液状化現象により隆起した下水道のマンホール
今回の大震災は「地震災害」「津波災害」、そして「原発事故を起因とする放射能災害」による複合的な災害とされています。特に巨大津波による被害は甚大だったため、防潮堤の新設や高台移転のための住宅地のかさ上げなど、行政を挙げて津波対策が優先的に行なわれています。
しかし、震災被害に苦しんでいるのは津波や放射能災害の被災者ばかりではありません。自宅が地盤の液状化で傾いたり沈下した人も大勢、苦しんでいます。液状化現象は9都県・80市町村区で発生し、合計およそ2万7000棟が被災しました。その中でも千葉県浦安市や千葉市など、東京湾沿岸部の埋立地では下水道や道路、宅地を含めた周辺地域で広範囲に液状化現象が発生しました。下水道のマンホールが隆起した映像をテレビで見るたびに、その衝撃の大きさを感じずにはいられませんでした。
にもかかわらず、液状化の被害者に対する救済の手は十分に差し伸べられていない印象です。当然、被害住民の怒りは高まるばかりです。そして、その怒りは司法の場へと持ち込まれ、浦安市の液状化をめぐっては地域や分譲会社が異なる4件の訴訟が起こされました。236人の被災者(原告)が自らの主張を訴え、現在も裁判所で争っています。
そこで、本稿では10月8日に東京地裁から出された一審判決の内容を総評し、併せて、液状化被害に遭わないための手順をご紹介します。
「液状化被害の発生は予見できなかった」として住民敗訴/東京地裁
まず初めに、各種報道から当該訴訟の内容を整理すると、訴えを起こしたのは浦安市の住民36人で、1981年に分譲住宅地を開発・販売した三井不動産とグループ会社を相手取り、総額およそ8億4200万円の損害賠償を求めました。JR京葉線「新浦安」駅からほど近い住民たちの居住地では、先の大震災によって液状化現象が発生し、その結果、自宅は傾き、水道管やガス管は寸断されて不便な生活を長期間、強いられました。そこで、住民たちは「被害を予測できたのに地盤改良工事を施さなかったのは不法行為」と訴え、2012年、同地を埋め立てて住宅を販売した三井不動産らを提訴しました。
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利を侵害する行為のことです。たとえば危険ドラッグを吸引して自動車を運転し、交通事故を起こすような行為が典型例として挙げられます。また、殴られて負傷した場合や放火された場合なども不法行為が問題となります。ただ、民法では不法行為の成立要件を定めており、以下の5つの要件に当てはまる必要があります。すべて原告側が立証しなければなりません。
<不法行為が成立するための5つの要件>
- 加害者に故意または過失が存在する。
- 加害者に責任能力がある。
- 権利が侵害されている(違法性がある)
- 損害が実際に発生している。
- 加害行為と発生被害の間に因果関係がある。
こうしたハードルの高さが被害住民の行く手を阻んだといえそうです。東京地裁での一審判決は住民の敗訴となりました。裁判長は「東日本大震災の長周期地震動による被害は、その当時、想定されていなかった」と判断し、「液状化被害の発生は予見できなかった」と原告住民の請求を棄却しました。
これに対し、原告側は「住宅は生涯で一番高い買い物。売る側にはそれだけの社会的責任や道義があると思う」。また、「個人的には承服しかねる内容だ。すべてが不満」と述べており、控訴も検討しているようです。読者の皆さんは、この判決をどのようにお感じでしょうか?――
私、個人的には「仕方ない」というのが率直な感想です。財産権が侵害されているのは疑う余地もありませんが、過失までは問えないと考えるからです。1981年といえば、阪神淡路大震災(1995年)が発生する前でもあります。裁判長の「基礎工事は当時の知見で合理性がある」という判断は説得力があります。被害住民の気持ちは察するに余りありますが、冷静な目で客観的に見てみると、仕方ないと感じます。
とはいえ、悲劇が繰り返されてはなりません。同じ憂き目に遭わないためにも、次ページでは液状化対策について解説します。