NOVEMBER】
『Onceダブリンの街角で』
11月27日~12月14日=六本木EXシアター舞台写真はすべて北米ツアー版より。Stuart Ward and Dani de Waal from the ONCE Tour Company (C) Joan Marcus
世界的なヒット映画『Once ダブリンの街角で』(2000年)を舞台化し、2008年度のトニー賞を8部門制覇したミュージカル『Once』。その全米ツアーカンパニーが待望の来日公演を行います。
舞台はダブリン。半年前の失恋を引きづり、人生に希望の持てない男「Guy」とチェコ移民の若い女「Girl」が出会い、それから数日間のうちに彼は人生を取り戻す。けれどそれは互いのほのかな思いに気づき、決断を下すまでの時間でもあった……。
友情と愛情のはざまを揺れ動く繊細な物語は、およそ大劇場でのミュージカルには似つかわしくない題材ですが、舞台版の演出家ジョン・ティファニーは物語をアイリッシュ・パブの中で展開させ、パブ独特の親密さ、アコースティックな音楽を活用することでみごとに表現。まるで1メートルの距離で主人公たちの心模様を追っているような心持ちにさせる演出が、華やかなミュージカルに慣れたブロードウェイの観客には「革新的」と映り、大絶賛に至ったのでしょう。
切なさと人恋しさに満ち、観劇後はきっと優しい気持ちに包まれるミュージカル。主人公たちの一瞬の心の機微も見逃さないよう、なるべく前方の席から見守ることをお勧めします。また、舞台上のパブは日本公演でも開演前と幕間に実際に営業し、ビールなどを販売。途中からアンサンブル・キャストによる演奏も始まりますので、できれば開場時間にあわせて到着しましょう!
*次ページでロンドン版&来日版『Once』観劇レポートをご紹介します!